約1カ月の夏休みが終わり、F1は残り9戦のシーズン後半戦に突入する。3週連続開催から3つのダブルヘッダーと、猛スピードでシーズン閉幕まで突き進む後半戦になるはずだ。それだけに、この初戦ベルギーGPは重要になる。 マックス・フェルスタッペン…

 約1カ月の夏休みが終わり、F1は残り9戦のシーズン後半戦に突入する。3週連続開催から3つのダブルヘッダーと、猛スピードでシーズン閉幕まで突き進む後半戦になるはずだ。それだけに、この初戦ベルギーGPは重要になる。

 マックス・フェルスタッペン対シャルル・ルクレール、レッドブル対フェラーリの選手権争いは、圧倒的に前者優位の様相だ。だが、マシンの戦力だけを見れば、そうとは言いきれない。



選手権首位でシーズン後半戦を迎えるフェルスタッペン

 そのことはレッドブル自身が最もよくわかっており、フェルスタッペンも前半戦に繰り返し述べてきた見方はスパ・フランコルシャンに来ても変わっていない。

「誰もこんな状況になるとは予想していなかったと思うけど、このポイント差は実際の競争力を反映したものだとは思っていないよ。ここまでのレースではすべて、どこかのチームが独走したことなんてなかった。どのレースもほんのわずかなマージンで優勝が決まっているし、それはこれから先のレースでも続くものと僕は思っている。フェラーリを打ち負かすのは簡単ではない」

 フェラーリは信頼性不足やチームのミス、ドライバーのミスで、いくつもの勝てるレースを落としてきた。ルクレールもフェルスタッペンと同じく、両者の実力差は極めて小さいと見ている。

「まだチャンピオンシップ(を制すること)は可能だと信じている。もちろん、ものすごく難しいチャレンジになることは間違いない。でも、僕は最後の最後まで信じ続ける。シーズン前半戦は本当にアップダウンだらけで、感情も積もり積もって疲れきっていたから、夏休みは本当に必要だった。

 レッドブルと僕らの差は極めて小さいし、僕らのほうが少しだけ速い時もあれば、彼らのほうが少しだけ速い時もあった。そして今では、メルセデスAMGもトップ争いに加わってこようとしている。そんななかで優勝できるのは、レース週末をすべてまとめ上げることができた者だ。それが、2チームのどちらが勝者になるかを決めるんだ」

ベルギーGPから加わった要素

 信頼性不足は、ルクレールも2戦、フェルスタッペンも2戦を落としていてイーブン。しかし、ドライバーミスはルクレールが2回に対し、フェルスタッペンは0回。そして戦略ミスとも言えるチーム判断に起因するポイントロスが、ルクレールは第7戦モナコ、第10戦イギリス、第13戦ハンガリーと3回あった。

 モナコとイギリスは「ルクレールを勝たせる戦略」ではなく、「フェラーリの2台どちらかが勝つ可能性が最も高い戦略」としては間違いではなかった。ハンガリーのミスは、戦略というよりもタイヤ性能の読み間違いと、そもそものマシンの速さが足りなかったことだ。

 フェラーリを率いるマティア・ビノット代表の「何も変える必要はない」というコメントがひとり歩きしているが、彼が合わせて語った「何かを変えるのではなく、間違っているところを究明・修正し、これまでの12戦のようなコンペティティブな状態に戻ればよい」というのは、至極当たり前のことだ。

 タイヤへの理解を深め、タイヤをうまく使えなかったマシンのセットアップを見直す。これはストラテジスト(戦略担当)をクビにすることでもなく、今季初の事象に直面したタイヤ担当エンジニアを交代させることでもない。

 ただし、レッドブルが実質的にフェルスタッペン最優先の体制を採っているのに対し、フェラーリがふたりを同等に争わせる方針を貫くかぎり、ルクレールにとってはポイント差を縮めるのは容易ではないシーズン後半戦になるだろう。その点をフェラーリがどう考えるかだ。

 そしてベルギーGPからは、新たな要素も加わる。

 ひとつめは、バウンシング(ポーポシング)規制。

 ドライバーの身体に掛かる負荷を軽減するため、グラウンドエフェクトカーが生み出す縦揺れが一定以上のGを記録すれば、チームは車高を上げるなり何らかの対策を執らなければならない。

 レッドブルはほとんどバウンシングが発生していないため影響はないと見られるが、ドライバーのヘルメットが揺れていることが多いフェラーリは影響を受ける可能性がある。

「僕らには特に影響はないはずだよ。ただ、ほかのチームにどれだけ影響があるのかはまだ未知数だ。でも、過去数戦を見てもすでにほとんどのチームが(バウンシングは)コントロール下に置けていたし、すでにある程度は収束した要素だと思う。もともとそれに苦しんでいるチームが提案したものだけど、その狙いどおりの効果が出る前に問題自体が解決してしまった感じだね」(フェルスタッペン)

成長著しいメルセデスAMG

 そしてふたつ目は、フレキシブルフロア規制。

 レギュレーションでは「いかなるボディワークもリジッド(硬質)でなければならない」と定められているが、剛性テストのないリア側のフロアやフロア底のプランク(10mm厚の木合板)が湾曲しているのではないかと見られるマシンがあり、FIAがテストを強化する。プランクの固定箇所に関しては、脱落等を防止するための安全上の理由から技術レギュレーション自体を変更した。

 こちらもレッドブルは対策不要としているが、フェラーリは対策が必要だと述べており、これも影響を受ける可能性がある。

 対してレッドブルは軽量化モノコックを投入するといい、これによって0.1〜0.15秒ほどのタイムアップが期待される。

「マシンが軽くなれば、いつだって助けになるよ。今はバジェットキャップがあるから、様々なことを計画したうえで開発を進めなければならない。そのなかでも僕らは効果があると思っているから、それを実際にマシンに投入するんだ。来年はまた新たなアイデアもあるだろうけど、いずれにしてもマシンが速くなるのは助けになる」(フェルスタッペン)

 そしてハンガリーGPで見えたように、バウンシング問題を解決してきたメルセデスAMGの躍進も著しい。

 ルイス・ハミルトンは、すぐにトップ争いに加わることができるとは考えていないとしながらも、さらにトップとの差を縮めていく努力を続けると言う。

「僕らはずっとインプルーブしてきているし、チームが一丸となって努力し、すばらしい前進を果たしてきた。シーズン序盤はそうではなかったけど、クルマはどんどん普通のレーシングカーらしい挙動になり、レースができるマシンになってきている。

 ハンガリーGPがその最たるものだったけど、あそこまでギャップを縮めることができたのは、チームにとって大きなブーストになった。これからもタフなレースが続くとは思うけど、僕らは地に足をつけ、そのギャップをさらに縮め続けていけると信じている」

フェルスタッペンの心境は?

 選手権2位のルクレールに対して80点ものリードを持って後半戦に挑むフェルスタッペンも、守りに入ってはいない。優勝を渇望する攻めの姿勢を保ちながら、それと同時に現実を直視することも忘れていない。

「(80点差があるからと言って)リラックスして臨むのは間違っているだろうね。簡単に間違った方向に進みうる要素はいくつだってある。もちろん、いい方向にいくこともあるけど、いずれにしても僕たちはもっと勝つという意思を持ってシーズン後半戦に挑んでいる。

 残り9戦あるなら、9勝することがターゲットだ。まずは自分たちの競争力がどのくらいなのか、ここからの数戦を見てみる必要があるね」

 勢力図すら未知数のシーズン後半戦。だからこそ、80点差もあろうと何が起こるかわからない。まだ誰も、シーズンが決まったとは思っていない。