期待のジュニア、坂本怜をサポートする山中コーチ昨年、全国中学生選手権大会で優勝。今年2月から盛田正明テニス・ファンドのサポートを受けてアメリカ・フロリダ州にあるIMGアカデミーにテニス留学をしている…

期待のジュニア、坂本怜をサポートする山中コーチ

昨年、全国中学生選手権大会で優勝。今年2月から盛田正明テニス・ファンドのサポートを受けてアメリカ・フロリダ州にあるIMGアカデミーにテニス留学をしている坂本怜(誉高)は現在16歳。当時700番台だったITFジュニア世界ランキングを、わずか数ヵ月で25位(8月15日付)に上げて今大会で、グランドスラムジュニアデビューを果たした。

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見事1回戦を勝ち抜くものの、続く2回戦で敗退となっている。しかし、190cm超というサイズから放つショットが魅力的であることはもちろん、大舞台でアンダーサーブを打ったり、ドロップショットを決めたりといったアイディアを見せる度胸も兼ね備えている。

その坂本をIMGアカデミーでサポートする山中夏雄氏(IMGアカデミーコーチ、盛田正明テニス・ファンド専属コーチ、ヨネックスアドバイザー)に話を伺った。

Q.坂本選手、良いところを見せながらも敗戦となりました。

「現時点でできるベストを尽くしたのは一番良かったと思います。正直、ここ1、2週間、状態は良くなかった。1回戦で少し良くなって迎えた2回戦でしたが、出来が良かった相手に対して、本来の力を出せたと思います。本来以上の力を出せた瞬間もありました。改善点については、あげたらキリがないです(笑) それよりも、まず自分の良かったところをたくさん把握して、次の大会に持っていくことが先です。前向きな部分を整理したら、課題について話をする過程になると思います。とはいえ、彼らしい執着した局面もあったし、積極さ、粘り強さも見られたのは良かったです」

Q.今年2月にIMGアカデミーに来て、それまで海外での試合経験がなしと伺うと、これだけ戦えることに可能性を感じます。

「2月の時点で700番台、それが25位まで来ています。盛田正明テニス・ファンドのサポートがあってこそですが、彼もそのチャンスを活かしている。これから、ジュニアの上のステージもあるし、来週、ITFワールドツアーにも出る予定ですが、すぐに一般のツアーも待っている。そこに集中している状態です。この7ヵ月、物事がすごく早く進んでいるという中で、よくやっているなと感じます。元々、名古屋・チェリーテニスクラブで頑張っていて、チャンスを掴んで色々な国の選手と戦い、今回もグランドスラムジュニアという経験をした。目まぐるしいほどいろいろな経験をする中で、よく消化して進んでいるなと思いますね。彼自身が持つおおらかさがあってこそですし、ご両親、クラブのサポートも素晴らしかったんだと思います」

Q.海外に通用する選手について、共通点はあるのでしょうか?

「正解はないと思います。盛田正明テニス・ファンドでも、いろいろな選手がいますし、これがダメとかではなく、すべてが正解だと思います。バックグラウンドよりも、チャンスをどう活かすか? 日本の指導者の方、ご両親という存在がサポートしてきたことは尊いものだと思います」

Q.サポートする側としては、この先のことも予期してとなりますが、テニスの潮流についてどんな変化を考えているでしょうか?

「まず道具が進化して、伴って身体能力が進歩してきた。そしてパワーテニスに行き着いたのは自然なことだと思います。道具、体が良くなれば、打ち方も変化する。歴史を見ると、テクニックは巡っている感じがしています。ストローク全盛となれば早いテンポやネットプレーが多くなる。ボレーヤーが強くなれば、ディフェンスに長けた選手が出てくる。何かが流行したら、それを打破するスタイルが出てくるというのを繰り返しています。パワーテニスが全盛の今、そのパワーに負けないようにして早いテンポ、ネットというのが出てくるのかもしれません。実際、ネットを取る回数は、少しずつ増えています。選手たちが遅れを取らないように、と、私たちが先見の明を持って導くことが大事です」

Q.先見の明もコーチとしての資質ですね。

「選手たちが日々試合、練習と一生懸命にやっている中で、寄り添いながら、その先がどうなるかを想像して少しずつ準備をしていくというのが私たちの仕事です。その場に応じてという形での後追いはダメです。先を走らないと」


「テニスは超わがままであるべきスポーツなんです」

Q.どんなテニスをするかという部分もありますが、ジュニア世代では特に体を作るという過程も重要ですよね。

「そうですね。大会期間中もトレーニングは続けています。今はジュニアでさえもプロのようにオフシーズンが短くなっています。ケガを避けながら。ビルドアップを図ることが大事ですね。もちろんケアも大事で、たいていは体のひずみから来るもの。テニスというのは体反面を多く使うスポーツなので、日々重ねていっている体の癖を取る必要があります。そのうえで、体を作っていく。ケアをしてひずみを取って、ビルドアップを図る。その双方が大事です。数年後には坂本も、もっとビルドアップしているはずですよ」

Q.冒頭にも触れましたが、坂本選手は経験が浅い中で、可能性、スター性というものを感じます。

「ある意味、自由気ままにテニスをしていて、多くのことが気になっていない、うまく集中しているという状態かもしれません。ある意味、自由と言いますか。その反面、2回戦では一気に緊張が高まるシーンもありました。彼は、自分のペースを守るタイプでサーブのルーティンもしっかりしています。しかし、ここではショットクロックがあって、きちんと計測されていれますね。だから、わずかにリズムが早くなっていました。それも崩れる要因となります。

