今シーズンは勝ち星に恵まれないが、「テニスの調子は悪くない」という土居美咲「チャンスだと思っているんですよ!」 女子テニスのWTAシングルスツアーに参戦している土居美咲に、初戦敗退が続く今季の結果について訊ねたときのことだ。彼女が発した…



今シーズンは勝ち星に恵まれないが、「テニスの調子は悪くない」という土居美咲「チャンスだと思っているんですよ!」

 女子テニスのWTAシングルスツアーに参戦している土居美咲に、初戦敗退が続く今季の結果について訊ねたときのことだ。彼女が発したのが冒頭の言葉なのだが、とても力強く、表情が明るかったのが印象的だった。

 昨シーズンの土居は輝いていた。全豪オープンでは優勝したアンジェリック・ケルバー(ドイツ)と1回戦で対戦してマッチポイントまで追い詰め、ウインブルドンでは自身初の16強入り。夏には日本代表女子のエースとしてリオ五輪に出場。直後のウエスタン・アンド・サザン・オープンでは3回戦に進出し、ランキングを32位まで上げた。そして、迎えた全米オープンでは初となるグランドスラム大会でのシード権を手にしたのだ。

「去年は本当に大きな経験ができたシーズンでしたね。全豪オープンはマッチポイントまでいきながら負けたのはショックでしたけど、グランドスラムで優勝する力を持った選手に対しても、押し込めたのは自信になりました。

 ウインブルドンは初めて2週目まで勝ち残れた。グランドスラムでの2週目はどれくらい疲労するかは、勝ち進まないと経験できないことですから。それに直前のイーストボーン大会で負けた(カロリーナ・)プリスコバ選手(チェコ)に2回戦で勝つこともできた。負けた相手にやり返せたことも大きかったですね」

 プロ転向8年目で見せた快進撃は、自己最高の30位(2016年10月10日付け)を記録し、最終的に年間ランキングは40位となった。2014年の124位、2015年の54位から着実にステップアップしていく姿は、新たなシーズンでさらなる飛躍を見せてくれるかと周囲を期待させた。

 しかし、2017年シーズンは昨年の目覚ましい活躍が夢だったかのような結果が続いている。2月の台湾オープンこそベスト8に進出したものの、1月から5月中旬のBNLイタリア国際までに出場した全11大会のうち7大会で初戦敗退。故障を抱えているのではという声すら上がるが、土居は笑顔で一蹴する。

「去年の反動が出ているとかではないですね。コンディションはいいし、テニスの調子自体も悪くない。たしかに勝ち星がつかめなくて難しい部分もあるけれど、ひとつ勝てば変わってくると思っています。練習はうまくいっているし、その手応えは感じています」

 なぜ今シーズンは勝ちに恵まれないか、その理由を自己分析してもらった。

「やっぱり、去年からいろんな選手と試合や練習をするようになったことで、土居美咲というプレーヤーがどういう特徴を持っているかを知られたことが影響していますね。対戦相手が私のことを知らないときは、私が主導権を握って積極的に攻撃的なプレーをすることができた。でも、今年は相手が私の武器をわかったうえで戦法や戦略を立ててきている。私も相手がそう出てくるとわかってはいるんですが、それを打破できていないんですよね」

 世界中を転戦するWTAツアーでは選手同士で練習することはめずらしくない。だが、それは互いの手の内を晒し合うことでもある。そのためマリア・シャラポアやビクトリア・アザレンカ、セレーナ・ウィリアムスといった選手たちは、世界中どこの大会にも必ず専属のヒッティングパートナーを同行させている。

 また、勝負の世界は活躍した選手の攻略法が見つかれば、広まるのは早い。土居の持ち味であるサウスポーからのフォアハンドと、フットワークのよさを生かしたアグレッシブな攻撃的スタイルは研究されている。現状を打破するのに何が必要なのか−−−。

「細かいところを今よりもレベルアップさせていくしかないですね。フィジカル、技術、スピード、パワー。それにメンタルや戦術的な駆け引き。ひとつひとつ突き詰めていく。まだまだ伸びる余地がだいぶあると実感もしています。いまは思ったような結果が出ていないけれど、これはもっと大きくジャンプアップするための課題でしょうね。ひとつきっかけをつかんで、ここを乗り越えていけば、すごく成長ができると感じています」

 ここまで噛み合っていない歯車をスムーズに動かすために必要なのが、ひとつの勝利。それを手にするため土居は、この春にきっかけを得た。新たにニューバランス社と契約を結び、シューズとウエアを一新したのだ。日本人アスリートが同社のグローバル契約を手にするのは、MLBヒューストン・アストロズの青木宣親に次いで2人目。期待の大きさの表れでもある。

「シーズンがハードコートからクレーコートに変わるタイミングでサポートを受けることになったのは、大きなきっかけになると思っています。クレーコートシーズンは毎年、私にテニスの幅や戦術面の成長をもたらしてくれるし、武器のフットワークを生かせるサーフェスです。新しいシューズは足と地面の距離が近くて一体感が抜群にいいし、左右への切り返しやスライドさせる動きなど、意のままに軽快なフットワークが踏める。私らしさが活かせるので気に入っています」

 4月から始まったクレーコートシーズンがクライマックスを迎えるのが全仏オープン(現地5月28日〜6月11日)。シーズン2戦目のグランドスラムを終えると、6月からはサーフェスは芝へと移行し、7月3日からはウインブルドンが幕を開ける。

「クレーも芝もどっちも好きですけど、成績だけを見ると芝の方が出ているんですよね。去年は全仏が1回戦敗退で、ウインブルドンは4回戦まで行けた。その成績を超えたいと思っています。攻撃的であるがゆえに安定感を欠くのは自覚していますが、安定感を求めると自分の持ち味が消えてしまうので、私らしく積極的に攻撃的なテニスをして結果を残したいと思っています」

 2015年4月からコーチを務めるクリスチャン・ザハルカ氏の指導のもと、「ラケットを振り切る」「アグレッシブ」を強く意識するようになったことで成績を大きく飛躍させてきた土居。現在はランキング64位(5月22日付け)まで下げているが、新たな武器を手にした彼女が持ち前の積極的なテニスにさらに磨きをかけられるか。

 今週のニュルンベルガー・カップでは、ダブルスでは第1シードを破る金星を挙げるなど、流れは変わりつつある。今季前半の不振を吹っ切るようなプレーを全仏、ウインブルドンのグランドスラムで見せてくれることを期待したい。