5月14日に熊本での招待試合で高校通算93号を放った早稲田実業の清宮幸太郎が、春季関東大会でも2試合連続本塁打。通算95号とし、100号の大台も目前に迫ってきた。 それにしても、センバツが終わってからも清宮は忙しい。”国民…

 5月14日に熊本での招待試合で高校通算93号を放った早稲田実業の清宮幸太郎が、春季関東大会でも2試合連続本塁打。通算95号とし、100号の大台も目前に迫ってきた。

 それにしても、センバツが終わってからも清宮は忙しい。”国民的スター”として連日多くのメディアやファンが詰めかけ、相当なプレッシャーと戦っていることは想像に難くない。



高校通算100本塁打まであとわずかに迫った早実・清宮幸太郎 打席に立てばいつもホームランを期待され、電車に乗ったり、コンビニで買い物をしたり、普通の高校生が当たり前にすることさえも苦労がともなう日常も、さぞかし窮屈だろうと思う。それでもしっかり結果を出すのだから、あらためて「すごいヤツだなぁ」と思う。

 その一方で、「幸せなヤツだなぁ」と思うことも多い。あり余るほどの野球の才能はもちろんだが、清宮は”人との出会い”に恵まれた選手だとつくづく思う。

 清宮が早実に入学してきたとき、2学年上に加藤雅樹(現・早稲田大学)がいた。加藤は185センチ、85キロと、清宮と同じ左打ちの大型スラッガーだ。また、捕手としてマスクを被り、主将としてもチームを束ねていた。

 今から2年前の夏の甲子園。清宮が3番を打ち、加藤が4番。ネクストから清宮のスイングをじっと見つめる加藤がいた。

「自分なんかとはモノが違います。清宮のバットコントロールはものすごく参考になる。アイツはパワーもすごいけど、技術で打っています」

“怪物”と称される後輩を、こんな風に評していた加藤は、当時、インコースのさばきに苦しんでいた。

 大学に進み、バットが金属から木製に変わって、”そこ”を攻められたら厳しいだろうなと思っていたが、2年経った今、早大で不動の4番打者に君臨。この春のリーグ戦では、5月26日現在、打率.448で首位打者を走っており、本塁打、打点ともリーグ2位。三冠王も狙える位置につけている。

 ふんわりとした両腕の構えは、高校時代にはなかった。それによって懐が広くなった分、インコースにも難なく対応できるようになった。

 清宮から学んだのかどうかはわからないが、同じ時間と空間を共有することで、技術が伝染することは間違いなくある。

 2年前の夏、加藤は劣勢の苦しい場面ほど、「清宮まで回せ!」とチームを鼓舞した。本来なら、1年生に過剰なプレッシャーをかけまいとするものだが、あえて重責を背負わせることで、怪物の才能を引き出してみせた。

“4番・主将”というチームの大黒柱なら、「オレに回せ!」と見栄も張っても不思議はないが、あえて1年生の清宮にその役回りを任せた度量の大きさと、的を射た判断力はたいしたものだと思う。

 その大役を、別に驚きもせず、「今までもそうでしたから……」と言わんばかりに、サラッとこなす清宮の強心臓と実力。加藤がいたからこそ清宮はノビノビと、また堂々とプレーできていたと思うし、清宮がいたからこそ加藤は自分の打撃を再確認できたんだと思う。

 その加藤が卒業し、入れ替わりに入ってきたのが野村大樹だ。

 172センチ、78キロ。右投右打の三塁手は、一見、どこにでもいそうな普通の高校球児に見えるが、才能溢れるバッティング技術と大人びた人間性は、どちらも高校生の枠を飛び越えていた。

 高校生で、しかも1年生でこれほど確立されたインサイドアウトのスイングを身につけている打者は、野村のほかではPL学園時代の清原和博しか思い浮かばない。ボールの内側を強烈に引っ叩いて、右中間に強烈な打球を放つ野村のバッティングを、清宮はいつも間近で見ていた。

 圧倒的なパワーを持ちながら、それに頼ることなく卓越したバットコントロールと絶妙のタイミングの取り方でホームランを量産する。それが清宮の”怪物”たる所以(ゆえん)である。

 そんな”打撃職人”である清宮が、1学年下の後輩ながら圧倒的な技術を持つ野村のバッティングに関心がないわけがない。

 この春、球場に詰めかける野球ファンたちの「全打席ホームラン」の期待に応えようとしたのか、清宮は自分のバッティングを見失いそうになっていた。そのとき、ダグアウトからじーっと凝視していたのが、4番・野村のバッティングだった。

 清宮の強烈なスイングを目の前で見れば、普通の高校生なら「よし、オレだって……」といつも以上に力んで打席に向かっていくところだろうが、野村という選手は清宮に煽(あお)られることがまったくない。「僕はこういう打者ですから……」と言わんばかりに、涼しい顔でボールの内側を叩き、右に左に長打を連発する。

 そんな野村のスイングに、この春はインパクトで“ひと味”加わった。インパクトの瞬間、リストの返しでヘッドを効かせ、グイッと押し込むテクニックは、実は清宮が得意としているものだ。その”宝刀“を後輩の野村がいつの間にか吸収していたのだ。それにより、昨年までは右中間突破だった打球が、軽々とオーバーフェンスするようになった。

 逆に、清宮は野村のインサイドアウトのスイングを身につけた。たとえば、引っ張ってライトに大きな飛球を放ったとき、昨年までならファウルになっていたが、今年は切れずにスタンドインすることが多くなった。

 自らのバッティングの崩れを、遠回りしたスイング軌道にあると気づいた清宮が、野村のインサイドアウトのスイングを教材にしたのだろう。

 どんな逸材も決してひとりでは”怪物”にはなり得ない。ライバル、指導者、チームメイト……必ず強烈な刺激を与えてくれる誰かがいて、初めて潜んでいる能力が引き出されるのだ。

 加藤と野村──ふたりの4番が清宮を育て、同時に清宮もこのふたりを育てていた。ものの見事に3人を成長させた相乗効果。清宮の”すごさ”はすでに多くのメディアで伝えられているが、こうした”出会い”のなかにも、彼の持っているすごさを感じてしまう。清宮という野球選手は「何十年にひとりの逸材」というより、「唯一無二の存在」に思えて仕方がない。