ホクレン千歳大会では10位と振るわなかったルーキー佐藤圭汰(中央)安原太陽と山野力は好走 トラックシーズンの終わりを告げるホクレンディスタンスチャレンジ網走大会(7月13日)、千歳大会(7月16日)には箱根駅伝の常連校から多くの選手が出場し…



ホクレン千歳大会では10位と振るわなかったルーキー佐藤圭汰(中央)

安原太陽と山野力は好走

 トラックシーズンの終わりを告げるホクレンディスタンスチャレンジ網走大会(7月13日)、千歳大会(7月16日)には箱根駅伝の常連校から多くの選手が出場していた。

 そのなかで目を引いたのは、駒澤大の選手たちだ。

 とりわけ安定した走りで復活を印象づけたのが、安原太陽(3年)だった。

 安原は、昨年の出雲駅伝2区3位で大学駅伝デビューを果たすと全日本大学駅伝では6区を駆けて順位を9位から4位に押し上げてエースの田澤廉につなぎ、逆転優勝のキッカケを作った。

「駅伝を外さない自信があります」と自ら語るように、安定してコンスタントに力を発揮できるのが持ち味。指揮官にとっては、どの区間でも計算できる重要な選手になった。

 今年の箱根駅伝でも安定した走りで襷を後続につないでくれるだろうという期待のなか、安原は区間発表で補欠に回り、当日変更で3区に投入された。1区唐澤拓海(当時2年)、2区田澤廉(当時3年)とつなぎ、安原でリードを広げる、あるいは差を詰めるという重要な役割を担ったのである。

 エース田澤がトップを走り2位の青学大に1分2秒差をつけるという理想的な展開になり、往路優勝への流れが見えていた。ところが安原は茅ヶ崎ポイントで青学大の太田蒼生(当時1年)や東京国際大の丹所健(当時3年)に抜かれ、チームは5位に転落、"外さない男"は区間16位に終わったのである。

「出雲や全日本とは注目度がまったく違う箱根で失敗してしまった。終わってからのダメージがかなり大きかったです」

 箱根で失敗した心の傷は深かった。その後、自分の状態を上げて取り戻していきたいと感じたが、その思いが先行するだけで体はついていかず、トラックシーズンもここまで結果を出せずにいた。

「箱根以降は、なんとか自分の調子を上げていかないといけないという焦りが大きくて、でも空振りみたいな感じが続いて......。今日は涼しいなか、実業団の選手のみなさんに引っ張っていただいて、いい流れでレースができたと思いますし、自己ベストが出て、ようやく狙いどおりの自分らしい走りができたと思います」

 安原は、そういって安堵の表情を浮かべた。

 網走大会の男子5000mでは先頭集団から離れず、いい位置をキープ、後半も崩れることなく走り抜け、13分37秒01で日本人3位、自己ベストを更新した。

「ここでひとつタイムが出たので夏合宿に向けていい流れで入れるかなと思います。昨年は、駅伝でひとつでも区間賞を獲るのを目標にやってきたんですけど、空振りと失敗で終わってしまった。まだ、箱根は怖いという感覚があるのですが、夏合宿では強い先輩たちに食らいついて、今年は駅伝でしっかりと結果を残していきたいと思います」

 まだ、箱根の傷が癒えたわけではないが、自己ベストを更新できたことで、モヤモヤしていたものが晴れてきたはずだ。夏合宿をケガなくこなせれば、安定感に強さが増してくるだろうし、箱根でリベンジするチャンスも得られるはずだ。

 山野力(4年)も今回、5000mで昨年の網走大会で出した自己ベストを更新した。

「直前まで合宿をやっていたので疲労があるなか、最低限、自己ベストでまとめられてよかったです。トラックシーズン全体で言うと、関東インカレのハーフは暑くて、苦手なコンディションのなか、なんとか3位以内に入りたかったんですけど、できなかった。その悔しさがありましたし、それを晴らそうと今回、臨みました。ここで自己ベストを出せたのはうれしかったですし、昨年よりも成長しているということ。このまま故障だけに気をつけて練習を継続していきたいと思います」

 過去3年よりも調子がよいようで、自然と笑みがこぼれてくる。だが、チーム全体の話になると、表情が少し厳しくなった。

調子が上がらない3年生

「3月、4月ぐらいはポイント練習できる人がかぎられていて、悲惨なチーム状態だったんですけど、6月ぐらいに少し戻ってきました。まだまだですが、昨年以上のポイント練習ができる人数が増えてきたので、このまま夏を越えて、駅伝までうまくもっていきたいですね」(山野)

 駒澤大の今季の目標は、「3大駅伝制覇」である。その目標に欠かせないのは、チームの最大勢力の3年生たちだ。好調なのは、花尾恭輔らごく一部の選手にかぎられており、鈴木芽吹、唐澤ら昨年好走した選手の活躍は大会から見てとれない。

