南アフリカラグビー協会は12日、スプリングボックス(南ア代表)の新しいヘッドコーチに、昨季まで神戸製鋼コベルコスティーラーズで指揮を執っていたアリスター・クッツェー氏(52歳)を選任したと発表した。非白人の南ア代表ヘッドコーチは、2011…

 南アフリカラグビー協会は12日、スプリングボックス(南ア代表)の新しいヘッドコーチに、昨季まで神戸製鋼コベルコスティーラーズで指揮を執っていたアリスター・クッツェー氏(52歳)を選任したと発表した。非白人の南ア代表ヘッドコーチは、2011年ワールドカップで采配を揮ったピーター・デヴィリアーズ氏に次いで2人目。4年契約で、王座奪還を狙う2019年ワールドカップ日本大会もクッツェー体制で挑む。

 スプリングボックスは、昨年のワールドカップで格下と思われた日本代表相手にまさかの敗北を喫し、その後、立ち直って4強入りしたが準決勝で敗れて優勝を逃したため、4年間指揮を執ってきたハイネケ・メイヤー氏が責任をとって辞任した。それから新しい代表ヘッドコーチが発表されるまで4か月もかかったのは、後任候補として有力視されていたクッツェー氏は神戸製鋼にとっても必要な人物だったからに違いなく、このたび、コベルコスティーラーズ退団が認められて、クッツェー氏の南ア代表ヘッドコーチ就任が正式に発表された。

「とても光栄です。我々の情熱的なファンは当然、最高の結果を要求するため、責任の大きさを感じています」と語った新ヘッドコーチ。「我々の国では、ラグビーは人々の心を燃え立たせる。代表チームはすべての国民を元気づけ、若いラグビー選手たちはみな、いつかスプリングボックになることを切望する。私は、スプリングボックスのコーチをするということは、献身、忍耐、そしてハードワークが必要であることをよくわかっています。非常に興奮しており、この機会を与えていただいたことを感謝します」

 クッツェー氏は選手時代にスクラムハーフとして活躍し、非白人(黒人や、カラードといわれる混血の人など)で編成された南ア代表のキャプテンを務めたことがある。指導歴は21年。2000年に南ア代表のアシスタントコーチを務め、翌年はイースタン・プロヴィンスのヘッドコーチに就任し、地区代表レベルで初の黒人指揮官となったことで人種の壁を乗り越えたといわれた。2004年に再び南ア代表のコーチングスタッフとなり、当時のヘッドコーチだったジェイク・ホワイト氏を4年間支えて2007年ワールドカップ優勝に導いた功労者だ。その後、ウェスタン・プロヴィンスとストーマーズでヘッドコーチを兼任するようになり、国内最高峰大会のカリーカップで2回優勝を遂げる。6年間指揮したスーパーラグビーで栄冠を手にすることはできなかったものの、同大会で準優勝した2010年に南アの年間最優秀コーチ賞を受賞している。そして、神戸製鋼で手腕を発揮したのはわずか1シーズンだけだったが、2015-2016トップリーグでは4位という成績だった。

 ラグビー大国でトップの重責を担うため、厳しい見方をする人も少なくない。「ストーマーズで指揮した経験とスプリングボックスのアシスタントコーチを務めたことがあるからといって、彼は世界で10本の指に入るほどの優秀なコーチではない」と早くも批判的な声が上がっている。ストーマーズをディフェンスの強いチームにしたが、攻撃力の低さは改善できず、また、ノックアウトステージで勝たせることができなかったことも、不安要素となっているのかもしれない。
 彼を支える南ア代表のFWコーチはヨハン・ファンフラン氏が留任し、BKコーチには元セブンズ南ア代表主将で現在はスーパーラグビーのキングズでBKコーチを務めているムズワンディル・スティック氏が選任された。

 世界の頂点を狙うスプリングボックス(現世界ランキング3位)を強くすることはクッツェー新ヘッドコーチにとって最大の使命だが、南アラグビー協会は代表チームに非白人選手を増やすことも重要な任務として期待している。人種差別問題を抱えた同国で白人スポーツとされたラグビーは、いまや黒人やカラードの間でも多くの人に愛されるようになった。しかし、南ア国民の9割が非白人であるのに対し、ラグビー南ア代表の大半は白人であるため、非難の声は根強く、政治的圧力がのしかかっている。
 昨年のワールドカップスコッド32人のうち、非白人選手は9人のみだった。しかし、南アラグビー協会は、3年後の2019年ワールドカップでは南ア代表スコッドの50%を非白人にする方針で、クッツェー ヘッドコーチにとっては大きな難題である。
 自身が指揮したストーマーズは、拠点地域が人種に関係なくラグビー熱が高いということもあって才能ある黒人、カラードの選手が多く、事実、先週末にサンウルブズを圧倒したストーマーズの半数は非白人だったが、国代表は特別な存在であり、誇り高きスプリングボックスの選考ハードルを下げることは絶対に許されない。

 ヴィクター・マットフィールド、ジャン・デヴィリーズ、フーリー・デュプレアといった、主将を務めた偉大なラグビーマンたちが代表から引退した。スプリングボックスはまさに、分岐点にある。
 6月のアイルランド戦で初采配を揮うクッツェー ヘッドコーチが、どんなメンバーを選出するかも注目される。