リーガエスパニョーラ・セグンダ(2部)第40節。マドリード郊外で行なわれたアルコルコン対テネリフェは、柴崎岳の25歳の誕生日を祝うスペイン初得点などで1対3とテネリフェが勝利し、プリメーラ(1部)昇格プレーオフに王手をかけた。アルコル…

 リーガエスパニョーラ・セグンダ(2部)第40節。マドリード郊外で行なわれたアルコルコン対テネリフェは、柴崎岳の25歳の誕生日を祝うスペイン初得点などで1対3とテネリフェが勝利し、プリメーラ(1部)昇格プレーオフに王手をかけた。



アルコルコン戦でスペインでの初ゴールを決めた柴崎岳(テネリフェ)「誕生日の歌が歌われていたのは後で(皆に)言われて、その時は気づかなかったですけど、祝ってくれてよかったです」

 83分、柴崎がピッチを離れてベンチに戻る際、マドリードに駆けつけた100人近くのテネリフェサポーターは、この試合の決勝点となるゴールを決めた日本人MFに向けて、スペイン語版の「ハッピー・バースデー」を歌って祝福した。

 柴崎の初ゴールが生まれたのは31分。アルコルコンのDFラインの裏にスペースを見つけた柴崎は、MFタイロンの縦へのスルーパスを引き出し、飛び出したGKの脇を抜くシュートをダイレクトで放ちネットに突き刺した。

 試合終了後、チームを勝利に導くバースデーゴールを決めた日本人のコメントをほしがったのは日本のメディアだけではない。テネリフェメディアもその活躍を大きく報じようとミックスゾーンで柴崎を囲んだ。

「Contento, me alegro mucho. (満足だし嬉しい)」

 記者の質問こそスペイン人通訳に日本語に訳してもらったが、柴崎はスペイン語で一生懸命に話している。テネリフェに移籍して4カ月。もちろん上手なスペイン語とはいえないが、柴崎はしっかりと日本語からスペイン語へと頭のチップを変換して地元記者の質問に答えていた。

 移籍直後の、早々に日本に帰国するのではないかと言われた騒動が嘘のように、その姿勢は、柴崎がチームやスペインのサッカー、生活に適応しようと前向きに歩んでいることを感じさせるものだ。実際、柴崎は地元メディアの「今では問題はないか、幸せか?」という質問に対して、「Sin problema. todo muy contento. (問題ないよ。すべてのことに満足している)」と答えていた。それを聞いたテネリフェの記者やカメラマンの一団は笑顔に包まれた。

 柴崎はサポーターとも地元メディアとも友好な関係を築くことができた。ピッチ外のいい雰囲気はピッチの中にもいい影響を与える。それにより少しずつ結果も出せるようになってきた。

 アルコルコン戦で5試合連続先発出場。プレー時間が伸びていることは監督ホセ・ルイス・マルティーの信頼を勝ち得ている証(あかし)である。チームメートからボールも集まるようになり、ゴールの起点となるプレーはもちろん、この日の得点も生まれた。

 テネリフェは現在4位。自動昇格(1、2位)の芽こそ潰(つい)えたが、次節、鈴木大輔の所属するナスティック・タラゴナに勝利すれば、昇格プレーオフ出場権を手にする6位以内をテネリフェは確保することができる。

 もちろんこれでテネリフェと柴崎の挑戦が終わるわけではない。3位と6位、4位と5位が対戦し、その勝者同士が最後に残るプリメーラ昇格の1枠を争うプレーオフ。2週間でホーム&アウェー合わせて4試合を戦う短期決戦は、順位や実力以上に、その時の勢いがものをいう。

 リーグ戦の残り試合は、プレーオフ出場権を確保することだけでなく、チームに勢いをつけるためにもいいイメージと結果を残すことが必要になってくる。しかも次節はホーム、エスタディオ・エリオドロ・ロドリゲス・ロペスでの最終戦であり、テネリフェの人々に歓喜を与えるためにも是が非でも勝利がほしいところだ。

「プレーオフに進出することが自分たちの目標だけど、そこでしっかりと結果を残したい」(柴崎)

 スタートダッシュこそ躓(つまず)いてしまった新天地スペインでの戦いだが、今では監督、チームメイト、サポーター、そしてメディアの信頼を勝ち得ている柴崎。日本ではクールであまり笑顔を見せないと言われていたMFは、プリメーラ昇格を決めたときはどんな表情になるのだろうか。