レース週末を前にした南仏ポールリカールは、異様な熱波に襲われていた。気温は38度、そして乾燥した空気のなかで、鋭い直射日光が照りつける。 しかしF1の2022年シーズンは、もう前半戦が終わろうとしている。フランスとハンガリーの2週連戦を終…

 レース週末を前にした南仏ポールリカールは、異様な熱波に襲われていた。気温は38度、そして乾燥した空気のなかで、鋭い直射日光が照りつける。

 しかしF1の2022年シーズンは、もう前半戦が終わろうとしている。フランスとハンガリーの2週連戦を終えると、F1はサマーブレイクに入る。だから、ここでしっかりと結果を残しておきたいと考えるのは、どのチームも同じだ。

 そんななか、アルファタウリはここに大型アップデートを投入してきた。第4戦イモラ(エミリア・ロマーニャGP)以来、約3カ月ぶりのマシン改良だ。


角田裕毅が

「キレやすい」報道について語る

「僕らは小さなアップグレードを細かく入れていくよりも、大きなアップグレードをまとめて投入する方針でやってきています。マシンのダウンフォースを増やすことに主眼を置いたもので、弱点だった中高速コーナーを強化するものです。それによって挙動の一貫性を向上させて、また中団グループのトップを争えるようになればと思っています」

 角田裕毅が語るように、アルファタウリは細かなアップグレードを投入するよりも大型アップグレードに集中し、各レースで収集するデータとドライバーからのフィードバックによって、その方向性を間違うことのないよう見定めてきた。その成果がようやくかたちになったのだ。

 7月21日の時点ではその全貌はまだ見えていないものの、一見するだけでフロアやリアカウルに変化が見られ、空力性能の向上を目指していることは明らかだった。

 ここ数戦のアルファタウリは下位に低迷していた。モナコ(第7戦)やアゼルバイジャン(第8戦)では中団トップを争う力があったが、空力性能が求められるサーキットでは相対的にポジションが低下し、なおかつイギリスGP(第10戦)でライバルがアップデートを投入したことで、その差がさらに大きくなっていた。

角田の無線がフィーチャー

 第12戦フランスGPのポールリカールは、中速コーナーを中心に低速から高速までありとあらゆるコーナーがあり、なおかつ長いストレートもある。ダウンフォース不足のAT03では苦戦を強いられたはずだが、このアップグレードによってこうした特性のサーキットでも中団グループのトップに舞い戻りたいというのがアルファタウリの狙いだ。

「今回のアップグレードでトップ3争いができるようになればと思います......もちろん冗談です(笑)。トップ6〜7というあたりですね。僕たちの持っている(シミュレーションの)数値上では、最大限によかったとしてもそのあたりです。でも、すべてのサーキットがそれぞれ違いますから、マシンがどのように機能するかも違ってきます。少なくとも0.3〜0.4秒ほど速くなることを期待しています」

 第11戦オーストリアGPでは予選でQ3進出を狙える速さがあり、アタック直前のいざこざがなければ角田もQ3進出を果たしていた可能性は十分にあった。しかし、土曜日以降の異様なパフォーマンス不足と低迷。これについては、セットアップ面とドライビング面で予選にフォーカスしすぎた結果だったと見ているようだ。

「スプリントレース週末だったために1回のフリー走行で予選に臨まなければならなかったので、僕らはFP1では予選にフォーカスした作業をしたんです。なので予選パフォーマンスは悪くありませんでしたし、2台ともにQ3に進むポテンシャルがあったと思います。

 でも、予選に集中しすぎた結果、決勝(ロングラン)のタイヤマネージメントでは苦戦することになってしまったということだと理解しています」

 第9戦カナダGPでピットアウト直後にクラッシュするミスを犯して以降、角田の無線がフィーチャーされることが増えた。

 それによって、世間では"キレやすい"というイメージが再び強くなり、レッドブルがメンタルトレーナーをつけたという報道や、ヘルムート・マルコが「驚くほどキレやすいが、驚くほど速い」と評したコメントが出回って、さらにそういった見方が強くなった。

キレている印象に本人は?

 しかし実際には、今シーズンの角田は努めて冷静にドライビングしようとしている。特にここ数戦は、無線で叫びたくなるような状況でも叫ばないよう、自制しているのが伝わってきていた。そんななかでも、テレビでは叫んでいる無線だけが切り取られ、ミスの映像と合わせて放映されるから、「またキレている」というイメージになる。

 メンタルトレーナーも昨日、今日あてがわれたわけではなく、FIA F2の頃からやっていることだ。端的に言えば、世間のイメージはかなり遅れていると言うべきだろう。

「ヘルメットを被って走っている時は少しイライラしやすいかもしれませんけど、最近は自分自身をうまくコントロールできていると思います。無線で叫んだりしていると、ほかのドライバーより僕がキレやすいと思われているでしょうけど、最近はそんなことないと思います。

 いつもではないかもしれませんが、なるべく冷静でいるようにしていますし、そこに集中しているので、周りの評価はあまり気にしていないです。叫んでいたとしても、いいパフォーマンスを発揮していれば問題ないと思いますしね」

 前戦オーストリアGPが典型だが、ドライバー自身がどんなに優れたレースをしてもマシンのポテンシャルが低ければ、そのドライビングの優れた点に目を向けられることはほとんどない。

「カナダとシルバーストンではミスを犯しましたが、その前のアゼルバイジャンでは6位を走っていて、単純に信頼性の問題でポイントを逃しています。オーストリアではマシンの速さが足りませんでしたし、シルバーストンも同じです。

 ここからの2連戦でアップグレードの効果がどれほどのものかにもよりますけど、まずはシーズン序盤数戦にできていたようなノーマルなルーティンに戻ることが目標です。自分がシーズン前半戦に学んできたことを、きちんとまとめ上げる週末にしたいと思っています」

 フランスGPではマシンパフォーマンスが向上することにより、角田自身のドライビングにも目が向けられる。そんなレース週末になることを願いたい。