完全なる異次元の走り。 14番グリッドから瞬く間にポジションを上げ、1周目に8位、3周のセーフティカーランを挟み、リスタートの5周目から8周目までに5台を抜いて3位。12周目に僚友セルジオ・ペレスを抜き、18周目にフェラーリのカルロス・サ…

 完全なる異次元の走り。

 14番グリッドから瞬く間にポジションを上げ、1周目に8位、3周のセーフティカーランを挟み、リスタートの5周目から8周目までに5台を抜いて3位。12周目に僚友セルジオ・ペレスを抜き、18周目にフェラーリのカルロス・サインツを抜いて首位に立った。

 そこから先は、余裕のクルージング走行で独走勝利。スパ・フランコルシャンでのマックス・フェルスタッペンは、ひとりだけ別格の走りだった。



ベルギーGPで今季9勝目を飾ったフェルスタッペン

「クルマはFP1から本当にすばらしかったし、スパでこんなにいいなんて想像もしていなかったよ。今年は走っていて本当に楽しかった」

 予選でたった2セットしかタイヤを使わず、1セット目でQ1とQ2をクリアし、Q3では1回しかアタックを行なわなかった。今季4基目のパワーユニットを投入し、今シーズン残りの9戦で余裕を持って戦えるように、ここでグリッド降格ペナルティを消化することが決まっていたからだ。

 つまり、Q3は100パーセント本気のフルアタックではなく、程々のアタックをしたにすぎない。にもかかわらず、フェルスタッペンは0.632秒もの大差でトップタイムを記録した。

 そして決勝でも、圧倒的な速さを見せた。

「14番グリッドからのスタートだから難しさもわかっていたし、とにかく1周目は混乱に巻き込まれないように気をつけて走ったけど楽じゃなかった。リスクは冒したくなかったし、グラベルに出たり戻ったりと、目の前でいろんな混乱が起きていたからね。捨てバイザーを剥がさないと、ほとんど前が見えないような状態だった。

 でもなんとか生き残って、セーフティカーが出て状況が落ち着いてからは、まさに文字どおり毎ラップ前のクルマをオーバーテイクしていって、3位まで追い着いたところでまだソフトタイヤがしっかりと残っているのがわかった。その時点で『今日は勝てる可能性が高いな』と思ったよ」

同僚ペレスも完敗を認めた

 このフェルスタッペンの驚異的な速さの理由は何だったのか?

 理由はいくつか考えられる。ひとつは、スパ・フランコルシャンという特殊なサーキット特性にレッドブルのマシンが完璧にハマったということだ。

 スパはセクター1とセクター3が低速コーナーひとつ以外は全開区間であり、薄いウイングを装着して空気抵抗は極力減らさなければタイムを稼げない。しかし、セクター2には中速・高速コーナーが連続し、ダウンフォースも必要とされる。

 つまり、薄いウイングで大きなダウンフォースを生み出すことができる「空力効率の高いマシン」が強い。一方、最大ダウンフォース量が多くても、空気抵抗が大きければ遅い。

 これまで圧倒的な最高速を誇ってきたことからもわかるように、レッドブルRB18は空力効率の優れたマシンであり、それがスパ・フランコルシャンでは完璧にマッチしたというわけだ。

 しかしそれだけでは、ペレスとの差に説明がつかない。

 ペレス自身が完敗を認めるように、フェルスタッペンは中高速コーナーが連続するセクター2でRB18を完璧に乗りこなしてみせた。ここだけで0.448秒もの差をペレスにつけている。これは、リアが軽めのマシンでも難なく限界付近でコントロールしてみせるフェルスタッペンの能力と、彼好みのマシンセットアップの仕上がりによるものだろう。

 ちなみに噂されていた軽量化モノコックは投入されておらず、この先数戦でも投入の予定はない。車重は前戦ハンガリーGPと同じであり、今回の速さも軽量化によるものではないと、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表が明確に否定している。

 そして最後に、このベルギーGPから施行されたポーポシング対策の技術指令が、もともと縦揺れの大きかったフェラーリに影響したという見方もある。レッドブルは縦揺れが少ないマシンであり、影響はほとんどなかったとホーナー代表は語る。

「新しい技術指令書の影響についてはさまざまな予想がされていたが、我々はマシンの運用面で特に変更を加えていないし、実際のところ我々以上にライバルたちのほうが影響を受けたようだね。ここはオールージュがあるので車高の設定がいつも問題になるが、それは我々だけの問題ではないし、どのチームも同じだしね」

