チェルシーの戴冠で幕を閉じた2016-2017シーズンのプレミアリーグ。開幕前に「優勝候補」と叫ばれながら優勝争いに加われなかった3位シティと6位ユナイテッドのマンチェスター勢、在任21季目でサポーターから過去最大の解任論が巻き起こっ…

 チェルシーの戴冠で幕を閉じた2016-2017シーズンのプレミアリーグ。開幕前に「優勝候補」と叫ばれながら優勝争いに加われなかった3位シティと6位ユナイテッドのマンチェスター勢、在任21季目でサポーターから過去最大の解任論が巻き起こったアーセン・ベンゲル率いるアーセナル、昨季に続いてチャンピオンズリーグ出場権獲得で躍進したトッテナム・ホットスパー、そしてリーグ優勝から一転して苦戦が続いたレスター・シティと、さまざまなドラマが繰り広げられた。このコラムでは”私的”ベストイレブンを選出し、そこから今シーズンを紐解いてみたい。



プレミア初挑戦ながら存在感が光ったストークGKリー・グラント フォーメーションは、リーグ王者のチェルシーが採用した3-4-2-1。これまで4バックを基本型としてきたプレミアリーグで、同布陣を採用するクラブが劇的に増えた。チェルシーを皮切りに、トッテナムやマンチェスター・C、エバートン、ウェストハム・ユナイテッド、さらにはアーセナルまでもが3バックをベースに選んだ。

 まずGKには34歳のベテラン、リー・グラント(ストーク・シティ)を選出した。純粋なパフォーマンスで評価すればダビド・デ・ヘア(マンチェスター・U)やウーゴ・ロリス(トッテナム)が該当するが、ストーク・シティの正守護神ジャック・バトランドが長期離脱した穴を見事に埋めた点を評価。さらに、昨季まで英2部のダービー・カウンティに在籍し、今季がプレミアリーグ初挑戦という苦労人である点も加味したい。派手さはないが、堅実なセーブでゴールマウスを守った。

 3バックは、右からセサル・アスピリクエタ(チェルシー)、トビー・アルデルヴァイレルト(トッテナム)、ヤン・フェルトンゲン(トッテナム)の3人。右サイドバックを本職とするアスピリクエタは、3バックシステムに見事に適応していた。ステイするか、ボールを奪いにいくか。1対1の局面における状況判断に優れ、リーグ優勝に大きく貢献した。

 3バック中央部には、ダビド・ルイス(チェルシー)と僅差でアルデルヴァイレルトを選出。堅実性の点で穴がなく、速さを活かしたカバーリングも突出していた。速さ、強さ、巧さの三拍子が揃うフェルトンゲンも、ハイラインを敷くトッテナムの最終ラインを支え続けた。

 また、DFの敢闘賞としてママドゥ・サコー(クリスタル・パレス)を挙げたい。リバプール時代はトラブル続きでパフォーマンスにムラがあったが、サム・アラダイス監督率いるクリスタル・パレスに期限付きで加入してから好パフォーマンスを維持した。その成果は、失点続きで降格の危機に瀕していたクリスタル・パレスを3試合連続のクリーンシートで上昇気流に乗せたことでもわかる。彼が出場した試合は5勝2敗1分。ひざのケガでラスト4試合を欠場したが、力強い守備で不振のチームを救った。

 3-4-2-1の「4」の位置にあたるセントラルMFには、エンゴロ・カンテ(チェルシー)とアンデル・エレーラ(マンチェスター・U)を選んだ。前者のフランス代表MFは、プロサッカー選手協会(PFA)とイングランドサッカー記者協会(FWA)が選ぶ最優秀選手の「ダブル受賞」だけで、それ以上の説明は不要だろう。

 彼の相方には、アスレティック・ビルバオ時代にマルセロ・ビエルサ監督の薫陶(くんとう)を受けたエレーラを選出。優れたボールテクニックに加えてサッカーIQが高く、スペースの埋め方やパスの出し方など、相手チームにはとにかく嫌らしい存在だった。ちなみに、5月24日に行なわれたアヤックスとの欧州リーグ決勝で、チームの2点目を挙げたMFヘンリク・ムヒタリアンに「ゴール前に行け」と指示を出していたのは、このエレーラだった。

 候補者多数だったウイングバックには、右サイドにカイル・ウォーカー(トッテナム)、左サイドにマルコス・アロンソ(チェルシー)を選んだ。

 右サイドはアントニオ・バレンシア(マンチェスター・U)も捨てがたいが、守備を評価してウォーカーを選出。抜群の運動量と鋭いクロスは両者に通じる武器だが、リーグ最少の26失点しか許さなかったトッテナム守備陣での貢献度を評価ポイントにした。

 一方、左サイドにはダニー・ローズ(トッテナム)も候補だったがアロンソを選んだ。サイドバックながら188cmの長身を誇り、守備時は力強さ、攻撃時には速さを見せつけた。2010年から2013年まで在籍したボルトン時代は線の細さが気になったが、今は身体がひとまわり大きくなり、当たり負けすることもなかった。

 そしてベストイレブン選出でもっとも激戦区だったのが、3-4-2-1の「2」にあたる攻撃的MFだ。アレクシス・サンチェス(アーセナル)、サディオ・マネ(リバプール)、デレ・アリ(トッテナム)、クリスティアン・エリクセン(トッテナム)など”本命”が多数ひしめくが、昨季から見違えるほどパフォーマンスが向上したエデン・アザール(チェルシー)と、最終局面で違いを生み続けたケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・C)のふたりを選んだ。

 前者のベルギー代表MFは勝負どころの存在感が際立った。スピードギアを一気に上げるドリブルの鋭さ、ペナルティエリア外から枠内に飛ばすミドルシュートの正確さといった個人技はもちろん、連係プレーにも光るものがあった。際立っていたのが、センターフォワードのジエゴ・コスタとのコンビネーション。コスタにいったんボールを預け、敵を釣り出して生まれるスペースにアザールが飛び込む。一連の動きに質の高さが凝縮されていた。

 アザールのパートナーには、24ゴールを挙げたサンチェスと僅差ながらデ・ブライネを選んだ。18アシストはリーグ最多、チャンスにつながる「有効パス本数」はリーグ3位と、視野の広さに裏打ちされたパスはマンチェスター・Cの大きな武器だった。

 最後のセンターフォワード部門は、29ゴールを挙げて2季連続の得点王に輝いたハリー・ケイン(トッテナム)で決まりだ。シーズン開幕前に行なわれた欧州選手権ではイングランド代表のセンターフォワードとして出場するも、まったく力を出せずにサポーターとメディアに酷評された。その批判を糧(かて)に変えて得点王に輝いた意義は大きいだろう。