「ようやく”テニス”に復帰したな、と思います」 世界4位のグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)に競り負けた国枝慎吾(ユニクロ)は、そう言って会場を後にした。国際大会復帰戦で世界4位のフェルナンデスに敗れたもの…

「ようやく”テニス”に復帰したな、と思います」

 世界4位のグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)に競り負けた国枝慎吾(ユニクロ)は、そう言って会場を後にした。



国際大会復帰戦で世界4位のフェルナンデスに敗れたものの、好試合をした国枝慎吾 5月16日から6日間にわたって、福岡県飯塚市で車いすテニスのジャパンオープン(第33回飯塚国際車いすテニス大会)が開かれた。グランドスラムに次ぐグレードのスーパーシリーズである今大会の男子出場者には、世界ランキング1位のステファン・ウデ(フランス)やリオパラリンピック金メダリストのゴードン・リード(イギリス)らトップランカーが名を連ねた。

 リオパラリンピック以降、右ひじ痛のため休養していた国枝は、4月下旬のダンロップ神戸オープンで復帰。海外勢との対戦は実質、今大会が復帰後初となった。

 国枝自身も予想していた通り、フェルナンデスとの試合はハイレベルな展開になった。第1セットは国枝のショットやサーブが安定せず、2-5と差をつけられたものの、そこから粘って3度ブレークし、タイブレークまで追いついた。だが、先にセットポイントを握ったのに勝ち切れず、このセットを落としてしまう。続く第2セットも見ごたえあるラリーが続くも最後まで波に乗り切れず、6-7、4-6で敗れた。

 終盤に疲れが出たことを本人も悔しがったが、トップレベルならではの速いテンポのラリーや激しいチェアワーク、心理戦によるものが大きい。それを体感したがゆえに、冒頭のセリフが口をついたのだろう。

 この試合では、ショットの軌道がわずかに逸れてアウトになる場面が何度かあり、「詰めの甘さを感じた」と話すが、このあたりは練習と、実戦で試合勘を養うことで改善できるポイントと見る。

「今大会は(世界のトップレベルを相手に)どのショットが通用して、どのショットがダメなのかを見極めるスタンスで臨んでいた。そういう意味では、強敵のフェルナンデスと対戦できてよかったし、帰ってやるべきことが明確になりました」

 今大会は帯同していなかったものの、試合のスタッツを確認していた丸山弘道コーチは、「今の彼のなかでベストのものは出せたと思う」とコメントする。

 国枝は昨年4月、古傷の右ひじの内視鏡によるクリーニング手術を行なった。リオパラリンピックでは痛み止め注射など、さまざまな処置をしてシングルス3連覇を狙ったが、準々決勝で敗退。その後、11月に痛みが再発して、本人いわく「リオの後はもうテニスがやれる状態ではなかった」。医師のアドバイスもあり、完全休養期間をとることになった。

 今年の2月下旬から練習を再開し、今はひじに負担がかからないフォームを体に染みこませ、新しい打点を探る日々だ。丸山コーチは「ジャパンオープン前日にもフォームを少し変えた。会場でも迷っていたようだけど、彼のラーニングスピードは非常に速いし、それの積み重ねで元に戻ると考えています。照準はまだ先に置いているし、焦ってはいないので、今回負けても驚きません」と話す。

 当初の復帰プランとしては、夏ごろの復調、9月の全米オープン出場を視野に入れているとしていたが、先週、6月の全仏オープンにワイルドカードで出場するというニュースが飛び込んできた。ひじのことを考え、「無理をするつもりはない」が、「早くグランドスラムに戻りたい」と話していた国枝の願いが叶った格好だ。

「クレーは1年ぶり。みんなスピン量が多くなるので、そのなかで打ち切れるかどうか。それも含めて楽しみです」と話すと、国枝はようやく笑顔を見せた。

 ライバルたちも国枝のカムバックを歓迎する。国枝に憧れるフェルナンデスは「僕はシンゴからテニスを学んだ。シンゴが復帰してうれしい」と言い、リードも「彼はベストプレーヤー。戻ってきたので要注意です」と気を引き締めている。

 男子の世界トップ選手の勢力図に目を移すと、現在、その実力は非常に拮抗しており、誰が勝ってもおかしくない状況だ。世界1位のウデは46歳。リオではシングルスでメダルを逃したが、ダブルスでは後輩のニコラス・ペイファーと組んで金メダルを獲得した。ペイファーとは20歳の年の差があるが、ウデは「互いに助け合える存在」とし、彼の活躍から刺激を受けている様子だ。

 また、25歳のリードと23歳のフェルナンデスも互いにその実力を認める仲。さらに、19歳の新鋭アルフィー・ヒューイット(イギリス)の成長も全体のレベルを押し上げている。

 日本勢では眞田卓(凸版印刷)が世界ランキング9位、三木拓也(トヨタ自動車)が同10位、国枝が同11位となっている。グランドスラムの車いすの部は、世界ランキング上位7人とワイルドカード1枠の8人で戦う。眞田と三木も、ストレートインするまであとわずかの位置につけており、ふたりとも全米オープン出場を虎視眈々と狙っている。

 今年の全米はディフェンディングチャンピオン(2015年優勝、パラリンピックの年は開催されない)の国枝、そして眞田、三木がナショナルテニスセンターに集うことになるのか、楽しみにしたい。

 いずれにしても、国枝の復帰、若手選手の台頭で男子は、さらなる混戦が予想される。その中から誰かが抜け出すのか、それともさらに新たな選手が登場して新時代を築くのか――。今後の展開に注目が集まる。

※世界ランキングは5月22日時点のもの