Tリーグを盛り上げる(左から)石川佳純、平野美宇、早田ひな、伊藤美誠日下部大次郎(Tマーティング社長)インタビュー 前編 9月上旬に、Tリーグの5シーズン目が開幕した。今シーズンは伊藤美誠が初めてTリーグに参戦したことで、大きな話題となって…



Tリーグを盛り上げる(左から)石川佳純、平野美宇、早田ひな、伊藤美誠

日下部大次郎(Tマーティング社長)インタビュー 前編

 9月上旬に、Tリーグの5シーズン目が開幕した。今シーズンは伊藤美誠が初めてTリーグに参戦したことで、大きな話題となっている。

 Tリーグは2018年10月に華々しく開幕したが、決して順調な滑り出しではなかった。2シーズン連続の赤字となり、その将来が不安視されていた時期があった。しかしそこからV字回復を見せ、2シーズン連続で黒字を達成。その裏側にはどんな要因があったのだろうか。Tリーグの運営を担うTマーケティングの日下部大次郎代表取締役社長に話を聞いた。

――Tリーグに関わるきっかけを教えてください。

 人とのつながりですね。私は、2011年の1年間、早稲田大学スポーツ科学学術院・平田竹男研究室で学んだのですが、Tリーグ初代チェアマンの松下浩二さんも同じ研究室出身でした。そのつながりで、卓球の新リーグを立ち上げる話を聞きました。私はかつてバスケットボールのbjリーグ(日本プロバスケットボールリーグ)の立ち上げにも関わった経験がありましたので、初期の段階から卓球新リーグの勉強会などに入っていました。

 実際にTリーグ立ち上げの時には、T.T彩たまのスーパーバイザーとして、2018年10月の開幕に向けて、その年の1月から週1回くらいのミーティングを行ない、チーム全体の管理を行なっていました。

――Tマーケティングの代表取締役社長に就任するまでの経緯を教えてください。

 私はリーグ運営の経験もありましたので、Tリーグ本体とのやりとりのなかで、不安を感じたところがありました。優先順位がなく、集客にも手が回っていない状況でしたので、10月開幕を前にした9月頭の緊急ミーティングに参加して、改善できるところをアドバイスしていました。

 そうしてTリーグが開幕しましたが、その後はどちらかというと見守る立場でした。1シーズン目が終わり、2シーズン目の準備をしていくなかで、Tリーグの運営を担うTマーケティングの社長のポストが空席になったんです。その時に松下さんから声がかかり、2シーズン目開幕の約2か月前、7月8日にそのポストに就任しました。

――就任当初は、初年度赤字と厳しい状況下でした。当時感じた問題点はどのようなことでしたか。

 正直に申しますと、Tリーグは突貫での立ち上げでした。チケット販売から興行における運営管理まで、すべてリーグ側が行なう仕組みになっていました。チーム側は会場に来て試合をするだけだったんです。

 そのため全国各地で行なう試合に、東京から社員が出張して運営しなくてはならなかったんです。やはりこれには無理がありました。もちろん3シーズン目くらいまでにはチームに移管する話をしていましたが、当時はマネジメントの管理範囲を超えていて、よりよい状況にするための余力がありませんでした。

 初年度はTリーグの将来に期待して多くのスポンサー様がついてくださって、約15億円の売り上げがありましたが、運営費などで20億円以上を使ってしまったので、約6億円の赤字になってしまったんです。

 2シーズン目から私が入りましたが、その時にはすでにさまざまなことが決まっていました。私は昔、銀行員もやっていましたので、12月くらいには金繰りが厳しくなることがわかりました。就任当初は、倒産寸前の会社の再建計画をやるイメージでしたね。



卓球界のポテンシャルの高さを熱く語る日下部氏

――そこからどのような改革を行なっていったのでしょうか。

 卓球界の実情を分析すれば、私が実施したことは、当たり前の解答なんですよ。単純に、Tリーグの中にいる人たちが、俯瞰して見ることができない立場になっていただけだと思うんです。

 私はまず業務の整理を行ないました。必要のない業務もありましたから、部署ごとにクローズして、営業やチームサポート、チケット販売に異動してもらったりと、大きく変えていきました。

 そして大きかったのが、11月頃に、4年の中期契約を結んでくださるスポンサー様を見つけることができたことです。3シーズン目からの契約でしたが、その約定が取れていましたので、さまざまな支払いを一旦止めて、「3シーズン目に分割してお支払いさせてください」などと繰り延べのお願いもしました。そうして何とかその後の目途を立てることができたんです。

――3シーズン目から卓球版マイナンバーと言われる「Tid」を導入しましたが、これはどのようなものでしょうか。

 私が就任した2シーズン目から実施に向けて進めていたのが、このTidです。登録することによって、Tリーグのチケットやグッズ購入をスムーズに行なえたりするものです。すでにこのようなIDを実施しているスポーツ団体やリーグでは、観客やファンが登録するIDだったり、プレーする人たちが登録するIDだったりと、ファンとプレーする人たちのIDは分かれていました。

 実は卓球はDo層、プレーする人たちが多いスポーツなんです。日本卓球協会登録者が30万人以上(2021年データ)いて、週1回卓球をやっている人が100万人いるというデータもあります。これは非常に特徴的なことです。だから、Tidではこのプレーする人たちとTリーグファンを融合させたプラットフォームを作ろうと考えました。

 現在Tidが連携しているのは、「チケット」、「オンラインショップ」、「申し込み・キャンペーン」、「来場スタンプ」などで、決済機能も持たせています。たとえばファンイベントを開催する際に、Tidから申し込んで、事前に決済をしていただければ、会場に行った時に自分固有のQRコードを管理側の端末で読み込ませるだけで済みます。我々もファンも現場で現金をやり取りする手間が省けてとてもいい仕組みとなっています。

 それからプレーする人たちへのアプローチも考えて、一般の方々が参加する卓球大会の運営サポートサービスを行なう「P4MATCH」(ピーフォーマッチ)と業務提携しました。これは大会エントリー&決済から当日の進行まで、ワンストップで提供するウェブサービスで、卓球場を中心に小規模な大会をすでに700大会以上(2020年3月以降)サポートしている会社です。こことの提携により一般卓球愛好者のプレーする機会にも関わり、ゆくゆくは、このTidと連携を図る構想をもっています。

――Tid会員は現在どのくらいいらっしゃいますか。

 スタートして2シーズンが経過した状況で、今は3万人を超えています。今後は50万人、100万人を目指していきたいと思っています。

(後編に続く)

【Profile】
日下部大次郎(くさかべ・だいじろう)
同志社大学経済学部卒業。早稲田大学スポーツ科学学術院修士課程修了。日本興業銀行、みずほコーポレート銀行を経て、2005年に日本プロバスケットボールリーグの経営企画室ディレクターとしてリーグの立ち上げに関わる。その後、同リーグの東京アパッチ代表取締役、一般財団法人SS11 (競輪)事務局長、ヤマハ発動機ラグビー部アドバイザー、T.T彩たまスーパーバイザーなどを経て、19年7月にTマーケティング代表取締役社長に就任した。