「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣「THE ANSWER」が各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE …

「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣

「THE ANSWER」が各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」。女子ゴルフでツアー通算6勝を挙げた北田瑠衣(フリー)は「THE ANSWER」スペシャリストの一人を務め、ゴルフ界のトレンドやツアーの評論、自身の経験談まで定期連載で発信する。

 今回のテーマは「新星からベテランまで活躍する2022年 北田瑠衣が前半戦で“凄い”と思った瞬間」。北田が見て感じた若手選手の技術力とマネジメント力、加えて一部のベテラン勢が成績の残せている理由などを語ってもらった。(文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 女子ゴルフの国内ツアーは、前週のニッポンハムレディスで前半戦の19試合を終了した。優勝者は西郷真央(5勝)、山下美夢有(2勝)、西村優菜(2勝)、サイ・ペイイン、堀琴音、上田桃子、植竹希望、高橋彩華、渡邉彩香、小祝さくら、稲見萌寧、木村彩子、青木瀬令奈の計13人。うち7人は、1998年度生まれ「黄金世代」以下の若手選手だ。

 中でも、2001年度生まれ「新世紀世代」の西郷、山下の活躍ぶりは目を見張るが、北田は6月のニチレイレディスとニッポンハムレディスと制した身長150cmの西村に、“凄み”を感じているという。

「私はニチレイレディスでラウンドリポートを担当しましたが、グリーンは砲台で小さめでした。飛距離の出ない選手には難しいセッティングでしたが、西村さんは全身を使ってボールを止めていました。気持ちが乗っていたのもあると思いますが、インパクト、フォロー、フィニッシュにかけて体を少し後ろに引く動きで、長いクラブでもボールを高く上げ、スピンをかけていたのです。普段とは微妙に違うコースにアジャストしたスイングです。これは、なかなかできることではありません」

 同大会の西村は3日間、ボギーなしでラウンドした。最終日は同じく首位タイで出た森田遥にリードを許すも、15番パー4で逆転。森田のボギー以上が確定した状況で、難しい下りのバーディーパットを決めた。ニッポンハムレディスでも、15番パー4で並んでいた野澤真央のボギー以上が確定した直後、長いスライスラインのバーディーパットを決めている。

「勝負どころのチャンスを逃さない集中力と、優勝を争う相手にダメージを与える駆け引きのうまさを感じました。彼女はアプローチ、パットが巧みですし、『もっと勝つ選手』と確信しました」

5勝・西郷真央が躍進した要因とは

 西郷の躍進についても、北田は「小技の充実が要因」と指摘する。

「昨季から強い選手でしたが、バーディーも取るけど、ボギーも多いスタイルで“粗さ”を感じていました。それが今季になって、ボギーが少なくなりました。ティーショットの精度が高くなったこともありますが、アプローチが抜群にうまくなった印象です」

 現実に西郷のリカバリー率(パーオンしないホールでパー以内のスコアを獲得する率)は格段に上がっている。昨季は63.6496%で全体24位、今季は75.8427%で1位。北田は「オフの間、かなりの練習を積んだのではないでしょうか」と言い、自身の経験を明かした。

「アプローチは練習をすればするほど上達します。要はコツをつかむことです。私はショットが曲がらないタイプだったので、アプローチの練習量は少な目でした。ただ、プロ4年目の2005年にシード落ちし、コ―チの誘いで片山晋呉さんたちとの宮崎合宿に参加した時、目が覚めました。

 理由は、片山さんが長い時間をかけてアプローチ練習をされていたからです。『これだけのトッププロが地味な練習をコツコツとしている。私も心を入れ替えなければ』と思い、その日からアプローチ練習に力を入れるようになりました。そして、自分でコツをつかみました。パットの不振は翌年も続きましたが、グリーンを外してもアプローチでピンそばに寄せられる。その自信がついたのは大きかったです」

 西郷、山下に関しては20歳にして小技に絶対的な自信を持ち、西郷は「グリーン近くの風が読めない時は、敢えてグリーンを外すこともします」と話している。宮里藍さんも2人のマネジメント力を目の当たりにし、「私があの年齢の頃は、常にピンを狙っていました」と驚きを口にした。だが、北田は「今の選手の方がより攻撃的だと思います」と言った。

「ツアーのレベルが上がった今は、パーを重ねてばかりではダメな時代なので、選手たちは厳しいピン位置から逃げていない印象です。また、ショートサイド(ピンからグリーンエッジまでの距離が短い方のエリア側)に外した方が意外と寄せやすい状況もある。それも頭に入れつつ、守るプレーもできていることに感心します。以前は、『厳しい時はグリーンの真ん中に乗せておけば』という発想の選手が大半でしたが、UTやウッドでもピンを狙える力のある選手も多くなってきました。だからこそ、厳しい設定でも、6アンダー、7アンダーが出せていると感じます」

30代選手の活躍…要因は「体の強さ、飛距離、謙虚さ」

 レベルアップしたツアーで、今季は30代選手の頑張りも目立つ。サイ、上田が早々と勝利し、有村智恵、藤田さいき、金田久美子が上位争いを演じている。11年ぶりの優勝を目指す藤田は、アプローチイップスを克服した経緯もあり、今でもアプローチが得意な年下選手にアドバイスを求めている。北田もそんな姿をうれしく感じている。

「みんな、すごいですよ。まずはモチベーションを維持し、何よりゴルフを楽しんでいる感じが伝わってきます。昨季はコロナ禍で無観客試合が多かったのですが、今季から有観客試合になり、パフォーマンスを見てもらえる。ベテランほど、そこのありがたみを感じている印象です」

 その上で、北田は彼女たちが活躍を継続できている要因は、「体の強さにある」と分析している。

「全員が持って生まれたバネ、強さがある選手です。だからこそ、30代になっても大きな故障をせず、若い頃からの飛距離を維持できています。これはトレーニングを多く積めばできるものではないので、どうしても人数は限られてきます。そして、残った選手たちは若手からも学ぶ謙虚さも持ち合わせています。選手は皆、『自分が一番』という思いを持っているものですが、ベテランも若手も学び合える雰囲気のツアーになってきたことをうれしく思います」

 体の強さで言えば、小祝さくらが評判だ。今季のリゾート トラストレディスまで、ツアー歴代4位の142試合連続出場。翌週の全米女子オープン出場で記録はストップしたが、日米を合わせると前週まで148試合連続。「休まない理由」については、「試合で課題を見つけて、試合で調整していく方が合っているので」と話している。154試合連続出場(ツアー歴代2位)の記録を持つ北田は、この考え方に共感する。

「私の場合は試合が好きだったこともありますが、休むことに不安がありました。休んで『あの時に出ていれば、もっと上に行けたのに』と思うことが嫌でした。小祝さんに関しては、さらに前進するための決断ですが、それでいいと思います。調子が悪くなると、『休みを入れた方がいい』という声も聞こえるでしょうが、自分のリズムがあるわけですから。稲見萌寧さんも、月曜も休まずに練習をしていると聞いています。これもリズムだと思います。若い選手については、体力が続く限りは自分のスタイルを貫いてほしいです」(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)