3年ぶりの開催となったシンガポールGPは、述べ30万2000人という史上最多の観客が訪れ大いに盛り上がった。 決勝を前に豪雨が襲来し、1時間のディレイの末にウエットコンディションでのレーススタートとなった。予選では雨の波乱でマックス・フェ…

 3年ぶりの開催となったシンガポールGPは、述べ30万2000人という史上最多の観客が訪れ大いに盛り上がった。

 決勝を前に豪雨が襲来し、1時間のディレイの末にウエットコンディションでのレーススタートとなった。予選では雨の波乱でマックス・フェルスタッペンが燃料搭載量と周回数の計算にずれが生じ、最終アタックが完了できずに8番手に沈むという波乱が起きていた。決勝も波乱含みの展開になることは間違いなさそうだった。



レッドブルとフェラーリの戦いが鈴鹿でついに決着する?

 まずはスタートでポールポジションのシャルル・ルクレールが出遅れ、セルジオ・ペレスが首位に立ち、インターミディエイトタイヤで徐々に引き離していく。路面はなかなか乾かず、部分的に濡れた箇所が残るため、そのチームもスリックタイヤへの交換に踏みきることができない。

 後方スタートのジョージ・ラッセルがギャンブルに出るがまったく走れず、やがて何台かのマシンがミディアムに換えはじめ、ルクレールが34周目にピットへ飛び込んでアンダーカットを仕掛けた。だが、2.6秒のギャップを維持していたレッドブルは翌周ペレスをピットインさせて、余裕を持って首位のままコースへと送り出した。

「今日のレースのカギは、ペースをコントロールできたことだ。スタートがものすごくよくて、その後のインターミディエイトでの序盤はチャールズ(シャルル・ルクレール)と同じペースで走ることが可能だったから、ペースをコントロールしながら走り、少しずつギャップを広げていったんだ。こういう時に最も重要なのは、タイヤを保たせることだ」

 ペレスはベテランの味で冷静にタイヤマネージメントに徹しながら、レースをコントロールしていた。

 ペレスはミディアムに履き替えて出ていったものの、路面コンディションはまだ完璧ではなかった。濡れた箇所もあり、スリックタイヤはすぐには熱が入らず、グリップが引き出せない。

「もうひとつのカギは、スリックに履き替えてからかなり難しいコンディションのなかで生き残ったこと。いくつかの場所ではまだ完全にダンプ(湿った状態)で水溜まりが残っていたし、簡単にミスを犯してもおかしくない状況だった。僕も何度もヒヤリとした場面はあったけど、なんとかレースを走りきることができてうれしいよ」(ペレス)

フェラーリは手も足も出ず...

 2度にわたるセーフティカー先導中、ペレスは規定の「10車身以内」から外れてしまった。それを2度も犯してしまったため、5秒加算ペナルティを科される可能性が出てきた。そのリスクに備えるため、チームは2位ルクレールを5秒以上引き離すようペレスに指示をし、残り数周でペレスは3.4秒、4.2秒、5.1秒、7.3秒とギャップを広げて、最後は7.595秒差でチェッカードフラッグを受けた。

 レースご審議の結果、やはり5秒加算ペナルティが科されたものの、ペレスの勝利は揺るがなかった。

「最後は本当に緊迫した状況のなかでプッシュして、これ以上速く走れないだろうと思っていたけど、それを引き出すことができた。何が審議の対象になったのかわからないけど、とにかくペナルティの可能性があるからギャップを広げろと言われて、そのとおりにしたんだ。全力を出しきり、そしてこの勝利を掴み獲った。僕のベストパフォーマンスだと思う」

 フェラーリは予選で最速だったものの、決勝でスタート先行を許したあとは手も足も出なかった。一時はペレスに猛攻を仕掛けたルクレールだったが、やがてタイヤのデグラデーション(性能低下)が進んで置いていかれてしまった。

「ペースはすごくよかった。でも、不運なことにスタートがよくなくて、そこから後手後手に回ってしまった。チェコ(ペレス)にプレッシャーをかけていったけど、タイヤがあっという間にオーバーヒートしてしまい、ペースを落とさざるを得なかったんだ」(ルクレール)

 夏休み前のハンガリーGP以降、フェラーリはレースペース不足に苦しんできた。戦略やピットストップのミスは目立っていたが、前戦イタリアGPと同様に大きなミスもないのに勝てなかった。ただ、レース運営でミスがなかったのはチームとしての進化だと、ルクレールは言う。

「ここ数戦で課題となっていたレース運用という意味では、戦略としては正しい決断を下したと思うし、前進が果たせたと思う。さらにもう一歩前進が必要だけど、正しい方向に進んでいることはたしかだ。2位には満足していないけど、そのことには満足しているよ」

角田の日本凱旋に希望は?

 レースペース不足という根本的な問題が解決しなければ、フェラーリが再び表彰台の頂点に立つことは難しいだろう。レースペースと戦略に長けたレッドブルがライバルだけに、それはなおさらだ。

 次戦の日本GPでは、マックス・フェルスタッペンが優勝してファステストラップを記録すれば、年間王者のタイトル獲得が決まる。フェラーリがそれを阻止することができるのかと言えば、今のままでは難しいと言わざるを得ないだろう。

 一方、日本GPに向けて弾みをつけたかった角田裕毅は、セミウエットの予選でQ3進出を果たし手応えを感じさせた。アルファタウリが残り6戦に向けて投入した新型フロントウイングもうまく機能し、より中高速コーナーが多い鈴鹿ではさらなる効果を発揮するはずだ。

 だが、決勝では痛恨のクラッシュ。

 ペレスも苦労したと述懐したスリックタイヤへの交換が、アルファタウリ勢はペレスより2周も早かった。その結果、タイヤに熱が入らずにインターミディエイトより2秒も遅いペースでしか走ることができず、1〜2周後にピットインしたアストンマーティン勢にオーバーカットを許してしまった。



日本GPを前に結果を残せなかった角田裕毅

 つまり、戦略は失敗だった。

 そんな温まらないタイヤで、角田はターン10のブレーキングポイントを見失ってブレーキングが遅れた。とてもコーナーを曲がりきれないスピードで飛び込んで、バリアにまっすぐぶつかる以外にできることは何もなかった。

「単純に自分のミスです。ターン10のブレーキングポイントを見誤ってしまって、間違ったところでブレーキングしてしまったので、本来よりもかなり高いスピードでコーナーに飛び込んでしまいました。それでまっすぐバリアに突っ込んでしまったかたちです。完全に僕のミスですし、言い訳はありません。自分自身に腹が立っています」

 角田はそう言いきったが、シンガポール初体験の角田が夜の時間帯にドライコンディションで走行できたのはFP2の30分間のみ。マシントラブルのため、ソフトタイヤでのアタックもロングランもできなかった。そして土曜日は雨だった。

待ちに待った角田の鈴鹿

 あまりに経験が乏しい、夜のドライコンディション。しかも、わずかに右に曲がってから左に入っていく狭いターン10。そして、早すぎたドライタイヤへの交換......。

 もちろんF1ドライバーにミスは許されない。とはいえ、ミスを犯しやすい要素がいくつも重なってしまったこともまた事実だ。

 シーズン後半戦に入ってから、Q3に進出する速さはチーム全体としても示しつつある。しかし決勝で歯車が噛み合わず、ポイントに手が届いていない。

 久々のミスとしっかりと向き合い、チームとともに自らを高め、待ちに待った鈴鹿では、この1年半で成長してきた自分のすべてを引き出すレースを見せてもらいたい。