10月1日、東京・秩父宮ラグビー場にて、ラグビーワールドカップまで1年を切った日本代表が「アサヒスーパードライJAPAN RUGBY CHALLENGE SERIES 2022」でオーストラリアA代表と対戦した。テストマッチ(国と国との真…

 10月1日、東京・秩父宮ラグビー場にて、ラグビーワールドカップまで1年を切った日本代表が「アサヒスーパードライJAPAN RUGBY CHALLENGE SERIES 2022」でオーストラリアA代表と対戦した。テストマッチ(国と国との真剣勝負)ではないために、日本代表は「ジャパンXV(フィフティーン)」としてチームを構成。一方、オーストラリアA代表はワラビーズ経験者や若手を中心にメンバーを揃えてきた。



ボールキャリーで観客を大いに沸かせたリーチ マイケル

 チケットは完売。2万人近い観衆が集うなか、ホームの日本代表は勝たなければいけない試合だった。前半はSO(スタンドオフ)中尾隼太が3本のPGを決めて9−6で折り返し、後半も16分までにWTB(ウィング)シオサイア・フィフィタ、途中出場のWTB松島幸太朗がトライを挙げて22−13でリードを広げた。しかし、後半の中盤から失速してしまい、相手に3トライを奪われ22−34で敗れた。

 イングランド代表やアルゼンチン代表と同組となった来年のワールドカップに向けて、少なからず不安を感じずにいられない結果ではある。ただ、そんななかFWで元気な姿を見せていたのが、10月7日で34歳になるリーチ マイケルだった。試合後のリーチは終始、満足した表情を見せていた。

 4大会連続のワールドカップ出場を狙うベテランはこの試合、FL(フランカー)としてエッジ(タッチライン際)でプレーするのではなく、8番を背負ってフィールドの中央でボールキャリーを繰り返した。ジャッカルを決めると観衆は沸き立ち、ボールを持った時に観客が「リーチ!」と叫ぶお馴染みの声援がスタジアムにこだました。

「(声援は)聞こえていました! 気合いが入りましたね。少しずつ調子が戻ってきたので、プレー自体はよかったと思います。(チーフス時代にもプレーしていた)8番のほうが好きですね」

リーチがオフに取り組んだこと

 ワールドカップでは2015年、2019年と、キャプテンとしてチームを支え続けたリーチ。だが、2019年の春にトレーニングで股関節を痛めてからは、常に満身創痍の状態でプレーしていた。股関節、両足首、そして両耳と手術を繰り返し、今年7月のフランス代表戦では存在感を見せたものの、「パフォーマンスはあまりよくなかった」と納得してはいなかった。

 そのため、オフ期間は東芝のグラウンドで走り込み、日本代表合宿最初のフィットネステストでは基準となる数値をクリアしたという。

「(8月末に)股関節の検査にいったら問題がなかった。完璧に治った。だから自信を持ってプレーできている。あとはグラウンドでどれだけできるかが大事。調子をどんどん上げていきたい」

 9月から大分・別府で始まった日本代表合宿では、全体練習初日から若手や新人に交じってフルスロットルで練習に取り組んだ。リーチは現在、リーダーグループからも外れて個人のパフォーマンス向上に集中している。6月〜7月の試合後は「ボールタッチ、タックル、ラインアウトのキャッチと、もっと試合に絡む回数を増やしたい」と反省していたが、それを10月の初戦で体現してみせた。

「ワールドカップに向けて新しいリーダーを育て、代表のスタンダードを上げないといけない」と話していた75キャップのベテランは、オーストラリアA代表との1試合目を終えてこう語る。

「リードしてよかったところもあった。フランス代表戦から成長している実感はあります。ただ、結果は残念。タックルミスと(アタックで)ボールの継続ができなかったのが、今日の敗因かな。80分間、どうやってマネジメントして勝つかが大事」

 スクラムハーフからのワンパスにFWが走り込むプレーで、終盤はオーストラリアA代表にリズムを掴まれた。リーチはそのシーンを振り返り、「相手がどんどんダイレクトに来て(それでやられたのが)痛かった。それでポンポンとトライを取られたので、最初のタックルが大事です」と語気を強めた。

W杯に向けてプラス材料は?

 日本代表は今春から、オールブラックスやイングランド代表でコーチを務めてきたジョン・ミッチェル氏を招聘。個々のタックルはもちろんダブルタックルにも磨きをかけて、練習でも高いタックル成功率を出せるようになっている。試合前半はディフェンスが機能していただけに、後半最後の20分の時間帯での精度が課題となるだろう。

 一方のアタックは、敵陣22メートル内でのチャンスは相手より多く作ったものの、トライに結びつける決定力が欠けていた。リーチも「キックのバランスはよかったし、ゴール前でもどんどん前に(ボールを)持っていけたのもよかったけど、敵陣22メートルで3〜4回くらいミスがあった。もっとスコアにつなげていきたい」と反省を口にした。

 ただ、今後に向けてプラス材料もある。SO中尾やFL下川甲嗣がデビューを果たし、夏のシリーズで代表から外れていたNo.8(ナンバーエイト)姫野和樹、SH(スクラムハーフ)流大、WTB松島もケガやコンディション不良から復帰したことは大きい。

「キャップ数を見ても、10に届いている選手も少ないし、レベルの高い試合は少ないから、この経験が今後大事になってくる。勝って自信をつけることも大事だけど、高いレベルのチームとやると得るものがたくさんある」(リーチ)

 オーストラリアA代表との試合は、10月8日に福岡・ベスト電器スタジアムで第2戦、14日に大阪・ヨドコウ桜スタジアムで第3戦が行なわれる。そして29日に締めを飾るのは、国立競技場でのオールブラックス戦だ。リーチは先を見据えてこう語る。

「もちろん(第1戦は)勝ちたかったですが、自分たちが目指している方向性は間違ってない。いい経験ができているから、前向きに考えています。準備から見直して、あと2戦勝ってオールブラックスと対戦したい」

 スーパーラグビーから脱退し、コロナ禍以降は海外チームとの対戦が組めない状況のなか、オーストラリアA代表との3試合はワールドカップに向けて大きな経験や糧となるだろう。ただし、桜のエンブレムがついたジャージーがホームで連敗する姿は見たくない。勇敢な桜の戦士たちの「レジリエンス(復元力)」に期待したい。