 山野も3年生については、不安を隠さない。

「今シーズン始まった時点で、(大八木弘明)監督から今年は上級生がカギになってくるからしっかりやってくれと言われました。そのなかで、3年生は本来の力を出しきれていない選手が多いです。今後、自分がしっかりと3年生に喝を入れて、モチベーションを下げないように駅伝までもっていきたい。今年は3冠達成が目標ですが、そのためには昨年駅伝を走ったメンバーが区間3位以内にまとめてくれないと達成できないので、3年生には頑張ってほしい」

 選手の質量では青学大に対抗できる。だが、その軸になる3年生の現状に山野は、もどかしさを感じているようだ。

 安原は、その3年生のひとりだが、夏を越えればという感覚でいる。

「3年生は、1、2年生の時にいい結果を出して、チームのなかで存在感がある学年。今は走りの状態としては厳しいですが、選手一人ひとりは大きな目標を持って走っているので、陸上に対する熱意を失わないようにやっていければいいかなと思います。個人的には、この夏を越えれば、みんな出てくると思っています」

 同学年だけに3年生の仲間に対する思いは強いが、彼らが揃うのはいつになるのか。

スーパールーキー佐藤圭汰は伸び悩む

 3年生は、厳しい状態だが、ルーキーの佐藤圭汰も少し迷いの淵にいる。ホクレン千歳大会では、1500mに出場し、序盤こそ中盤に位置し、期待を抱かせたが、後半はいつもの伸びがなく、3分44秒85の10位に沈んだ。

 レース後、佐藤は苦い表情を浮かべた。

「今日は、3分40秒ぐらいの感覚でいけたらと思っていたんですが、体を1500mのスピードに全然仕上げられなくて、キレもなかった。力不足を感じました」

 佐藤は、洛南高校時代に1500m、3000m、5000mの高校記録を塗り替え、大物ルーキーとして駒澤大に入学した。当初1500mを主戦場にしていたが、5000mでU20 の記録を更新(13分22秒91)し、1500mでのラストスパートでの力不足を考えて5000mで世界陸上を目指した。出場権を賭けた日本選手権は13分55秒08の17位に終わり、残念ながら世界には届かなかった。その後は5000mをメインにして、1500mはスピード練習の一環としてとらえていたが今回、内容的にもうひとつで目標タイムにも届かなかった。昨年のホクレン千歳大会では、3分37秒18を出していたが、さすがに失望の色は隠せず、レース後、ボソッとこう言った。

「今、ちょっと、どうしたらいいのかわからないです」

 佐藤は、調子が上がらない状態に苦笑いを浮かべた。

 だが、彼はレースで結果が出ない原因について分析できている。

「高校の時、ある程度、記録を出したので大学でも先輩たちに負けない気持ちで臨んできたのですが、それが逆に自分に縛りをかけているのかなと思います。大学に入って練習の質と量が一気に増えて、疲労が抜けない状態で練習を積んでいるので疲労がたまり、レースに合わせることができない。もうずっと動かない感じで練習もレースも続けている感じなので、結果につながらないんだと思います」

 本来は休養をとるべきだが、シーズン序盤は世界陸上の出場権をかけたレースなどがあり、「休むタイミングが難しかった」と言う。これで1年目のトラックシーズンが終わることになるが、何か手応えを得ることができたのだろうか。

「トラックシーズンは、5000mでいいタイムを出せましたけど、それだけで流れがあまりよくありませんでした。夏合宿前に帰省期間があるので、そこでしっかりと休んで、夏合宿で練習を積んでいきたいですね。レースが続いたので練習を積めず、タメができていなかったので、夏で作り直して秋では走れるようにしていきたいです」

 連戦で疲労度は、マックスだった。体を休め、気持ちをリフレッシュして、練習に取り組めば走りは戻ってくるだろう。ただ、秋は駅伝が待っている。周囲の期待は非常に大きい。箱根駅伝は20キロを越えるロングのレースになるが、距離の耐性についてはどう感じているのだろうか。

「距離は、まだ自信がないので、夏の練習で慣れていきたいです」

 佐藤にとってはリスタートながら距離を踏む厳しい夏になりそうだ。

 トラックシーズンだけの評価でいえば、駒澤大はまだ一部の選手しか力を出しきっていない。危機感は山野主将らの厳しい表情からもうかがい知れる。夏合宿のテーマは、この時点では決まっていないが、山野主将曰く「距離を踏んでスタミナをつけていく」内容になるという。駒澤大の伝統ともいえる距離を踏む練習で、どこまでチーム力を上げていけるだろうか。そして、3年生はいつ揃ってくるのだろうか──。