世界卓球団体戦、男子決勝トーナメント1回戦 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)が5日、中国・成都で行われ、男子決勝トーナメント1回戦に臨んだ世界ランク3位の日本は、同6位のブラジルに3-0でストレート勝ちし、準々決勝進出を…

世界卓球団体戦、男子決勝トーナメント1回戦

 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)が5日、中国・成都で行われ、男子決勝トーナメント1回戦に臨んだ世界ランク3位の日本は、同6位のブラジルに3-0でストレート勝ちし、準々決勝進出を決めた。シングルス世界ランク45位の全日本王者・戸上隼輔(明大)が同5位カルデラノを破る金星を挙げ、2大会ぶりのメダル獲得に王手。大のプロレスファンを公言する21歳は、「世界一性格の悪い男」の“生き様”を胸に秘めながらコートに立った。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 全日本王者が雄叫びに魂を込めた。戸上の目の前に立ったのは難敵カルデラノ。「勝ちたい」。不安を消し去り、東京五輪8強を誇る南米の名手に立ち向かう。決戦のゴングが鳴った。

 第1ゲーム(G)はビハインドから10-10に追いつく展開。取られてもくらいついた。11-13で先取されたが、第2Gは違った。7-10から3連続得点で同点。レシーブに緩急をつけ、さらに2連続で奪ってみせた。再三飛び出した絶叫。第3、4Gは11-8、11-7と主導権を渡すことなく名手を退けた。

 スタンドの日本代表スタッフに向けて拳を突き出す。田勢邦史監督に背中をバチンと叩かれ、メンバーとグータッチを交わした。額から流れる大粒の汗。身も心も熱く燃やしたが、頭は冷静だった。

「世界ランクが凄く高い選手なので、チャレンジャーの気持ちでプレーした。勝ち上がっていくにつれて、必ず相手のエース、世界ランクトップ10以内の選手と対戦する。本当に勝ちたいなと思ってました。ただ、もう勝ちたいという気持ちだけでは勝てない。それは何度も格上の選手と戦ってきて感じているので、まずは平常心を持ってプレーするのが大切だと思って臨みました」

 第1試合の金星で楽になれたエース・張本智和、及川瑞基も連勝。3-0のストレート勝ちでメダルに王手をかけた。

 水谷隼が引退し、東京五輪男子団体銅メダルメンバーの丹羽孝希も大会直前にインフルエンザで出場辞退。張本に次ぐ選手の台頭が不可欠だった。1月の全日本を制し、選考会を勝ち抜いて日の丸を背負う権利を得た戸上。それでも、「不安になることは正直ある」と漏らす。

 弱気の火種を消し去るため、ホテルに一冊の本を持ち込んだ。鈴木みのるの自叙伝。「世界一性格の悪い男」「ハマの喧嘩屋」「性悪王者」などと称された悪役レスラーだ。アントニオ猪木さん全盛の新日本プロレスに10代で入門。名だたる先輩たちとぶつかり合い、成り上がってきた半生がつづられていた。

「生き様そのものが僕にとって刺激に」、戸上が体現したレスラーの生き様

 戸上は鈴木が運営するショップ「パイルドライバー」で本とTシャツを購入。世代も団体も越え、一匹狼としてマット界に君臨するレスラーの真髄を熱弁する。

「生き様そのものが僕にとっていい刺激になっています。若い時に入門した決断力とか、書いてある一つ一つが本当に凄い。尊敬しながら読んでいます。倍近く年が離れている選手がたくさんいる中で、自分の軸をつくって今も第一線で戦っている。凄い刺激的。僕も選手としてのイメージを持たせるために、プロレスの強気な姿勢を見習っています」

 どんな相手にも怯まずぶつかっていく。この日、その生き様を中国のコートで体現してみせた。

 卓球界では水谷、丹羽、張本など早くから日本代表入りする選手が多い。一方、高校時代の戸上は無縁だと思っていた。日の丸を意識したのは「やっぱり最近なんです」。徐々にシニアでも頭角を現し、1月の全日本で初優勝した。9月の第2回パリ五輪代表選考会決勝で張本に4-1の逆転勝ち。「自分にもチャンスがあるんだ」。成り上がる道を自らの手で切り拓いた。

 数年前まで代表入りを視界にすら入れていなかった男が、いまや勝利の立役者としてスポットライトを浴びている。

 日本は前回18年の団体戦準々決勝で敗退。連続メダル獲得は5大会で途切れた。メダルを懸けた7日の準々決勝は、6日に行われるスロベニアとポルトガルの勝者と対戦する。戸上のエース斬りに対し、張本は「この先の相手エースにもプレッシャーを与えられたと思う。(他国のエースは)ビクビクしていると思う」と信頼を寄せた。

 戸上は、悪役とは正反対の真っすぐな瞳で強気な言葉を並べる。

「今でも取りこぼしてしまうことがあるけど、昔の自分とは違った姿を見せたい。格上の選手にたくさん勝って、『一味違った戸上』を見てもらいたいです」

 世界の強豪をマットに沈め、3カウントを鳴らしにいく。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)