欧州では超メジャーブランドのルノーだが、日本では知ってのとおり(というか、ルノーそのものを知らない日本人も多い)、変なモノ好き(?)好事家向け……のニッチ商品だ。 かくいう私もこれまでルノー車ばかり3台を続けて…

 欧州では超メジャーブランドのルノーだが、日本では知ってのとおり(というか、ルノーそのものを知らない日本人も多い)、変なモノ好き(?)好事家向け……のニッチ商品だ。

 かくいう私もこれまでルノー車ばかり3台を続けて購入して、そのうちの2台を今でも所有する変なモノ好きのひとりだが、今までルノーに目もくれなかったごく普通の方々に「このクルマ、かわいい!」とか「これがお前のいっているルノー?」と、やけに話をふられるのが新しいトゥインゴである。

 トゥインゴはルノーではもっとも小さくて安価なスモールカーである。早いハナシが、欧州の軽自動車のようなものだ。そんなトゥインゴがルノーのくせに(失礼)、クルマにさして興味のない日本の方々にもピンとくる理由は簡単である。ご覧のように、デザインのキャラがメチャクチャ立っているからだ。

 トゥインゴのデザインは純粋に可愛らしく、新鮮だが、なつかしくもある。同時に、クルマオタクの好事家は、これが1980年代の世界ラリーで活躍したルノー5ターボへのオマージュと直感する。こうして、いろんな層に刺さる要素を融合したトゥインゴの商品デザインは、さすがはプロらしい高度な仕事である。

 昔の自動車メーカーではエライのはあくまでも技術者であり、デザイナーは「技術の粋を集めた高度な機械を、見苦しくない程度にラッピングする」のが仕事だった。誤解を恐れずにいうと、かつての自動車メーカーでのデザイナーの地位は、その程度でしかなかった。

 しかし、最近はデザイナー出身者を重要な役員ポストに据える自動車メーカーが増えている。デザイナーと技術者が対等にわたりあう……のがクルマづくりの最新のツボとなっているが、そういうデザイン重視メーカーの元祖となったのが、じつはルノーなのだ。

 ルノーは今から30年も前の1987年に”デザイン担当副社長”という役職をつくり、その初代デザイナー役員となったパトリック・ル・ケマン氏は2009年までの22年間、らつ腕をふるった。事実、ル・ケマン時代のルノーはハイトワゴンを欧州に初めて投入するなど、最先端のトレンドセッターであり続けた。

 トゥインゴはそんなル・ケマン氏の後を継いだオランダ人デザイナー、ローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏がデザイン副社長になってからの作品である。ヴァン・デン・アッカー体制になって初の市販ルノーはキャプチャー(第83回参照)で、その次が4代目ルーテシア(第95回参照)だった。

 ちなみに、ルノーに引き抜かれる以前のヴァン・デン・アッカー氏は日本のマツダのデザイン本部長をつとめており、今のマツダの顔となっている五角形グリルはそのときに考え出されたものだ。

 ……おっと、やけに堅苦しくなってしまったが、つまりは「クルマだって商品、商品のツカミはデザイン、デザインって大切よね〜」というハナシである。

 トゥインゴは安いクルマなので、中身はどうってことはない。どうヒイキ目に見ても、悪くはないが、感動的にいいクルマでもない。唯一賞賛すべきは、大量販売を見込めない日本で最上級グレードでも200万円切り……という破格に良心的な値づけをしてくれたルノージャポンの心意気だろう。

 そうはいっても、トゥインゴはトランク下にエンジンを積んで、後輪を駆動する”RR”という構造が個性的である。現在のクルマ……とくに小さなクルマほど、フロントエンジン+前輪駆動の”FF”が常識中の常識で、トゥインゴもこれまでの2世代はFFだった。

 新しいトゥインゴがRRなのは、今回から独ダイムラーのスマート(は歴代ずっとRR)と共同開発であることも理由だが、トゥインゴに乗ると「小さなクルマ=FFという常識は、そもそも、もう古い?」と思わなくもない。

 なるほど、トランクがやけに浅い、見た目のわりに後席がせまいなどはRRのデメリットである。しかし、いっぽうで、フロント周辺からゴチャゴチャしたエンジンや駆動系がなくなっているので、前輪はビックリするほどよく切れて視界が”横っ飛び”するくらい小回りがきくし、運転席は後席とは対照的に広々としている。あらためて考えると、「普段は1〜2人乗り+手荷物」という日常的ゲタグルマ用途には、RRのほうがメリットが多い気がしてくるのだ。

 フロントが軽いので運転感覚にも少しクセがあるのだが、「曲がるときは前輪にちょうどよく荷重がかかるように減速する」とか「クルマの向きが変わったら早めにアクセルを踏んでいく」といった独特のタイミングをつかむと、後輪駆動ならではの、そこはかとない楽しさがただよう。超感動するほどではないけど、それなりに滋味がある。愛車として何年も連れ添うなら、これくらいのクセがあるほうが、「この子は私が運転しないと……」と、より深い愛着がわくというものだ。

 ……なんて、見た目にホレてしまうと、あとは”アバタもエクボ”になってしまうのは人間もクルマも一緒。万物共通のツボである。

【スペック】ルノー・トゥインゴ・インテンス・キャンバストップ全長×全幅×全高:3620×1650×1545mmホイールベース:2490mm車両重量:1030kgエンジン:直列3気筒DOHCターボ・997cc最高出力:90ps/5500rpm最大トルク:135Nm/2500rpm変速機:6ATJC08モード燃費:21.7km/L乗車定員:4名車両本体価格:199万円