2022スーパーGTの第7戦は、年に一度の九州開催。10月1日・2日、大分県・オートポリスを舞台に、GT500クラスではホンダ、トヨタ、日産の3メーカーがマシンを仕上げて乗り込んできた。 オートポリスを終えれば、次は最終戦を残すのみ。ここ…

 2022スーパーGTの第7戦は、年に一度の九州開催。10月1日・2日、大分県・オートポリスを舞台に、GT500クラスではホンダ、トヨタ、日産の3メーカーがマシンを仕上げて乗り込んできた。

 オートポリスを終えれば、次は最終戦を残すのみ。ここでの結果によって年間チャンピオン争いの最終候補が決まるため、特にランキング下位のチームにとっては"ラストチャンス"となる。シリーズ後半戦は日産Zが強さを発揮するなか、意地を見せたのはホンダNSX-GTだった。



ホンダNSX-GTが今季ようやく強さを発揮した

 ホンダは今シーズンから新しく発表された市販車のNSXタイプSをベースにした車両に変更し、さらなる戦闘力向上を図った。しかしいざフタを開けてみると、6戦を終えてホンダ勢が主役となったのは、ナンバー8のARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)が制した第2戦・富士の1度だけだった。

 しかもその富士のレースですら、決勝はアクシデントによって規定周回の半分強で終わってしまったほか、トップを走っていたトヨタGRスープラの2台が相次いでペナルティとなり、3番手にいた8号車が繰り上がりで優勝したもの。正直、実力で勝ち取ったとは言いきれない内容だった。

 日産の新型Zが快進撃を見せるなか、思うように好結果を残せていないホンダ勢。次第にパドックでも「今年のホンダは劣勢なのか?」という見方をする関係者も少しずつ増えはじめていた。

 ただ、ホンダ陣営のラージプロジェクトリーダー(LPL)を務める佐伯昌浩は、今シーズンの流れを冷静に分析していた。

「シーズンの最初のほうから『今年は後半戦が勝負』と考えていました。特に鈴鹿と富士は日産Zが速く、強くなっている印象があり、前半戦はこのふたつのコースで交互に開催されるスケジュール(第2戦&第4戦=富士、第3戦&第5戦=鈴鹿)だったので、前半戦は(ホンダの)みんなでがんばって少しでもポイントを稼いでいこうと話していました。

(第5戦の鈴鹿を終えて)みんなポイントを取りこぼすことなくレースができていた。なので、このポイント差であれば後半戦の第6戦・SUGO、第7戦・オートポリス、第8戦・もてぎで逆転は可能だなと考えていました」

逆転で王座を奪い取るには?

 しかし、その目論見が大きく外れてしまったのが、前回の第6戦・SUGOだ。佐伯LPLの睨んだとおり、SUGOに入るとホンダ勢は速さを発揮し、予選でも上位につけることができた。だが、決勝では途中で雨が降り始めたことで、展開がガラリと変わってしまったのである。

 雨のコンディションでは、日産Z+ミシュランのコンビネーションが威力を発揮。対してホンダ勢は目まぐるしく変わる路面コンディションで安定感がなく、チャンピオンを争うナンバー17のAstemo NSX-GT(塚越広大/松下信治)、ナンバー100のSTANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)らは大きく順位を落としてレースを終えた。

逆転での王座奪還に向けて、もうあとがなくなったホンダ勢。だが、得意とするオートポリスでは底力を発揮し、土曜日の予選では5台中4台がQ2へ進出して上位グリッドを固めた。

 なかでも17号車は、土曜日朝の公式練習でクラッシュしてマシンに大きなダメージを受け、一時は予選出走も難しいのではないかと思われていた。だが、メカニックの懸命な修復で予選開始5分前に作業完了し、最終調整ができない状態ながら渾身の走りで4番グリッドを獲得。決勝も迅速なピット作業のおかげでトップに立ち、2番手以下に13秒もの大差をつけて今季初勝利を飾った。

「(公式練習でクラッシュしたあと)『これくらい絶対に直してやるから、走りに集中して、何も気にせず待っててくれ』とメカニックさんに言われて......その時にものすごくうれしかったし、信じてくれているんだという信頼関係を感じました。チームがひとつになった週末だったと思います」(松下)

 また、2番グリッドからスタートした100号車も日産勢相手に粘りの走りを見せた。後半はタイヤが苦しくなり、ナンバー24のリアライズコーポレーション ADVAN Zに迫られる状況となる。

 24号車に抜かれて3位でゴールとなると、逆転チャンピオンの可能性は完全になくなってしまう。しかし、100号車を駆る山本は「『3番手で表彰台に乗れればいい』とは微塵も思っていなかった」と意地の走りで2位を死守。逆転チャンピオンに望みをつなげたとともに、今季初となるホンダ勢のワンツーフィニッシュに貢献した。

最終戦の気になるデータ

 シーズンの土壇場でホンダ陣営は最高の結果を掴み取った。タイプS仕様になってようやく速さと強さを見せることができ、佐伯LPLの表情からも久しぶりに笑顔がみられた。

「前回のSUGOから勝負だと思っていたのですが、ああいう天候になって、展開をこちら側に持ってこられませんでした。『これはちょっと苦しいな......』と思っていましたが、今回は天候にも恵まれて、このクルマのパフォーマンスが証明されたかなと思います。あとは(最終戦の)もてぎ勝負ですね。ここまできたら、いくだけいってもらいます!」

 第7戦の結果により、17号車の塚越/松下組はトップから4ポイント差のランキング3位。自力でチャンピオンを狙える範囲につけた。100号車の山本/牧野組はトップから17ポイント差。逆転の条件は厳しいが、2年連続で劇的な逆転劇で王座が決まっているGT500クラスだけに、最後まで何が起こるかわからない。

 11月5日・6日に迎えるスーパーGT最終決戦。ここでひとつ、気になるデータがある。

 最終戦の舞台となるモビリティリゾートもてぎ(旧ツインリンクもてぎ)では、車両規則の変更に伴いホンダNSX-GTがFR化された2020年から計4回、レースが行なわれている。実は、その4回とも優勝を飾っているのがホンダ陣営だ。

 たしかに今シーズンは日産の速さが際立っている。しかしながら、今回のレースでサーキットを包み込んだホンダの勢いも決して侮れない。オートポリスでのレース結果が最終戦に向けて、どのように影響するのか。今年もスーパーGTの最終決戦は、ゴールの瞬間まで目が離せない。