2年前の3歳時にデビュー以来、7戦して6勝2着1回とまったく底を見せていないグレーターロンドン(牡5歳・大竹正博厩舎、父ディープインパクト)が、今週末4日に行なわれるGI安田記念(東京・芝1600m)に出走する。半姉にオークス馬ダイワ…

 2年前の3歳時にデビュー以来、7戦して6勝2着1回とまったく底を見せていないグレーターロンドン(牡5歳・大竹正博厩舎、父ディープインパクト)が、今週末4日に行なわれるGI安田記念(東京・芝1600m)に出走する。半姉にオークス馬ダイワエルシエーロ(父サンデーサイレンス)のいる血統背景から、デビュー以前より期待が高く、2015年2月の新馬戦(東京・芝1600m)を快勝したときも、「遅れてきたダービー馬候補」との呼び声もあった、いわば未完の大器。目下5連勝中で、3月の東風S(3月12日/中山・芝1600m)を勝って以来の出走となる。




グレーターロンドンは大事に使われて7戦6勝。一気にGI制覇となるか
「前走後に予定していたGIIIダービー卿チャレンジトロフィー(4月1日/中山・芝1600m)はソエの影響が出たので、パスして安田記念直行に切り替えました」

 大竹調教師が5月31日の追い切り後の囲み取材で、臨戦過程をそう説明したが、詳しく聞くと、前走後のグレーターロンドンについては、ソエだけでない不安要素もあった。

「ダービー卿をパスしてから、どうも蹄鉄のフィットがよくありませんでした。頻繁に蹄鉄を変えるので、固定するための釘を打つ部分がだんだん少なくなり、その部分の爪を伸ばすために接着装蹄にしたりと試行錯誤した結果、去年の秋に使った蹄鉄にしたら、すっと悪いところが治まったんです。いずれは普通の蹄鉄でというプランを描いていましたが、状況としては逆行することで納まったといったところです」

 大竹調教師が腐心するグレーターロンドンの蹄(ひづめ)は、3歳後半から1年間、蹄葉炎に冒されており、今でもその影響が残っている。

 蹄葉炎とは、簡単に言えば、蹄の内側の組織に炎症・崩壊を起こす症状で、重症化すると衰弱死に至ることもある。競走馬の場合は、骨折した脚をかばうことで、骨折した脚とは逆側の蹄に発症するケースが多く見られ、過去にこれによって命を落とした名馬も少なくない。

「グレーターロンドンも、いきなり蹄葉炎になったわけではないんですね」

 きっかけは小さなものだった。

「坂路の調整から戻ってきたときに、左の前脚を少し痛がる素振りを見せたので、最初は挫跖(ざせき、※)かな? と思いました」
※石など硬いものを踏んだりして、蹄底におきる炎症、内出血。

 その違和感を覚えたのは、約7ヵ月ぶりに出走した3戦目の3歳以上500万下条件戦(2015年10月31日/東京・芝1800m)を快勝した2週間後のことだった。前走から間隔が空いたのは、山吹賞(2015年4月4日/中山・芝2200m)でレース中に右前脚を落鉄したのをきっかけに歩様が悪くなり、ソエの症状も悪化させて、北海道への放牧で立て直したからである。しかし、その症状とはまったく別のように思ったので、まずは様子を見たという。

「そのうち、痛い左前脚をかばって右前脚に負担が出てきて、指動脈に張りも出て、立っているときの姿勢もしんどそうになってきて、装蹄を替えたり、消炎剤などでの治療を行ないました。ですが、今度はその右脚をかばって左脚が、という順でどんどん悪くなって、11月末から12月ごろには、立っているのもつらそうな状態になった。そこで、トレセンのクリニックに入院させ、状態が落ち着いた2月頃にいわきのJRA競走馬リハビリテーションセンター(旧競走馬総合研究所常磐支所)に送りました」

 蹄葉炎の治療は簡単ではない。患部に負担がかからないようにしながら、炎症によって悪くなった蹄の成長を促し、かつ根本となっている炎症とその原因を取り除かなくてはならない。焦らず、時間をゆっくりかけていかないと治癒しないのである。

「新しい蹄を伸ばすのには代謝を進ませることが必要ですが、代謝がよくなるとまた炎症も進んでしまうんです。消炎剤をどこで減らすか、脚元の様子を見てまた戻すか、一進一退でした。それでもいわきに行ってから、指動脈の張りも治まったようで、ここから光が見えてきました。

 しばらく一進一退を繰り返した昨年6月に、削蹄をしたところ、血のような崩壊した患部組織がドロッと出てきたんです。あっ、これが諸悪の根源だと。これをしっかり取り除きながら、15分くらいの運動から始めていきました」

 こうして回復の兆しとともに段階的に調教のピッチも上げられ、昨年11月12日の3歳以上500万下条件戦(東京・芝1600m)で1年ぶりに復帰。これを快勝し、連勝街道を進むこととなる。

「とはいえ、今でも気をつけないといけません。元々のきっかけとなった、左の蹄にピンポイントで傷みやすい部分があるんです。そこを傷めると、また右脚に負担がかかって……となってしまうんですね。また、ソエが今でも出ることがあります。ですので、復帰以降は『狙ったレースを使う』というのではなく、『候補を多く挙げておいて、状態のいいときに迷わず使う』という方針できています。前走の東風ステークスも、あまりにも状態がよかったので使ったものでした」

 その後、冒頭のようにダービー卿CT はパスすることとなったが、結果的に東風S後に不安が出たことで、安田記念には間に合わせることができた。ダービー卿CT後に同じような不安を見せていたら、このレースには使うことができなかったはずだ。

「この馬は痛みに敏感なんですよ。だから少しでも痛いとそれをかばおうと、他の部分、例えば逆の脚であったり、筋肉の張りに影響がすぐに出るんです。これが我慢強い馬ですと、そうはならないのですが、逆に重症になることにも繋がるので、痛みに敏感なのは決して悪いことだけとは思っていません。

 そういった面も含めて、この馬の生命力には頭が下がります。入院馬房でもガレるようなことがありませんでしたし、ここにきてパワーアップしたとも感じています」

 実際に最終追い切りでも、動きに手応えを感じたという。

「完全に疲れを取って作り直しましたので、先週の追い切りでの動きは最後が少しだらしなかったのですが、最終追い切りでは3頭併せでプレッシャーをかけられながらいい動きを見せていました。普通のステップと比べると、一気に三段飛びのような挑戦ですが、GIの雰囲気に飲まれず、いい記憶としてこの馬に残れば……」

 GIだから使うのではなく、『状態がいいから使う』という点を強調した大竹調教師。謙虚な姿勢を見せながらも、状態には自信があることをうかがわせた。

 不死鳥の如くターフに戻った未完の大器が、その漲(みなぎ)る生命力によってGIの大舞台で華を開かせるか。