「今週は厳しくなるんじゃないかな、と思います」 角田裕毅は第15戦オランダGPの週末を前に、あっさりと認めた。 今までなら「走ってみなければわからない」と、いいほうにも悪いほうにも期待値を振らないスタンスが多かった。しかし、走る前にある程度…

「今週は厳しくなるんじゃないかな、と思います」

 角田裕毅は第15戦オランダGPの週末を前に、あっさりと認めた。

 今までなら「走ってみなければわからない」と、いいほうにも悪いほうにも期待値を振らないスタンスが多かった。しかし、走る前にある程度そう言いきれてしまうのは、AT03のマシン特性に対する理解がかなり進んできているからだ。



オランダGPのコースを電動バイクで確認する角田裕毅

 第12戦フランスGPで投入したアップグレードは、第13戦ハンガリーGP決勝での実験的なデータ収集を経て、うまく使いこなせるレベルにまで理解が進んだ。それが第14戦ベルギーGPでのピエール・ガスリーの9位入賞につながり、角田もピットストップのタイムロスがなければ入賞できた可能性が高かった。

「ハンガリーで2台のセットアップを大きく分けて走ったことでそこから発見した部分があったので、理解は進んできています」

 ただし、今あるAT03のポテンシャルを最大限に引き出したとしても、中団グループのトップが狙えるわけではない。アゼルバイジャンGPではそれができたが、ほかのサーキットではそうとは言えない。

「個別のコーナーがどうというよりも、ダウンフォースを必要とするサーキットのほうが、より厳しくなる傾向があるかなと感じています。で、そこまで多くダウンフォースを必要としないサーキットでは、それほど苦戦することは少ないかなという印象です。

 そのいい例がスパ・フランコルシャンとアゼルバイジャンで、そういうサーキットではダウンフォースレベル自体がかなり低い状態で走ってもハンガリーのように苦しんでいないので、そういうところが自分たちのマシンには合っているかなと思います」

 それは、ライバルたちのマシンへの理解を深めた、ということでもある。

 アルファタウリは第4戦、第12戦と間隔を空けてでも、大型アップデートを投入するという方針だった。だが、散発的に次々アップデートを重ねてきたライバルたちの一歩一歩の歩幅は、小さくても気づけば前に進んでいる。

アルファタウリに追い風?

 中団上位のアルピーヌやマクラーレンは言うまでもなく、ハースやアルファロメオといったフェラーリ型のコンセプトを持つマシンも、コーナーが得意でハイダウンフォースサーキットこそ実力を発揮する。その結果、彼らと争うアルファタウリは中団下位へとポジションを下げることになる。

「僕らとしてはアップデートパッケージに適応できたかなというところですけど、ほかのチームがアップデートを入れてきているので、外から見た時にその効果がリザルトとして見えにくい。周りも続々とアップデートを投入して前進しているのに対し、僕らはフランスで入れただけでその前後はアップデートがなくて、相対的に後退しているという面がある」

 オランダGPの舞台となるザントフォールト・サーキットは、100km/h以下のコーナーがなく、ストレートも短い。そして実質10個のコーナーのうち200km/hを超える高速コーナーが2つ、中高速コーナーが2つ、残り6つは中低速コーナーが連続するコーナリングサーキットだ。どのチームもハンガリーGPと同様にハイダウンフォース仕様で走行し、コーナーでタイムを稼ぐ。

 アルファタウリにとって厳しい戦いになる、と予想されるのはそのためだ。

 だが、リザルトにはつながっていないものの、特性の似たハンガロリンクでもガスリーがピットレーンスタートから12位まで追い上げるなど、決して苦手というわけではないポテンシャルは見せている。

 ザントフォールト・サーキットには4.5〜19度というダイナミックな傾斜を持つバンク付きコーナーが2つあり、なかでも最大傾斜18度の最終コーナーは長時間にわたってマシンが路面に押しつけられながら走行することになる。今年はここでDRS(※)を解禁しようという向きもあり、ストレートで稼ぐアルファタウリにとっては追い風になるかも知れない。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

日本GPに向けて必要な蓄積

 角田としては当初、ここでパワーユニットを投入してグリッド降格ペナルティを消化する予定だった。しかし前回のスパで消化できたことで、今回は本来の位置でレースができる。

 先週のベルギーGPでも入賞こそできなかったものの、予選でQ3に進み、入賞圏を争うポテンシャルがあることは確認できている。

 予選では派手なロックアップでQ1敗退を喫したように見えたが、実際にははるか手前のターン8で軽くロックアップ、ターン13立ち上がりで大きくリアが流れてタイムロスをし、最終シケインはダメ元で果敢に攻めただけのことだった。そしてスナップの原因も、フロアにダメージがあったと見られるデータが見つかっている。

 フロアを交換して臨んだ決勝では、ハードタイヤでスタートして中団勢のなかで好ペースを維持して走り、一時は7位まで浮上。2度のピットストップで2度とも手痛いタイムロスがあり、DRSトレイン状態の集団後方に埋もれて入賞できなかった。しかしガスリーが証明したように、ペースとしても戦略としても入賞が狙える位置にいたことはたしかだ。



ベルギーGPでの角田裕毅の走りは決して悪くなかった

「戦略としては失敗ではなかったです。あとで考えれば1ストップで行ける可能性はあったね、という話もありましたけど、タイヤのデグラデーション(性能低下)がかなり大きかったので、あの瞬間あの場面での判断としては、2ストップじゃないと行けないという判断になりました。

 それよりも、ピットストップのロスが大きかったと思います。それでDRSトレインのうしろになってしまいましたけど、そこまでのペースはとてもよかったですし、ハンガリーGPに比べてマシンバランス面でも大きく前進することができた。ベルギーGPはとてもポジティブな週末になったと思います」

 今週こそはクリーンなレース週末を送り、まだリザルトには見えていない上昇機運を、このザントフォールトで結果に結びつけたい。その結果が仮にポイント圏内でなかったとしても、その成功体験がこの先のチームの地元モンツァ、さらには角田の地元・日本GPへと確実につながるはずだ。