フェラーリは「ハズレの週末」

 ただし、3位に終わったサインツはこれを否定している。

「(技術指令の)影響はまったくなかったと思う。この結果はコース特性と僕らのマシンパッケージが合わないことが理由で、ハイダウンフォースサーキットのザントフォールト(次戦オランダGP)に行けば本当のパフォーマンスが見えてくるし、きちんと分析するにはあと数レースは必要だろう。

僕のフィーリングでしかないけど、僕らにとって今週は『ハズレの週末だった』ということだと思う。クルマの機能の仕方とか、このサーキットで求められる効率のレシオの問題だろう」



2位はペレス(一番左)、3位はサインツ(右から2番目)

 タイヤのデグラデーション(性能低下)でも、フェラーリは完敗だった。予選で0.6秒差をつけられただけでなく、決勝でもその差を埋めることはできず26秒差をつけられた。18周目から44周目まで、26周で26秒だ。

 フェラーリのマティア・ビノット代表は、空力効率の問題と、このタイヤデグラデーションが惨敗の理由だと分析している。

「今週末、レッドブルと我々の間にパフォーマンスの差があったことは疑いようのない事実だし、レッドブルは我々よりも速いマシンだった。ハンガリーとはダウンフォースレベルが違うスパ・フランコルシャンは、空力面とパワーユニット面の双方で効率が求められるサーキットで、そこが影響したと思われる。しかし今日は、それ以上にタイヤデグラデーションの大きさが我々のパフォーマンスに影響しており、その点はしっかりと原因を分析する必要がある」

 前半戦最後のハンガリーGPではポールポジションを獲り、いよいよトップ争いに加わるかと目されたメルセデスAMGも、このベルギーGPでは惨敗に終わった。しかし、1.8秒の大差をつけられた予選に比べ、決勝はジョージ・ラッセルがサインツと3位争いを繰り広げるパフォーマンスを見せた。このことからも、フェラーリの決勝パフォーマンスが非常に乏しかったことがわかる。

ルクレールの攻めの姿勢

 シャルル・ルクレールはフェルスタッペン同様にパワーユニットの降格ペナルティで15番グリッドからスタートし、1周目を終えた時点でフェルスタッペンの背後9位につけていた。しかし、捨てバイザーがブレーキダクトに入る不運でピットストップを余儀なくされ、後方集団に捕まって大きくタイムロスを余儀なくされた。

 その後、5位まで追い上げたところで最後にファステストラップを狙うべくピットインし、フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)に一度は抜かれたものの、それによってDRS(※)を得て最終ラップにアタック。だが、フェルスタッペンの最速タイムに0.6秒及ばず、実際には燃料搭載量が30kgほど違ったため、マシンの純粋なペース差は明らかだった。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 このトライを無謀だとけなす声もあるが、フェルスタッペンから1ポイントを奪い、自分が1ポイントを得るためのトライは、決して間違いではない。フェラーリにはこれまであまり見られなかった攻めの姿勢だ。アロンソの1秒前で戻る計算ではあまりにハイリスクと思われがちだが、タイヤ差とDRSがあれば抜き返すことは容易であり、それはリスクではない。

 結果的に車速センサーのトラブルでピットレーン平均速度が1.0km/hオーバーしてしまい、5秒加算ペナルティで6位に後退することになってしまったが、それがなければ何も失うものがなかったトライだ。決して無謀な戦略ミスではなく、理に適ったトライだったと言うべきだろう。

 いずれにしても、このベルギーGPの勢力図がシーズン後半戦の勢力図ではない。スパ・フランコルシャンというあまりに特殊なサーキットでの勢力図であり、一般的なレンジのサーキットではどんな展開になるかは未知数だ。

オランダGPで勢力図が見えるか

 わずか1週間後のオランダGPの舞台「ザントフォールト」は、鈴鹿とハンガロリンクを混ぜたようなサーキットであり、スパとはまったく異なるレースになる可能性も十分にある。だから、レッドブルもフェルスタッペンもこの圧倒的優位が続くとは思っていない。

「技術指令書による影響は、ザントフォールトのほうが大きなチャレンジになるだろう。バンピーでバウンスしやすいサーキットだからね。ハンガロリンクに似たレイアウトで、そういう意味でフェラーリやメルセデスAMGもまた挽回してくるだろう。だから今回とまた違ったタイプの挑戦になる。

 ザントフォールトは去年の雰囲気もすごかったが、今年はマックスがチャンピオンとして、カーナンバー1のマシンで戻ってくるんだから、期待値はものすごいだろう。今年はもっとすごいと思うよ」(ホーナー代表)

 まだまだ勢力図は未知数。チャンピオンシップが決まったとみるのは、まだ早すぎる。