実は、ここ2ヵ月くらい彼に会えていなくて、久しぶりに会ったら、とてもガチガチに歩いていたのです。理由を聞いたら、彼なりに“やらなきゃ”という感じになっていました。だから、まず堅さを取り除きました(笑) 本当に自由だし、こちらが待たされたりもするし、イライラもする。付き合うのは大変な部分もありまうが、ある意味、私たちも成長させてもらっていると思います」

Q.自分のペースを守ることはカギになる。

「協調性とかは、人としては大事ですけど、個人競技という中で無理やり出す必要はないと思います。一般的にいう人間力という部分は、テニスで強くなるためにはあまりいらない。誤解しないでほしいですが、テニスは超わがままであるべきスポーツなんですよ。自分の考えで動き、プレーしてポイントを取る。絶対取ってやる、みたいな強い思いがうまく実現しないと、ラケット破壊や暴言になるわけです。

2月に坂本が来た時、こんなことがありました。ラリーをしていたら、私がいる場所に打ってくるんですよ。相手に合わせる練習、必要なロングラリーならばやるけれど、テニスは相手がいない、相手が嫌な場所に打つべきスポーツ。そのための練習だからねという話をしました」

Q.日本人が持つ協調性は、テニスでは問題になりうる。一方で、しっかり返すといったテクニックは、日本人だからこその精度の高さがありますよね。

「そうですね。日本人に、そういうベースがあるのは強みです。だから、雰囲気を持っている子もいます。あとは、いかに周りが受け入れて解放させてあげられるか。それも含めて環境作りは大切ですよね。私たちが育った時代のやり方は古い。それは1%もいらないと思います。チャンスは誰にでもあります。この世界に魔法はないですが、日本人は日々精進というのが得意ですからね」

Q.日本人の良さを大事にしながらも、世界基準を体得することが必要。だからこそ、コーチの役割は重いものです。

「どんな選手でも、根本には良いものを持っているんだと思います。あとは、いかに大事なところでそれを出すか。そういう環境を周りが作れるか? 個人的には、テニスをやろうと選んでいる時点で、自分で物事を采配したいといった意図を持っていると思います。そういう部分があるから、テニスを選ぶんだと思います」


錦織圭の“手は神様レベル”にすごい

Q.IMGアカデミー出身の錦織圭(ユニクロ/同370位)選手のテニスにも、そういった部分を感じられますね。覚えている中で、彼の良いところというとどんな部分になりますか?

「圭(錦織)については、私はロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)に匹敵するほど、素晴らしい“手”を持っていると思っています。ノバク・ジョコビッチ(セルビア)よりも上だと思います。ボディー・コーディネーションが素晴らしく、手は神様レベルなので、必然的に相手が予想できないボールを打つことができます。

具体的に言うと回転量が違いますね。ライジングであれだけの回転かけられるのは、(アンドレ・)アガシか圭くらいだと思います。早いタイミングで打つとどうしても回転量が減ってしまう。スピンがかけやすいから、高い打点で打つわけです。初心者的には、ボールが落ちたところで打つ方が簡単ですが、レベルが上がると、高いところで回転をかけられる。でも、圭やフェデラー、アガシくらいになると違う。アイコーディネーション(目の調節)が異常に高いわけです。エピソードはいろいろありますが、そこが一番に思いますね。

圭が12歳の時に打ったボールの質は、当時のトップ10と遜色ないものでした。見た目やステージはジュニアの12歳なんだけど、やっていることはトッププロと同じで、彼自身が先のことをやっていたわけです。少し前に坂本とも練習してもらいましたが、本調子でなくても色褪せていなかったですね」

Q.錦織選手に続く日本人選手の可能性というのはいかがでしょうか?

「チャンスはありますよ。よくトップ100に日本の選手がいない、少ないといった話になりますが、どの国でもそういう時期はある。アメリカ、イタリアは今いい時期ですが、スイスはどうなの? となりますよね。遅れを取っているとは思いません。未来は明るいですよ。今までどおり地に足を着けて、しっかり挑戦していくこと。ちゃんとやってきたことを続け、学ぶことがあるなら足していく。行動力があるなら大丈夫ですよ」

Q.楽しみな若手はいますか?

「ヤニック・シナー(イタリア)、カルロス・アルカラス(スペイン)といった選手はこれからが楽しみですよね。今、感じるのは中国の勢いです。IMGでやっている17歳の中国人選手も楽しみな存在です。でも、期待の若手といったら坂本ですよ。

どこまで行けるか、それはわかりませんが、彼のペースで、ベストを尽くしていくことで、いろいろな影響を与えることもできるはずです。テニスで、こんな風に自分を表現していいんだというのを見ていただきたいですね」

Q.最後に山中さんにとってテニスとは、どんなものでしょうか?

「ライフですね。人生そのもの。もちろん嫌なことがあり、我慢もありますが、人生を楽しむということが大事。難しい試合で負けたとしても、次のライフをどうするか? 来週のライフをどうするか? それだけでいいと思います。エンジョイすることが必要です」


■USオープン2022
・大会日程/2022年8月29日(月)〜9月11日(日)
・開催地/USTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センター(時差13時間)
・賞金総額/6,010万ドル(81億7,390万円)
・男女シングルス優勝賞金/260万ドル(3億5,360万円)
・サーフェス/ハードコート(レイコールド)
・使用球/[男子]ウイルソン「USオープン・エキストラ・デューティ」、[女子]ウイルソン「USオープン・レギュラー・デューティ」

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