国内最高峰のフォーミュラカーレース「全日本スーパーフォーミュラ選手権」の第2戦が、岡山県にある岡山国際サーキットで5月27日~28日に開催された。 開幕戦とは異なるドライバーが上位を占めるレース展開となったが、そのなかでも目を見張るほ…

 国内最高峰のフォーミュラカーレース「全日本スーパーフォーミュラ選手権」の第2戦が、岡山県にある岡山国際サーキットで5月27日~28日に開催された。

 開幕戦とは異なるドライバーが上位を占めるレース展開となったが、そのなかでも目を見張るほどの強烈な走りを見せたのが、今季のチャンピオン候補のひとりと注目されている関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)だ。



今季初優勝を挙げた関口雄飛は表彰台でガッツポーズ 昨年からスーパーフォーミュラへの参戦を開始した関口は、第4戦・ツインリンクもてぎ(栃木県)で初ポールポジションから後続を圧倒して初優勝。第6戦・スポーツランドSUGO(宮城県)では不運なタイミングでのセーフティカー導入でひとりだけピットインのタイミングを逸し、もはや勝つチャンスを失ったかと思われたが、そこからライバルに1周あたり1秒も差をつける驚異的な走りでトップを死守。シーズン2勝目を挙げ、ファンや関係者を驚かせた。

 今シーズンは、さらなる活躍が期待されたが、開幕戦では12位。思うようにパフォーマンスを発揮できなかった。だが、岡山ラウンドでは一転、関口らしい”異次元の速さ”が蘇る。

 岡山での第2戦は2レース制が採用され、土曜日に第1レースの予選・決勝、日曜日に第2レースの予選・決勝を行なうという変則的なものになっている。前日の練習走行から好調だった関口は、第1レースの予選からライバルを圧倒した。

 岡山国際サーキットは全長が短いコースということもあり、毎回0.001秒単位の僅差でポールポジションが決まることが多いが、関口は2番手以下に対して0.5秒以上のタイム差を叩き出す。これには2番手に入ったアンドレ・ロッテラー(VANTELIN TEAM TOM’S)、3番手のニック・キャシディ(KONDO RACING)も”お手上げ”という様子だった。

 迎えた第1レースの決勝。関口はインタビューで「スタートの出来で99.9%(レース結果が)決まる」と答えていた。その予想は、残念な形で的中してしまう。

 スタートが切られると好ダッシュを決めたのはロッテラーで、トップを奪って1コーナーへ進入していく。2番手に下がった関口は背後に食らいつくも、岡山は追い抜きポイントが非常に少ない。第1レースは途中のピットストップもないスプリントレースということもあり、最後まで逆転は叶わず2位でチェッカーを受けた。

「思っていたとおり、スタートが重要でしたね。そこで出遅れて2位になってしまい、そこから抜くのはほぼ無理だというのはわかっていたのですが、精一杯がんばりました。でも、やっぱりダメでした」(関口)

 スタートをうまく決められず勝機を失ってしまったことに対する悔しさはもちろん、「第2レースでは絶対に優勝してみせる」という強い思いが伝わってくるような表情が印象的だった。

 そして翌日の第2レース。関口はその悔しさをぶつけるような快走を見せる。午前中の予選は3番手。だが、スタート直後の混戦でポジションをひとつ落としてしまった。第2レースでは4輪のタイヤ交換義務があり、レース途中に1回はピットストップが必要となる。4位に落ちた関口は、いきなり1周目にその義務を消化する作戦を選択した。

 このピットストップによって後方からレースを進める展開となったが、前方に誰もいない状態で自分のペースで走ることができる。ここから関口は、昨年に何度も見せた”異次元の走り”を披露した。

 岡山では過去2勝しているトップの石浦宏明(P.MU/CERUMO・INGING)も関口の作戦には気づいており、限界ギリギリの走りで周回を重ねていく。しかし、上位陣よりも1周あたり0.3~0.5秒ほど速いペースで周回する関口のほうが、明らかに優勢だった。

 34周目、石浦がピット作業を行なっている間に首位を奪取。レース終盤、セーフティカー導入の影響で接戦となるが、関口は最後まで冷静にトップを守り切って今季初優勝を飾った。

 第2レースに見せた関口の走りは、「ライバルを圧倒した」という表現では足りないくらい衝撃的なものだった。この快走には石浦も「悔しいですが今日は完敗です」と素直に認めるほど。チーム・インパルの星野一義監督は「ピットアウトしたときの無線を聞かせてあげたいくらいでした。『ぶっちぎってやる!』とひと言。そのプロとしての根性が今日の優勝を近づけたと思います」と勝利を喜んだ。

 関口は記者会見などで思ったことをストレートに話すなど歯に衣着せぬコメントで、周りから見ると少々ヤンチャなところがある。しかし、このスーパーフォーミュラに来るまでの道のりは長く、苦労の連続でもあった。

 2011年、全日本F3選手権でチャンピオンを獲得。通常ならそのまま国内トップフォーミュラへステップアップするのだが、残念ながらその機会を得ることができなかった。関口はスーパーGTなど、他のカテゴリーへ参戦しつつチャンスをうかがった。

 スーパーフォーミュラ参戦のきっかけとなったのは、2015年秋に鈴鹿で行なわれたルーキーテスト。このときはエンジンメーカーテストも同時に行なわれ、レギュラードライバーも多数参加していた。そこで関口は雨の降りしきるなか、初めて乗るマシンでトップタイムを記録して存在感をアピール。これが関係者の目にとまり、2016年からチーム・インパルのシートを手にすることができたのだ。

 また関口は、テレビ中継でインタビューを受ける際には毎回、必ず自身を応援してくれているスポンサーロゴがカメラに収まるようにアピールすることも欠かさない。今回の優勝インタビューでも、腰から下についている彼個人のスポンサーロゴが映るように工夫する場面があった。応援してくれている人、自分を支えてくれている人への感謝を忘れない――。それは、記者会見での言葉にも垣間見えた。

「昨年のSUGOでは自分でも結構いい走りができて100点満点の内容で、ある意味自分で勝ち取ったという感覚でした。でも、今日はチームにいいクルマと作戦を用意してもらい、勝たせてもらった感が非常に強いです。本当にチームに感謝しています」

 今回の2レースで関口は合計10ポイントを稼ぎ、ドライバーズランキングで5番手に浮上。トップとは2ポイントと僅差で、さらに第3戦・富士スピードウェイ(静岡県)、第4戦・ツインリンクもてぎはチームが得意としているコースだ。この流れで連勝する可能性も十分にある。

 2015年から国内トップフォーミュラシリーズのカレンダーに復活した岡山国際サーキットだが、2015年、2016年ともに同地で優勝したドライバーがその年のシリーズチャンピオンに輝いているというジンクスがある。そう考えると今年は、関口雄飛がタイトルを獲得することになるのか……。そんな予感をさせるようなレースウィークだった。