世界卓球団体戦、男子準決勝で9連覇中の中国に惜敗 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)は8日、中国・成都で男子準決勝が行われ、世界ランク3位の日本は同1位の中国に2-3で惜敗した。シングルス世界ランク4位のエース・張本智和(…

世界卓球団体戦、男子準決勝で9連覇中の中国に惜敗

 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)は8日、中国・成都で男子準決勝が行われ、世界ランク3位の日本は同1位の中国に2-3で惜敗した。シングルス世界ランク4位のエース・張本智和(IMG)は、同1位・樊振東、同11位・王楚欽から2勝。2大会ぶりの決勝進出は逃したが、世界に衝撃を与えた。日本のために死力を尽くした19歳。激闘を終えた直後、帰化選手として日本への想いを明かした。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ベンチから敗戦を見届けた。最終の第5試合で戸上隼輔がストレート負け。張本は立ち上がり、拍手を送った。2歳年上の全日本王者の肩を叩く。全力を尽くした仲間を労った。

「いざ負けてみると、やっぱり悔しさが強い。この舞台で、このチームで戦ったからできたプレー。相手が世界最強だから良いプレーができた。中国選手に勝てたことは凄く嬉しいです」

 19歳の魂から炎が噴き出す2試合だった。先勝を許した後の第2試合。張本は王と対峙した。第1Gは8-11で落とし、母国のストレート勝ちを期待する中国ファン。しかし、強打のフォアハンドを浴びせ、相手のスマッシュには冷静にレシーブで対応した。第2Gは11-8、第3Gは11-6で逆転。第4Gは8-9から同点に追いつき、体をのけ反らせながら絶叫するハリバウアーを炸裂させた。逆転勝ちを決めた瞬間、仰向けに寝転んで天井に拳を突き立てた。

 第3試合は、及川瑞基が世界ランク2位・馬龍に1-3の逆転負け。負ければ敗退が決まる第4試合。立ちはだかったのは、世界王者に君臨する樊だ。日の丸を背負うエースは、待ち望んだかのようにコートへ入る。ここから歴史的激闘が始まった。

 世界最高レベルの技の応酬。台上に火花が散った。ゲームカウント1-2で迎えた第4G、5-2の場面。張本は相手の強打に後退させられた。左右に振り回されても拾い続ける。ロビングから鋭いバックハンドで反撃。徐々に前陣に戻ると、樊も乗ってきた。高速ラリーに観衆は熱狂。最後は張本が失点し、後ろ向きに崩れ落ちた。

 ラリー数は32本。完全アウェーの観客から2人に称賛の拍手が降り注いだ。

 最終Gも11-9で奪い、またも雄叫びとともに背中から倒れこんだ。力も、技も、声も出し切った。それでも、無念の準決勝敗退。銅メダルでは笑顔になれなかったが、9連覇中の絶対王者から衝撃的2勝で世界を驚かせた。

「内容も素晴らしかったと思います。中国選手にストレートで勝つことはほぼ不可能ですけど、特にいい戦術もなく、最後はお互いの意地比べ。そこで勝てたのは何よりも自信になりました」

「帰化選手」の境遇に対する本音「最初はちょっとつらかったけど…」

 両親は中国・四川省出身。父はプロ選手として活躍し、1990年代に日本へ移り住んだ。自身は宮城・仙台市で生まれ、ラケットを握り始めたのは2歳の時。幼い頃から全国大会で活躍し、11歳を前にした2014年の春、5歳下の妹・美和とともに日本へ帰化した。

 近年、多様性の流れが加速してきたとはいえ、これまで風当たりが強くなかったわけではない。「最初は別に何も気にしていなかった」と外野の声に無関心。しかし、活躍とともに少しずつ名前が売れ、「15、16歳の頃」にはネット上のコメントに傷つく瞬間もあった。

 ただ、今は違う。自身のルーツとなる国と激闘を繰り広げた試合直後、相対する記者の目を真っすぐと見つめ、「帰化選手」の境遇に対する本音を明かした。

「実際に自分と接してくれた方で、嫌なことを言って来た人は一人もいません。幼稚園から卓球を始めて、出会った選手、スタッフの中で嫌だった人は一人もいないです。今ではネットでそういうことがあることは、仕方ないと思っています。

 もし、自分がもともと日本人だったとしても、何か言われることはあるでしょうし、親が日本人であってもあると思います。最初はちょっとつらい気持ちがありましたけど、どんなトップ選手でもあることなので、今は嫌なことは全くないです」

 傷ついた時期は、「試合に負けるよりはマシ」と意識を卓球台にだけ向けた。周りから可愛がられるちょっといたずらっぽい性格。「日本の好きなところ」を問われると、冗談を交えながら笑った。

「やっぱり、みんな優しいですね。直接、嫌なこと言われたことは本当に一回もないですよ。まあ、裏ではわからないですけどね(笑)。みんな最初から温かい気持ちで接してくれる。僕の親が中国人だと全く感じないくらいスムーズに生活してこられた。本当に温かい国だと思います」

同じ境遇の子どもたちにメッセージ「自分が正しいと思うことを一生懸命に」

 鬼神のごとく気迫を出して戦ったコート上とは一変。同じような境遇で悩んでしまう子どもたちへ、柔和な口調でメッセージを送ってくれた。

「ジェンダーのことだったり、いろんな『人』『事』を国際的にもどんどんと受け入れてもらえる中で、そういうことを認めていない人もまだまだいます。でも、気にせず、自分が納得して気持ちよく過ごすことが大切。自分が正しいと思うことをすればいいと思います。

 何をしても言ってくる人もいます。例えばですが、挨拶をしただけでも『挨拶してくるな』と言う人もいる。自分が100%良いことをしても、悪いことを言う人がいる。本当に気にせず、自分が正しいと思うことをしっかり一生懸命頑張ればいいんです」

 世界一を目指し、努力を重ねた時間に偽りはない。チーム最年少ながら頼もしさを存分に発揮し、仲間と感情を共有した。日本の勝利のために死力を尽くしたことは誰にも否定できない。

 ともに戦ったメンバーを横目に言った。

「本当に頼もしいチームメートで、史上最高に良いチーム。世界チャンピオンにはなれなかったけど、このチームで戦えて嬉しかった。またリベンジできるように頑張りたい。そのために一生懸命、練習するしかないです。やっぱりプレーもみんなに気に入ってもらいたいし、人間性でもみんなに認めてもらえるような選手になりたい。模範となれるように頑張りたいと思います」

 汗だくになったユニホーム。左胸には、日の丸が誇らしげに輝いていた。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)