ヤンキースのエース、田中将大に何が起こっているのか──。 5月14日のアストロズ戦、20日のレイズ戦で、田中は合計4回3分の2を投げて14失点・7被本塁打とメッタ打ちに遭った。本人も「キャリアの中でも最も悪かった2登板」と述べるなど、…

 ヤンキースのエース、田中将大に何が起こっているのか──。

 5月14日のアストロズ戦、20日のレイズ戦で、田中は合計4回3分の2を投げて14失点・7被本塁打とメッタ打ちに遭った。本人も「キャリアの中でも最も悪かった2登板」と述べるなど、行く手には暗雲が漂ったかと思えた。

 しかし、背水の先発登板となった26日のアスレチックス戦では、7回3分の1を5安打1失点に抑えて復活。この日は四球をひとつも出さず、メジャーでの自己最多となる13奪三振をマークして気を吐いた。打線の援護がなかったために敗戦投手にはなったが、その投球内容はひとまずファンや関係者を安心させている。



26日のアスレチックス戦で、前2戦と見違える投球を披露した田中 今季はここまで5勝4敗、防御率5.86。試合ごとの波がやや大きくなっている田中の現状や不調の原因、復活の理由について、あるメジャー球団の大ベテランスカウトに分析を求めてみた。

 チームに提出するレポートの記載内容も一部含まれるため、スカウトの所属球団、名前などは明かせない。しかし、彼が獲得した選手の中には殿堂入りプレーヤーも含まれており、球界でも一目置かれる存在であることは記しておきたい。27日のアスレチックス戦をヤンキースタジアムで観たそのスカウトに、田中の現状に関して率直な意見を話してもらった。

***

──これまで安定感に定評があった田中ですが、5月中旬の2登板では驚くほどに痛打されました。不調の要因をどう考えますか?

「私が話したヤンキースの人間は、田中の投球フォームが崩れていることを心配していた。具体的には、投げ急ぐあまりに身体が開き、投球の際に腕の位置が下がってしまっていた。そのフォームでは球のキレがなくなり、コマンド(狙った場所、コースに投げる能力)を安定させることも難しい。メカニクス(投球の際の技術や体の動き)の乱れのおかげで、どの球もホームプレート中央の甘いコースに入りがちになっていた」

──26日のアスレチックス戦の前に本人は、「制球、キレのどちらかがよければここまで崩れることはないが、両方の不調が重なったために歯止めが効かなくなった」と話していましたが、その26日の試合では見違えるような投球をしました。最新の登板をどう分析されましたか?

「アスレチックス戦ではメカニクスが改善され、より辛抱強い、安定したフォームになっていった。おかげで速球系の球速も十分。(資料を見ながら)速球は92〜95マイルの間で、93マイル(約150キロ)の球が多かった。その球を低めに丹念に集め、ストライクゾーンの両サイドに上手に投げ分けることもできていた」

──変化球の中でよかったボールは?

「特にスライダーのキレがよくて、曲がり始めるのが遅かったために打者は見極めが難しく、これが『アウトピッチ(決め球)』になっていた。右打者に対しては外角低めにきれいに曲がって落ち、左打者に対しては、外から曲げて外角のストライクゾーンに決めるいわゆる『バックドア』も有効だった」

──最大の武器であるスプリッターはどうでした? 

「スライダーで早々に追い込む場面が多く、おかげでスプリッターも効果的になっていた。一方で、カウント2−0、3−2といった苦しい状況でもスプリッターを投げていた。この日はスプリッターの制球だけでなく、威力にも自信が持てていたということだろう」

──ゲームを通じて、どの球もよかったのでしょうか?

「ゲーム終盤には、真っ直ぐが序盤ほど信用できなくなっていたが、変化球がよかったがために問題はなかった。5、6回以降、特に走者を出した際には、速球はあまり使わず、スライダー、スプリッターに頼っていた。13奪三振のうち、9個はスライダーで、4個はスプリッターで奪ったもの。メカニクスが改善されたことで投球がアグレッシブになり、自信を持って強打者相手に向かうことができていた」 

──この日の投球には、かなり高い評価を与えているようですね。

「ゲーム開始直後はストライクゾーンの低めに速球をしっかりと投げ、スライダー、スプリッターは1試合を通じてよかった。私が見た中でも最高級のピッチングだった。採点するならAプラス。右肘に不安があるのではないかという懸念の声を吹き飛ばすと同時に、田中にはメジャーで先発ローテーションのトップを務める能力があることをあらためて証明した。『ワオ!』と言いたくなるような素晴らしい投球だった」

──今後に不調を引きずる可能性はありませんか?

「打者がスランプを経験するのと同じように、ピッチャーも調子が落ちることはある。クレイトン・カーショウ(ドジャース)、マックス・シャーザー(ナショナルズ)のような大エースだってそれは同じだ。しかし、いい投手というのは2、3試合で態勢を立て直すことができるものだ」 

──今季は正捕手のゲイリー・サンチェスではなく、オースティン・ロマイン捕手とバッテリーを組んだ時の方が田中の成績は極端によくなっています。ジョー・ジラルディ監督は「昨季はサンチェスが捕手の日も田中はよかった」と反論していますが、キャッチャーとの相性は好不調に関係あると思いますか?

注:今季はサンチェスが捕手の際は18回3分の1で防御率12.27、ロマインが捕手の場合は36回3分の2で防御率2.21

「それは重要な要素だと考えている。守備面ではロマインのほうが遥かに優れていて、リードもうまく、捕球技術も上回っている。ディフェンスに限って言えば、サンチェスは肩以外の多くの面で劣っている。それが投手の投球内容に影響していることはまったく驚きではない。守備の優れた捕手は二流の投手をいい投手に見せ、二流の捕手は好投手を二流に見せてしまう。キャッチャーというのはそれほど大きな違いを生み出すものだ」

──田中が完全復調するかどうかは、ヤンキースのトレード期限までの補強にも影響を及ぼすと思いますか?

「それは間違いない。ここまでヤンキースは予想外に順調にきているが、今季中に真剣に優勝争いを目指すと考えたとき、物足りない部分があるとすればやはり先発投手陣だ。田中が好調だとしてもまだコマ不足。田中が不安定だった場合に、補強の必要性はより高くなる。今後しばらく、フロントの人間は田中の投球内容を注意深く見守ることだろう」