「世界卓球・日本代表連載」、きょう開幕―第8回は早田ひな 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)が30日に中国・成都で開幕する。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、4年ぶりの開催となる世界最強国決定戦。男女別に行われ、日本…

「世界卓球・日本代表連載」、きょう開幕―第8回は早田ひな

 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)が30日に中国・成都で開幕する。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、4年ぶりの開催となる世界最強国決定戦。男女別に行われ、日本は男子4人、女子5人が代表に名を連ねた。「THE ANSWER」では開幕4日前から当日まで連載を実施。日本代表全選手の想いを伝え、大会を盛り上げる。

 30日の第8回は早田ひな(日本生命)が登場。東京五輪は代表落選したが、地力をつけて日本のエース格に成長した。世界ランクでは、6位の伊藤美誠(スターツ)を上回る日本勢トップの5位に浮上。22歳が急成長を遂げた裏には、卓球を探求し続ける姿があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平、協力=テレビ東京)

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 成長が止まらない。4歳から始めた卓球。早田の探求の道は、18年が経ってもなお続いている。

「自分の卓球って終わりがなさそうだなと思います。今は22歳なりの目標があって、30歳になっても30歳なりの目標、やらなきゃいけないことが多そうだなって。引退するまで終わりがない気がします」

 2020年全日本選手権では伊藤、石川佳純を破ってシングルス初優勝。東京五輪はリザーブにとどまったが、国際大会でも優勝を重ね、22年全日本選手権はダブルス4連覇、ミックスダブルス初優勝など存在感を増している。3月の代表選考会も堂々の優勝。世界ランクは同い年の伊藤を上回る5位に浮上し、日本代表で双璧をなすまでに成長した。

 166センチの長身サウスポー。フォアドライブは世界最速と称されるが、今でも卓球以外は右利きだ。幼い頃にペアを組んだ相手が右利きだった影響で卓球だけ左に矯正。手足が長く、扱いづらい体だけに苦労している。一度ラケットを右に持ち替え、動きのイメージをつくってから左で実践することも。

 でも、難しいからこそ、「突き詰めていきたい」という意欲をかき立てられた。専属の石田大輔コーチに中学2年から本格的に指導を受けている。体のどこに力を入れて飛ばすのか、体のどこでボールを打つのか。男子選手の感覚を習い、パワーヒッターとしてレベルアップしてきた。

「中国人選手のボールの扱い方、感覚的な部分、それぞれが得意な部分を教えてもらって、自分の中で吸収していく。『これは自分にはできないな』というのを無くしていくことが大事。『この人は自分と違う』じゃなくて、その人が上手いなら、その打ち方に自分を変えていくという考え方。そうすることで卓球も進化していく」

 練習中は岡雄介トレーナーと会話を繰り返す。「この人の体の使い方ってどうなん?」と、他の選手について逐一質問。練習で良い動きができれば、なぜできたのか論理的に確認する。「今のはどうだった?」。一本打っては、また質問。練習の一瞬を無駄にしない。

「卓球をしているだけじゃわからない。体の使い方に苦労しているからこそ、そこへの目標が高いし、自分の知識を上げたい気持ちが強い。(質問は)中国人選手のことが多いですが、一から説明してくれる。なぜそうなるのか理解しながら練習に取り組めるから、無駄な時間が少ないと思います。体がよくなると、技術が一気によくなるのが自分の中でわかってきているからこそ、そこに費やす時間が多い」

 食事の摂り方、ウォーミングアップの時間、いま仮眠を取るべきか否か。細かいことを徹底した。「(体への)負担が減りました。常に80%くらいのコンディションで試合ができるようになってきている。波がなくなってきた」。毎試合、体調面でも課題を振り返ることで、調子が悪い時も最終調整で仕上げる感覚を養えた。

目標設定にも工夫「東京五輪から全ての技術が変わっている」

 いきなり24年パリ五輪を見ているわけではない。卓球は各大会にはポイントが定められ、五輪選考レースに繋がっていく。練習でやったことを“試す”大会はなく、どれも大事。大会ごとに「これをできるようになっておこう」と目標設定を工夫し、一つひとつ階段を上ってきた。その先に五輪がある。

