スペインの「白い巨人」とイタリアの「老貴婦人」。気品と風格、そして実績を備える欧州きっての2つの名門が、ウェールズの首都・カーディフで頂点を目指す。贅沢で、素敵なファイナルだ。CL準決勝でモナコを退け、レアルとの頂上決戦に臨むユベント…

 スペインの「白い巨人」とイタリアの「老貴婦人」。気品と風格、そして実績を備える欧州きっての2つの名門が、ウェールズの首都・カーディフで頂点を目指す。贅沢で、素敵なファイナルだ。



CL準決勝でモナコを退け、レアルとの頂上決戦に臨むユベントス ジネディーヌ・ジダン監督率いる純白のレアル・マドリードはチャンピオンズリーグ(CL)史上初の連覇と、チャンピオンズカップ(CLの前身)時代から通じて最多となる12回目の欧州王者を狙う。

 名称がCLになってから数えてもすでに5回の優勝を誇るが、さらに驚くのは決勝での戦績である。彼らはこれまでに5度決勝に進出し、そのすべてに勝利しているのだ。2000年にFIFAから20世紀最高のクラブに認定されたレアルは、以降もその名にふさわしい成績を収め続けている。

 一方、白黒の縦縞をまとうユベントスは、チャンピオンズカップ時代から通算3度目の欧州制覇まであと一歩と迫った。ただし、彼らは決勝での黒星が「6」と、不名誉な最多記録を持つ。記憶に新しいところでは、一昨季のファイナルでバルセロナと対戦し、先制された後にアルバロ・モラタ(現レアル)のゴールで追いつきながらも、最後はMSNの破壊力に抗(あらが)いきれず、1-3で敗れた。

 両チーム共に今季の国内リーグを制し、それぞれ最多となる33度目のリーグ優勝を決めたフットボール大国を代表するクラブだが、上記のように欧州での成績には差がある。過去に一度、CLの決勝で手を合わせた時も、レアルに軍配が上がった。

 1997-98年シーズンのそのファイナルでは、どちらかといえばユベントスが有利と見られていた。全盛期のジダンやアレッサンドロ・デル・ピエロ、エドガー・ダービッツらをマルチェロ・リッピ監督が束ねた当時のユーベは、3年連続で決勝に進出。雑誌から貪(むさぼ)るように海外の情報をかき集めていた若き日の僕らも、わけ知り顔で「ユーベでしょ」なんて言っていたものだ。

 ところが、プレドラグ・ミヤトビッチの試合唯一の得点により、試合は大方の予想とは異なる結果に終わった。この時、CLとなってから初の決勝に進出したレアルは、その後2002年まで1シーズンおきに欧州を制するようになる。

 つまり、サッカーにおいて実績を基にした予想はあまり大きな意味を持たないということだ。むしろ短期的にはピーキング、長期的にはチームの成長のフェーズがどこにあるのかも重要なファクターとなる。この意味合いにおいて、今回はユベントスにもチャンスがありそうだ。

 2000年代中盤に「カルチョポリ」と呼ばれるスキャンダルが発覚し、2部リーグ降格のペナルティを受けたユーベはそこから這い上がり、いま一度襟を正して再建に取り組んできた。イタリアでは初となる自前のスタジアムを手にした6年前からは国内リーグで勝ち続け、今季は史上初のセリエA6連覇を達成。振り返れば、あの苦渋の過去も成長の糧となったはずだし、それは文字通り王道を歩んできたレアル(=ロイヤル。すなわち王室のクラブ)にはない強みと言えるかもしれない。そして、上昇する曲線は止まる気配がない。

 今季に限っても、ポジティブな要素は多い。CLではここまで唯一の無敗を維持しており、このまま頂点まで駆け抜ければ、2007-08年シーズンのマンチェスター・ユナイテッド以来の快挙となる。また国内では、すでにリーグとカップを制しているため、イタリア勢としては2009-10年シーズンのインテル・ミラノ以来の3冠に王手をかけている。

 確かなモメンタムの最中にあるチームには、華のある若きエースもいる。過去にジダンやアンドレア・ピルロがまとった伝統の背番号「21」をつけるパウロ・ディバラだ。

 この23歳のアルゼンチン代表は、クリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシに続く、フットボール界を背負うべき主役候補のひとりと目されている。端正なルックスと天才的な左足を兼備し、「宝石」と呼ばれる若者がここで至高のタイトルを獲得すれば、相手のロナウドから主役の座を受け継いだシーズンとして語り継がれることになるかもしれない。

 そして多くの人が望むのは、ディバラより16歳年上のGKジャンルイジ・ブッフォンの初戴冠だろう。20年余りにわたってトップレベルに君臨してきた守護神は、これまで2度のCL決勝(2003年と2015年)で涙を飲んでいる。現在39歳の彼がその雪辱を果たせば、パオロ・マルディーニを抜いて最年長の欧州覇者となる。期するものは大きいはずだ。

 また、ゴンサロ・イグアインとサミ・ケディラは古巣との対決に士気を高めているだろうし、絶好調のダニ・アウベスは昨季までバルサに所属していたこともあり、白いシャツを相手にすると闘争本能を掻き立てられるのではないか。

 とはいえ、あくまでニュートラルな立場である僕は、ギャレス・ベイルが出生地カーディフでトロフィーを掲げる姿や、ジズーがさらなる伝説を紡ぐシーンに居合わせたい気もする。史上初のCL連覇か、「シルバーコレクター」の汚名返上か。どんな結果になるにせよ、欧州の頂上決戦らしい極上の試合を見せてほしい。