プロ野球の球団には元選手が広報担当としてチームを支えている例が少なくないが、埼玉西武ライオンズで広報を務める松浦智哉さんはアイスホッケーの実業団チーム、西武鉄道アイスホッケー部でディフェンスとして活躍した異色の経歴を持つ。■アイスホッケーで…

プロ野球の球団には元選手が広報担当としてチームを支えている例が少なくないが、埼玉西武ライオンズで広報を務める松浦智哉さんはアイスホッケーの実業団チーム、西武鉄道アイスホッケー部でディフェンスとして活躍した異色の経歴を持つ。

■アイスホッケーで日本一の経歴を持つ西武広報担当の松浦氏

 プロ野球の球団には元選手が広報担当としてチームを支えている例が少なくないが、埼玉西武ライオンズで広報を務める松浦智哉さんはアイスホッケーの実業団チーム、西武鉄道アイスホッケー部でディフェンスとして活躍した異色の経歴を持つ。

 アイスホッケーは体をぶつけあうため、乱闘も多いスポーツ。チームのポイントゲッターを守り、相手のポイントゲッターを攻撃する選手、通称「ポリスマン」と呼ばれる役割があり、松浦さんが現役時代にこの役割を担っていたことから、増田達至投手、武隈祥太投手からは「ポリスマン」と呼ばれることもあるそうだ。

 松浦さんは北海道苫小牧市の出身。子供の頃は、各家庭にスティックがあり、学校や公園にもリンクがあるアイスホッケーの街に育った。苫小牧を本拠地とする王子製紙アイスホッケー部(現王子イーグルス)の選手に憧れ、3歳からスケートを始め、小学校3年生の時に学校のアイスホッケーチームに入部した。

「子供の頃、親に連れられてアイスホッケー日本リーグの試合を見に行っていました。試合後に選手の出待ちをしてサインやスティックをもらったり、友達同士で選手のまねをして練習していました」

 松浦さんは、アイスホッケーの強豪校であり野球の名門校としても知られる駒大苫小牧高校から東洋大学に進学。大学日本代表にも選ばれ、ユニバーシアード大会でも活躍した。卒業後は、自身の好きなカナダのホッケースタイルを取り入れたいとの思いから、実業団チームの名門、西武鉄道アイスホッケー部へ入団する。

■引退を決意した妻の一言、2015年から西武で広報担当に

「チームは日本リーグの強豪でした。すごい先輩たちもいらしたので、試合に出られるように必死でしたね。日本リーグ優勝、全日本選手権優勝の2冠を目指して日々練習していました」

 そんな中、不景気の影響を受け1999年に古河電工アイスホッケー部、2001年に雪印アイスホッケー部が相次いで廃部。2002~2003年シーズンを最後に36年間続いた西武鉄道アイスホッケー部も廃部が決まり、同じ西武グループのコクドアイスホッケー部に統合されることになった。

 松浦さんは、チームの廃部を機に現役を退くことを決めた。

「日本リーグで3度、全日本選手権で1度優勝しました。年齢も31歳でしたし、2年前に膝の大きなケガもしていました。妻に相談したら『何回優勝したの? もうやれることはやったんじゃない?』と言われて、引退する決心がつきました」

 引退後は社業に専念。西武鉄道の営業推進部で、鉄道を利用して行くことができるハイキングコースの企画や、花の名所を紹介するなどの業務を経て、2005年から西武ライオンズに勤務。2015年からは広報部に所属している。実業団という企業スポーツの選手だった松浦さんは、ライオンズの選手の野球に取り組む姿勢を間近で見て「さすがプロだな」と感心したという。

■栗山の姿勢に感服「プロ意識が本当に高い」

「自分は実業団の選手ですから『企業に守られている』という意識がありました。そこに甘えていたところはありましたね。アイスホッケーは多くても週に3試合ですが、野球は週に6試合、時にはもっと長い連戦もあります。野球に取り組む姿勢だけではなく、調子が悪い時にどうやって気持ちを切り替えるか。プロは切り替えも上手くやっていると思います」

 中でも、昨年プロ15年目で初めてのオールスター出場、5月21日のソフトバンク戦ではプロ入り初となるサヨナラホームランを放った栗山巧外野手の野球に対する姿勢は目を見張るものがあるという。

「調子が悪かった日でも『明日のために』と試合が終わってから、夜遅くまで室内練習場で打っていることがあります。一つ一つの練習や、試合に入る前、打席に立つ前など『考えて行動しているんだろうな』というのを近くで見ていて感じます。

 試合に出ていないときでも、出ているときと同じようにトレーニングをして準備し、試合中は打っても打たなくても、ベンチに戻ってくると自己分析をしていますね。だから、あの年齢になってもいいパフォーマンスができる。『プロ意識が本当に高いな』と思います」

 アイスホッケーの選手として4度の優勝を経験した松浦さん。競技は異なるが、今はライオンズの球団職員として優勝の瞬間を味わえることが幸せだと話し、2008年以来遠ざかっている日本一の瞬間を、たくさんのファンと共に喜び合える日を待ち望んでいる。

篠崎有理枝●文 text by Yurie Shinozaki