6月3日、4日に開催される、レッドブル・エアレース千葉2017(千葉・幕張海浜公園)。今季、第2戦のサンディエゴ大会でキャリア2勝目を挙げている室屋義秀は、昨年、自身の初勝利の舞台となった地元・日本での連覇を目指す。その室屋を現場で支…

 6月3日、4日に開催される、レッドブル・エアレース千葉2017(千葉・幕張海浜公園)。今季、第2戦のサンディエゴ大会でキャリア2勝目を挙げている室屋義秀は、昨年、自身の初勝利の舞台となった地元・日本での連覇を目指す。その室屋を現場で支えるキーパーソンが、チーム・コーディネーターのロバート・フライと、レース・アナリストを務めるベンジャミン・フリーラブだ。



室屋をレース・アナリストとして支えるベンジャミン(右)photo by red bull「室屋さんとの付き合いは、かれこれ20年以上になるかなぁ……」と、流暢な日本語で語るのは、ニュージーランド出身のロバート。実は、1992年のアメリカズカップ(世界最高峰のヨットレース)で日本チームのクルーとして活躍したヨットマンなのだ。

「27年前、アメリカズカップでサンディエゴに行った時に飛行機の免許を取って、それから数年後に日本で飛行機に乗るようになってから室屋さんと知り合い、彼がエアショーをやり始めた頃から一緒に飛んだりしていたんです。僕は2006年に一度ニュージーランドに帰ったんですが、向こうでヒマをしてたら、2009年に室屋さんがレッドブル・エアレースに出ることになって。『一緒にチームをやらないか』と誘われたのがきっかけです」



チーム・コーディネーターのロバート photo by Kawakita Ken

 とはいえ、当時の日本ではまだ、エアレースの知名度は低かった。世界を転戦するチーム・コーディネーターとしてチーム・ムロヤの運営を担い、毎年、参戦を続けるためにはさまざまな苦労があったという。

 しかしロバートは、「実際にパイロットとして戦っている室屋さんのほうがはるかに大変。それに、僕は彼の才能を信じていたから、いつか絶対に成功するだろうと思っていたし、あんまり心配してなかったんです」と話す。

 古くからの友人として、同じ「飛行機乗り」の仲間として、そして、エアレースという厳しい戦いに共に挑む大切なパートナーとして、室屋の才能を確信していたロバート。長い信頼関係を築いてきた彼の存在は、間違いなく大きな支えになっているはずだ。

 一方、アメリカ人のベンジャミンは、レースでの飛行ラインの解析や機体のセッティングなどを行なうレース・アナリストとして室屋をサポートする。ハンサムで、いかにも「頭がよさそう」なメガネ姿の彼もまた、優秀なエンジニアであると同時に、かつては曲技飛行「エアロバティックス」の選手として活躍した腕利きのパイロットで、今でも飛行教官を務めている。

「レース・アナリストの主な仕事は、コース特性やコンディションに合わせた機体のセッティングと、最適な飛行ラインの解析でパイロットをサポートすることです。セッティングに関してはまず、パイロットが気持ちよく、自分の体と一体となったようなフィーリングで操縦できる機体に仕上げることが何よりも大切ですね」

 レッドブル・エアレースでは、エンジンとプロペラの形状についてはレギュレーションで厳しく定められているが、それ以外については自由度が高い。機体の空力などについては進化が速く、特にここ数年は、毎レースのように新たなアイディアが投入されることも珍しくない。

 一方の飛行ラインの解析は、独自のコンピュータソフトで、各コースごとに理想的でムダのない飛行ラインを見つけ出す作業だ。「同じコースでのシミュレーションでも、パイロットの飛行スタイルの”個性”や、当日の風などのコンディションを見極めなくてはいけません。また、ライバルたちがどこまでリスクを取って攻めてくるのか、それに対して、想定目標タイムをどのあたりに設定し、コースのどの部分でタイムを削るのかを考える必要もある」とベンジャミンは語る。

 また、ここ数年でレースのレベルが急激に上がり、今ではスピードも4、5年前とは比べものにならないほどアップしている。そのため、飛行ラインをあまり攻めすぎると、旋回中の重力が規定の10Gを超えてしまう。勝つための「攻めの飛行」をしながら、同時に「オーバーG」のペナルティを避けるのは、本当に難しくなっているという。

「とはいえ、エアレースで一番重要なのはパイロットのスキル。僕たちはそのスキルを最大限に発揮できる状況を準備するのが仕事ですから、勝つためにはパイロットとエンジニアがお互いを理解し合い、信頼関係を高めてゆくことが大切です。僕がヨシ(室屋)と一緒に戦うようになって今年で3シーズン目になりますが、ヨシは単にパイロットとしてのスキルが素晴らしいだけでなく、セッティングや戦術などの技術面の理解も深くて、機体に10カ所以上の変更を加えても、的確なフィードバックが返ってくる。おかげで、僕もレース・アナリストとして充実した日々を過ごしています」

 今シーズンのエアレースは、これまでになくチームやパイロットの実力が拮抗している。そのコンペティティブな戦いの中、地元日本でのレースで昨年に続く勝利を狙い、その先に「年間シリーズチャンピオン」獲得を目指す室屋の挑戦を、「空への情熱」と「信頼と友情」で結ばれた仲間たちが支えている。