「これができるようになったら、もうちょっと変わりそうだなぁ」「誰とどれくらい競れるようになるんやろ」

 そんな成長をイメージするのが日課。中でも練習で大切するのが「同じ反省を繰り返さない」ことだ。

「今は体や癖を治す部分が多いけど、それが変わるだけでも卓球自体が変わってくる。その反省を絶対に繰り返さないように、その日のうちに岡先生(トレーナー)とかと話し合って、次の課題に取り組んでいく。試合の結果よりも、自分ができるようになりたいという気持ちが強いです。

 練習ではその時できなくてもめげずに頑張っています。(東京五輪から)全ての技術が変わっているかなって。基本のバックハンド、フォアハンド、ブロックも全部が変わっている。それを少しずついい方向に変えていくのが今の課題。次の試合に間に合わせるために、何かを変えて次の試合に臨む。それが一つずつ経験になって、最終的に自分が一番力を出したいところで120%の力が出せたらいいなと思っています」

 小さい頃から怖いもの知らずだった。2、3歳の時、浮き輪をつけて遊んでいたプールでのこと。足がつかないのに「浮き輪を外して」と母親に求めた。もちろん止められたが、休憩でプールサイドに上がった後、誰も見ていないところで飛び込もうとした。「ブワーって走って飛び込もうとしていたらしいです」。当時と性格は変わらない。

 普段、全く飲酒しないが、成人後に初めてビールを飲んだ時もそうだった。

「最初はお父さんと飲んだ方がいいと思って、初ビールで乾杯しました。ビールを飲むイメージって、お父さんが飲むイメージしかない。ブワーっていくじゃないですか。私も同じようにしたら、お母さんに『何やってんの!』って全力で止められて。隣で大焦り。『こうやって飲むもんじゃないの?』って。世間ではそれが普通だと思っていました。それが初ビールの思い出」

探求の道はどこまでも続く「終わらない。誰かに止めてもらうしか(笑)」

 今では笑えるエピソード。そんな性格だから、卓球で積み重ねたものを一度ゼロに壊すことも恐れない。

「みんなに言われるんですけど、怖くないんですよね。岡先生という体の使い方をわかってる人だからこそ信頼できる。それをやったら100%よくなる。毎日の積み重ねかもしれないですけど、会話の中によくなってきた過程があると思います。

 失敗したら戻せばいい。今の状態がやりにくいから、よくなるのなら変えた方がいいという考えです。自分を最大のところまで突き詰めていく気持ちの方が強い。やりにくいものがあると、最後に自信を持ってできない。自信が持てるまで作り上げていく方が自分にとっては大事。だから、基本的に挑戦していくことに怖さはないかなって。だから、毎日が楽しみです」

 理想はテニス界の皇帝ロジャー・フェデラー(スイス)。プレー中の写真は、どのシーンも綺麗に写る。顔がブレず、体の軸がしっかりしている完璧な姿勢だ。

「全部のプレーが綺麗で美しいと思われたら、それでいいんじゃないかなとは思います。でも、そう思われても、私の中では課題を感じていると思うので終わりはないのかな。こういうプレースタイルだからこそ時間はかかるんですけど、できた時の達成感は大きいです。できた時は、一本一本が世界に通用するボールになってくる。理想とする卓球に近づけるように頑張っていきたい。でも、たぶん終わりはないので、誰かに止めてもらうしかないです(笑)」

 理想を追求する過程で迎える世界卓球。前回18年の団体戦は主にリザーブとなり、出番が少なかった。若返った日本卓球は新時代を迎える。中国も警戒感を高めているはずだ。

「1、2番手で絶対に勝たなきゃいけないポジションになってくる。『早田を出せば勝てる』という信頼性を持ってもらえるような結果を出していきたいです。みんなにプレッシャーの少ない状態で試合に出てもらうのが自分の役割。中国の壁は厚いと感じています。でも、団体戦は勢いで勝つこともできるので、実力+爆発力が必要。それも安定した爆発力を出せるように、もっともっと練習していかなきゃいけない」

 3大会連続銀メダルから51年ぶりの金メダルへ。「やることはいっぱいだな」。強烈な探求の道に、「団体戦女王」の肩書きを添えてみせる。

(最終回は張本智和が登場)

 ◆世界卓球 9月30日からグループリーグが行われ、上位16の国と地域が10月5日からの決勝トーナメントに進出。テレビ東京系&BSテレ東で連日放送。中継キャッチフレーズは「新時代の、目撃者になる。」(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)