(C)Getty Images 記者としては、聞き手の力量が試される「場」となりました。 プロに転向した羽生結弦さんが8月10日、仙台市内の「アイスリンク仙台」で練習公開後、「1社5分」の単独インタビューに応えることになったのです。…

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 記者としては、聞き手の力量が試される「場」となりました。

 プロに転向した羽生結弦さんが8月10日、仙台市内の「アイスリンク仙台」で練習公開後、「1社5分」の単独インタビューに応えることになったのです。

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 スポーツメディアの関係者は言います。

 「単独インタビューは囲み取材が約20分、行われた後に設けられました。羽生さんの強い要望とのことです。これまでになかなか個別取材を受ける機会がなかったこともあり、各メディアの視点から自身を書いて欲しいという希望があったそうです。

 スポーツ紙のデスクは、「1社5分」という制限について、こう語ります。

 「集ったメディアは25社。間の準備を入れれば、単純計算でも3時間近くかかる。羽生さんクラスだったら、普通は面倒くさくてやらないでしょう(笑)。それでも単独インタビューを受けたのは、羽生さんのメディアに対する感謝の気持ちや、少しでもスケート界の盛り上げに貢献したいという『志』を感じましたね」

 そして、こう続けるのです。

 「通常、アスリートの内面を探ろうとするならば、インタビューは約1時間に及ぶことがほとんどです。そこから無駄を省いて、整った読み物にする。超大物でも20分は必要です。『1社5分』はあまりに短すぎるよと思ったんですが、ふたを開けてみたら、各社いい読み物に仕上がっていて、驚いたんです」

 前述のスポーツメディア関係者は、こう分析します。

 「おそらく各社の担当は『1社5分』と聞いて、質問を練りに練って、その5分間を1秒も無駄にしてはいけないと、集中力を研ぎ澄ませて羽生さんに対峙したことでしょう。羽生さんもそれに全力で応じた。この『真剣勝負』の面白さが、各社のインタビューからはにじみ出ていた。各社の『色』を大切にしつつ、自身を描いて欲しいという羽生さんの気持ちが、メディア側にも伝わったのではないでしょうか」

 スポーツメディアとアスリートとの関係性は、非常に難しい一面があります。プロ野球やJリーグの「番記者」にありがちですが、選手との距離があまりに近くなり、ズブズブな関係になってしまうことで、ジャーナリスティックな論評が書けなくなることもしばしばです。

 そういう意味では、お互いがプロフェッショナルとしてのプライドを胸に、「真剣勝負」に挑んだ今回の「1社5分」は、スポーツジャーナリズムのあるべき姿とも言えるでしょう。

 最後になりますが、今回の取材。最もたいへんだったのは聞き手の記者よりもカメラマンだったとのことです。与えられた時間はほんの僅か。しかしその限られた時間で、各社の職人達は誇り高き一枚を押さえ、翌日の紙面や次号の誌面を飾ることができたそうです。

 羽生さんと担当メディアとの、緊張感あふれる「絆」についても今後、ファンの視線が注がれそうです。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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