専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第106回 NHKの地質&地形番組『ブラタモリ』じゃありませんが、ゴルフコースの高低差、アップダウンについて、いろいろな見解を述べてみたいと思います。 ベテランのアマチュアゴル…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第106回

 NHKの地質&地形番組『ブラタモリ』じゃありませんが、ゴルフコースの高低差、アップダウンについて、いろいろな見解を述べてみたいと思います。

 ベテランのアマチュアゴルファーに、どういうコースが高級で、格式があるかと尋ねると、80%くらいの方が「平らな林間コース」と言います。それに、ゴルフコースについてうんたらかんたら言う人って、おおよそ年齢層が高めなんですよね。誰が設計したかを気にするのは、完全に昭和の人の感覚なのです。

 片や、今の若者は「誰が設計していてもいいじゃん」って思っています。第一、ゴルフ場に専門の設計家がいるなんて、知らない人が多いですし。

 コースの見方もよくわかっていません。若者のゴルフ場に対する善し悪しの判断はこんな感じです。

「値段が安くて、クラブハウスが立派で、風呂も豪華。それで、食事が美味しければもう最高ぉ~!」って。おいおい、コースの話はないのかよ~。

 もちろん、昭和のゴルファーは違いますよ。「ゴルフ場の善し悪しは、コースで決まる」と思っているコース至上主義者ばかりです。

「クラブハウス? 雨露がしのげればいいのよ。食事? カレーがあればいい。問題はコースだってば!」

 そんなふうに力説するオヤジが多いこと。

 ただし、アップダウンの話となると、年配の方は異口同音に「平らなほうがいい」と言うのです。これは、若いときにつらい思いをしたからに他なりません。

 ゴルフを覚えたてのとき、お金がないものだから、山奥の辺鄙(へんぴ)なコースに連れていかれて、しかも乗用カートがまだ普及しておらず、えっちらおっちら山歩きをさせられたんですね。ゆえに、平らなところでボールを打った記憶がない。いつも体を斜めにして打っていて、その結果、叩いてばっかり。だから、平面コース至上主義者になってしまったのです。



年配の方にとっては、やはり平らなコースがいいんですよね... でも、乗用カート化がこれだけ進むと、アップダウンのあるコースも何ら苦労せずにラウンドできます。しかも、なかなか魅力的ですよね。

 アップダウンというだけあって、たいがいは上りの分だけ、下りもあります。豪快な打ち降ろしホールなどに出くわすと、普段よりボールが飛んだ気がして、実に気持ちがいいものです。アップダウンコースもいいかなって思えてきます。

 世界的に見ても、例えばマスターズが開催されるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブは、見た目よりアップダウンがあるコースとして有名です。テレビ画面を通して見ても、最終18番のグリーンに向かっていく上りは、えぇ~って感じですよね。

 高低差は、コースを面白くさせる”スパイス”として必要なアイテムなのです。

 設計者がどうやって高低差を利用してゴルフを楽しませているのか。私が昔メンバーだった鶴舞カントリー倶楽部(千葉県)を例にして、ちょこっと説明してみたいと思います。

 鶴舞CCは、井上誠一設計の東西合わせて36ホールある雄大なコースです。平らなコースだけ回ろうとするなら、東のアウト、西のインという選択があります。このルートなら、ほぼまっ平らな林間コースとして堪能できます。

 ただ、唯一例外なのは東の9番。そこは、きつい上りのコースです。8番までは平坦だったのに、突如『進撃の巨人』登場かと思うような、目の前に巨大な”壁”が現れます。ほんと「えぇ~、マジ!? この壁を越えていくの?」って感じですよ。

 しかも、距離が420ヤード。極端な上りですから、実質450ヤードぐらいはあるんじゃないでしょうか。自慢じゃないですが、バックティーから打って、パーオンしたことは一度もありませんから。

 打つ側とすれば、平らな面に慣れてしまっているので、つい”明治の大砲(※)”になりがちです。井上誠一はそのことを見越して、わざと最後は上りのきついホールにしたそうです。
※明治時代に使用されていた大砲に由来する、悪いスイングを比喩した言葉。体重が右足に残ったままになり、後方によろけてしまう打ち方。

 西のアウトにも、アップダウンが効いた名物ホールがあります。4番ホールあたりから、えっちらおっちらと地味に上っていく長いホールが続きます。ここら辺は、やっているほうとしてはあまり面白くありません。

 ところが、それを我慢して乗り越えると、6番ホールで高台に出くわします。そこからの眺望はすこぶるよくて、風もさわやか。とても爽快な気分を味わえます。

 そうして、気分もリフレッシュしたところで、「どれ、次のショットを打つべぇか」とティーグラウンドに立つと、愕然とさせられます。目の前に見えるのは、200ヤード弱の極端な打ち降ろしのショートホール。高低差はおよそ30ヤードで、しかもこんなに打ち降ろしなのに、グリーンは砲台ですから。

 ここまで緩やかな上りのコースをタラタラとプレーしてきて、突然崖下に打て、と言われる。これは距離感の出し方が非常に難しく感じます。

 メンバーに言わせれば、「ここは常にアゲインストの風が吹いているから、下りの計算はしなくていい」という話です。でもね、人間の心理としては、短めに打ってしまうんですよね。ここが思案のしどころです。

 という按配ですが、アップダウンのあるコースに興味を持てるようになりましたでしょうか。

 実際にラウンドすると、左足上がりや、左足下がりのライで打つことが多く、とても打ちづらいです。ある意味、真の実力が試されるコースではあります。そう言うと、ますます苦手に感じる人もいるでしょう。

 じゃあ最後に、アップダウンコースの見方を変えるヒントを少々。

 井上誠一は、日本庭園風な、和のテイストを好んでコースを造ったとされていますが、アップダウンのあるコースを造るときは、女性のボディに見立ててコースを設計したという説があります。すなわち、フェアウェーのくびれ部分がウエストで、こんもりした小山はバストなのでしょう。

 そう思うと、ゴルフもいと楽し。

 みなさん、間違ってもバスト部分で叩いちゃダメですよ。嫌われますからね。ではこれからは、芝を撫でるようなクリーンなショットを心がけ、アップダウンのコースを楽しみましょうか。

木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。

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