アメリカ・オレゴンで開催された世界陸上競技選手権、最終日の7月24日。若手で挑んだ男子4×100mリレー予選敗退の喪失感を、男子4×400m(マイル)リレーが大健闘の走りで埋めてくれた。4×400mリレーで4位というすばらしい結果も、悔し…

 アメリカ・オレゴンで開催された世界陸上競技選手権、最終日の7月24日。若手で挑んだ男子4×100mリレー予選敗退の喪失感を、男子4×400m(マイル)リレーが大健闘の走りで埋めてくれた。



4×400mリレーで4位というすばらしい結果も、悔しさを滲ませた

 昨年の東京五輪は予選で、96年アトランタ五輪でマークした3分00秒76の日本記録に並びながらも、決勝進出を逃したマイルリレー。個人の400m出場もウォルシュ・ジュリアン(富士通)のみだった東京五輪とは違い、今大会は、ウォルシュを含めて3人が世界ランキングで権利を得て出場を果たしていた。

 そしてマイルリレーも、三重県の中学校教員ながらも東京五輪代表になり、今年4月からは母校の中京大でプレイングコーチとして競技に取り組んでいる川端魁人(中京大クラブ)や、今年5月に日本歴代8位の45秒40を出し、日本選手権でも優勝した佐藤風雅(那須環境技術センター)が初代表に。その3人に加えて、日本選手権4位で、「後半が強く、すごい能力を持っている」(土江寛裕コーチ兼ディレクター)と期待する初代表の中島佑気ジョセフ(東洋大)がメンバーという顔ぶれになった。

 大会が始まると中島は、初日のミックスマイルリレーに第1走者で出場し、日本選手権で出した自己記録より0秒01速い46秒06で走って好調さをアピールした。大会3日目から始まった400mでは、川端は自分の走りができずに予選敗退だったが、佐藤は45秒88、ウォルシュも45秒90でともに組4位になり、記録プラスの2番目と3番目で準決勝に進出。20日の準決勝で敗退したが、ともにタイムを上げて「個人で行けなかった決勝を、マイルでは実現したい」と気持ちを高めた。

 そんな4人が再びグランドに立ったのは、4×100mリレー予選敗退を見た翌日23日の予選。第1組で登場した日本は、アメリカに最初から突き放されたものの、佐藤が45秒51の3位でつなぐと、2走の川端も着順での決勝進出条件となる3位をキープ。3走のウォルシュは、「前のふたりがいい順番できてくれたので、あとは頑張って4走に渡すだけ。いい順番で渡せたので、そこでもう大丈夫だと安心しました」と、44秒99のラップタイムでジャマイカを抜いて順位を2位に上げた。

 そして4走の中島は、バックストレートでジャマイカとトリニダード・トバコに並ばれたが、「後半は自信があったし、バックストレートは向かい風だったので『ここは相手に力を使わせよう』と落ち着いて走れたので、ラストのスピードにつながった」と、2位でゴール。全体でも3分01秒53は2位のタイムで、メダル獲得の可能性も見えてきた。

 決勝は、予選第2組で7位だったボツワナ(東京五輪3位)が不利を受けたと訴え、救済で決勝に進出。9チームでレースが行なわれた。

 第1走者の佐藤は、「遠くに見えるアメリカやほかの国を意識した瞬間、力が入ってしまった」と、一度抜いたチェコに抜き返されて予選よりタイムを落として5位でつないだ。続く、川端も44秒台のラップタイムを狙っていたが、「みんながゴチャゴチャになるバックストレートで、どこに入るか悩んでしまっていいポジションが取れなかった」と、7位に下がった。しかし、最後の直線で、外側に斜行するボツワナに邪魔されながらも、うまい判断でウォルシュに6位でバトンをつないだ。

 そこからウォルシュの走りは神がかっていた。バックストレートでフランスを抜くとそのまま前を追い続け、ホームストレートに入ったところでトリニダート・トバコを抜いて、2位争いをするジャマイカとベルギーに迫った。ラップタイムは43秒91。個人種目の400mの時には「調子はいいし44秒台を出せる状態なのに、前半の走りがうまくいかない」と口にしていたが、その力が確かであることを証明した。

 3位のベルギーに0秒18差でバトンを受けた中島は、予選と同じように向かい風のバックストレートでは前の選手のすぐうしろにつけ、余裕を持って走ってラスト勝負にかけようとした。だが44秒68で走った中島に対し、ジャマイカは43秒98、ベルギーは44秒07と予想よりも早かった。ラスト200mを過ぎてから離され、結果4位でのゴールとなった。「自分の得意なところで離されてしまったのはすごく悔しい。あとひとつ僕が抜けばメダルだったが、目の前で目標が絶たれてしまった」と反省の弁を口にした。

 それでも記録は、日本記録を更新する3分突破の2分59秒51。メダルには0秒21届かなかったが、世界大会の4位入賞は04年アテネ五輪以来の快挙だった。

それでも「悔しい」という言葉が並んだ。

「(世界選手権で)19年ぶりに決勝に進出できたからいいやではなく、絶対にメダルを獲るとみんなで言って臨んだので......。目の前にあったからこそ、今回のレースを反省してパリ五輪とは言わず、来年の世界陸上で絶対に達成したい」(佐藤)

「日本新を狙っていたわけではなくて、本当にメダルだったので。日本新はもう当たり前というところで、喜びより悔しさのほうが大きい」(ウォルシュ)

 日本陸連の土江ディレクターは「マイルも04年アテネ五輪後は低迷したが、2019年からは海外や国内合宿などの様々な取り組みをしてきて、成長しつつある。ただ、これが最終形ではないし、満足するところではない。メダル獲得だったり、それより上の順位を目指せるようなモチベーションを持った選手たちが育ってきていると思う」と評価する。

 このレースで個人の44秒台が確実に見えてきたウォルシュは「やっぱり経験がものを言うと思います。今日は気持ちが高まって今年一番の走りができたが、個人的には早く44秒台を出してチームをもっと引っ張っていけるようにしたい。この世代でマイルチームのレベルを上げ、4継だけではなくマイルも日本のお家芸にしたい」と高い意欲を口にした。

 チーム最年少20歳の中島も「個人の課題は、もっとスピードをつけることですが、全体的にはもっと海外経験を積まなければいけないと思います。日本のレースと海外のレースではペース配分も違うし、200mを通過してからが勝負というレースが多いので。そういうレースや大会の雰囲気に慣れていくのも、マイルチームには必要だと思う」と話す。

 今大会、序盤のサニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)の100m決勝進出以降、結果が出なかった日本の男子トラック種目を、最後に救ったマイルリレー。彼らはこの結果を、来年の世界陸上、その先のパリ五輪への原動力としていくだろう。