スポーツを伝える”言葉”を探求するライブ・イベント『A.L.E.14(エイル・フォーティーン)』──。その第4回(4月27日、東京・恵比寿のアクトスクエア)には、ロンドン五輪の卓球女子団体で銀メダルを獲得した平…

 スポーツを伝える”言葉”を探求するライブ・イベント『A.L.E.14(エイル・フォーティーン)』──。その第4回(4月27日、東京・恵比寿のアクトスクエア)には、ロンドン五輪の卓球女子団体で銀メダルを獲得した平野早矢香氏がプレゼンターとして登場した。

 この『A.L.E.14』は、「GET SPORTS」(テレビ朝日)や「筋肉番付」(TBS)など数多くのスポーツ番組の企画・構成を手掛けた伊藤滋之氏が、「あらゆるスポーツに共通する動きや思考を”言語化”し、スポーツを進化させたい」と構想し、スポーツを伝える”言葉”への思いに共鳴したスポーツジャーナリスト中西哲生氏とともに立ち上げたイベントだ。

 平野氏は全日本選手権の女子シングルで3連覇を含む5回の優勝を飾るなど、女子卓球界の第一人者として活躍。2016年に現役を引退し、現在は後進の指導にあたっている。今回のプレゼンでは、「私が5度の日本一になれた理由」として、現役時代にどのようなことを意識してプレーしていたのかを明かした。



ロンドン五輪の女子卓球団体で銀メダルを獲得した平野早矢香氏プレーの合間、選手の仕草を観察

「ボールを打ち合っていない時間を制することで勝負に勝つ。これが私の卓球でした」と語る平野氏。その真意はこうだ。

「卓球において、実際にプレーしている時間は(試合全体の)19%しかありません。そのプレー以外の間、選手たちはどのように過ごしているのかといえば、前のプレーを反省したり、次の作戦を練ったりしています。そして私が常に心掛けていたことは、相手の表情や仕草から心を読むことでした。ボールを打つパワーやスピード、テクニックにこれといって特徴のなかった私ですが、相手の情報を読み取ろうと、神経を研ぎ澄ませていました」

 そこで重要だったのが卓球というスポーツの特性だ。(卓球台の全長)2m74cmしかない相手との距離。これだけ近い距離だからこそ、”素(す)振り”“頷(うなず)き”“振り返り”など、わずかな仕草の変化を観察してきたという。

「失点をしたときに、選手が素振りをしているシーンを見たことがあると思います。これは反省をしながら、頭のなかで確認作業をしているのですが、無意識に次のプレーの動作が出てしまっているんです。そこから相手の打ち方を想像し、対策を練っていました。たとえば、フォアハンドで素振りをしているなら、フォアハンドで打ちにくいコースに攻める。素振りやラケットの角度、振り出す方向を見て、相手の攻めを予想していました」

“頷き”と”振り返り”については、次のように説明した。

「選手が頷くのは、『これでいい』と思ったり、自分の不安を隠すためだったり、様々なシチュエーションがあります。また、ベンチを振り返るのは、アドバイスがほしいときに多く、不安の現れのひとつとも言えます。それらの仕草を見て、弱気な姿勢が見えたときには一気呵成に攻めていました」

 このように、プレーの合間に相手を観察するようになった理由について、平野氏は次のように語った。

「中学や高校のときから、同世代には世界のトップになれるだろうなという選手がたくさんいました。そのなかで戦おうと思ったときに、相手を崩すことにすごく意識が向くようになりました。選手によってはまったく表情を変えない人もいますが、それでも無意識のうちにちょっとした仕草が出たりします。目線が上にいったり、一点を見つめたり……。実際、私も自分を落ち着かせるために天を仰ぐクセがありました(笑)」

 現役時代は”鬼の平野”と呼ばれるほど、険しい顔つきでプレーする姿が印象的だったが、それにもちゃんとした理由があった。

「自分の心を読まれないように、わざと怖い顔をしていたんです(笑)。ただ正直なところ、意識して怖い顔をしようとはしていませんが、日本一になったつもりで堂々とプレーしようとは常に思っていました」

 世界最強と言われる中国の選手も、大舞台で普段にはない表情を見せることがあるという。試合観戦中、プレーの”合間”の表情やジェスチャーに注目することで、その選手の精神状態や戦術が見えてくるかもしれない。

相手の攻めを有効に利用しているか

 もうひとつ、平野氏が戦いのなかで意識していたことは、「相手の攻めを利用して得点につなげる」ことだ。

「試合中、1点を取りにいきたいと思っても、世界のトッププレーヤーが相手だと、私の力ではなかなか難しい。”後の先”――これは剣道用語で、相手の動きを見て差すことという意味なのですが、コーチがよく使っていたのは”後手先”という言葉でした。私なりの解釈は、相手のやりたいことをあえてやらせて、そこから攻めるということです。相手が待っているコースにわざと打つのですが、実は難しいボールを打つんです。相手が『待ってました!』と決めにきたらしめたもの。そんな形で得点につなげることもありました」

 一見、相手ペースで進んでいるように思わせながら、したたかに制す。こういった駆け引きにも注目して観戦すると、新たな発見もあって面白いだろう。

卓球台を”高さのある直方体”として考える

 この日のプレゼンでは、実際に卓球台を置き、プレーも披露した。ここでも卓球を楽しく観戦するヒントがあった。

「ボールが相手の奥や横に逸(そ)れてしまえばアウトになりますよね。ただ高さはどこまでいっても、ボールがコートにさえ落ちればアウトになることはありません。これは”ロビング”という技術なのですが、水谷隼選手なんかはとても上手です。高さを使って相手を崩す。つまり、卓球台を平面ではなく、高さのある直方体だと思って観戦してみてください。そのなかでいかに生きたボールを操れるか……そこがポイントです」

 いよいよ『世界卓球2017』(5月29日~)が開幕する。世界のトッププレーヤーが見せる壮絶なラリーはもちろん、プレーの合間に繰り広げられる緻密な駆け引きや心理戦にも注目してみると、卓球の奥深さを味わうことができるだろう。