オーストリアの美しい山々に囲まれたレッドブルリンクは、雨に濡れていた。せっかくの美しい景色が暗く濁っている。 前戦イギリスGPからの3日間は、角田裕毅にとってそれ以上に重苦しい日々だった。「接触は完全に僕のミスでしたし、チームのクルー全員…
オーストリアの美しい山々に囲まれたレッドブルリンクは、雨に濡れていた。せっかくの美しい景色が暗く濁っている。
前戦イギリスGPからの3日間は、角田裕毅にとってそれ以上に重苦しい日々だった。
「接触は完全に僕のミスでしたし、チームのクルー全員にもピエール(ガスリー)にもすぐに謝りましたし、フランツ(トスト)ももちろん怒っていましたし、すべてが自分のミスなので怒られて当然だと思います。
厳しいレース週末のなかでポイント争いができていたので、余計にチームをガッカリさせることになってしまいました。なのでチームには申し訳なく思っていますし、デブリ(破片)がマックス(フェルスタッペン)のレースを台なしにしてしまったことも申し訳なく思っています」
角田裕毅はオーストリアGPで挽回を図る
ダブル入賞が可能な状況での、同士討ち。
そこにつながるプロセスが多々あり、角田としては言いたいこともあっただろう。しかしグッと言葉を飲み込み、ターン3に飛び込んで止まりきれずにスピンしピエール・ガスリーに接触したというミスを全面的に認めて謝罪した。
「間違いなく今までで一番大きなミスだったと思います。特にF1のなかではそうですね。自分たちがポイントを争っていたのを失っただけでなく、ライバルにポイントを献上したことにもなりますから。ゴメン以外に何も言葉がありません。もう二度とあんなミスは犯さないようにします」
ガスリーもチーム内でしっかりと話し合ったことは認めたが、会話の詳しい内容は明かさなかった。
ただひとつ、同じミスは二度と犯すな、というアドバイスにすべてが集約されている。
「ドアの向こう側で話し合って、言うべきことはすべて言い合ったよ。彼は謝ったし、チームとしてこういうことは二度と起きるべきではないし、僕も彼に『これは最初で最後にしなきゃダメだね』と言った。
今年は以前ほど多くのチャンスがあるわけじゃない。だからこそチャンスはしっかりと掴み獲らなければいけないんだ。今回の場合は2台とも楽にポイントが獲れる状況だっただけに残念だけど、誰だってミスは犯すし、『ミスは1回は構わない、でも2回目はダメだ』と言ったんだ」
ガスリーが接触を振り返る
チームはふたりのドライバーを自由に戦わせた。
節度を持ってバトルをするかぎり、ポジションキープやポジションスワップの指示は出さず、自由に戦わせるというのがアルファタウリの方針だった。
「レース前に『We can fight』と言われていた。つまりそれは、戦ってもいいということだ。ただしもちろん、すべてをコントロールできていればの話。彼はコントロールを失ってスピンして僕にヒットした。それがレッドブル勢4台のうち3台に大きな影響を及ぼしてしまった。これは理想的なことではないよ」(ガスリー)
ガスリーは雨の予選でウエット寄りのセッティング(重いリアウイング)を選択し、決勝ではこれが足枷になってペースが伸びなかった。
それが、角田を抑え込み、前のフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)からじわじわと離れていくという展開につながっていた。
それ自体がチーム全体にとっての不利益だと言えるが、アルファタウリはドライバーふたりの純粋なバトルのほうを優先した。チームオーダーを出さなかった背景には、ガスリーがチームの意向を受けてギャンブル性の高いリアウイングを選んだことがあったのだとガスリーは示唆した。
そしてそのうえで、ガスリーは節度を持ったバトルをしていたのだと。
「リアウイングの選択は、チームとしてのギャンブルだったんだ。フリー走行のパフォーマンスがよくなかったから、僕のほうがリスクを取ることに対してオープンだった。ドライバーにとって理想的ではないことがわかったうえで、チームとしてはこのギャンブルをやりたかった。
僕は自分のため、チームのために自分のレースをしていた。だから相手がチームメイトであれ、何位であれポジションを争う。十分なスペースを残して、ね。実際、リプレイ映像を見たら自分が思っていた以上に大きなスペースを残していたよ」
そこで空いたスペースにとどまりきれず接触を喫したのは、角田のミスにほかならない。5秒加算ペナルティが科されたのも当然のことだ。
それは角田自身も認め、二度とこんなミスを犯さないよう誓った。
角田に挽回のチャンスは?
相手を100パーセント信用して、今までどおりのバトルができるか? そう問われたガスリーは一瞬言い淀んだ。
「そうだね......F1ドライバーだから彼のことを信頼しなければならないね。コクピットの中でどれだけすごいことをしているのかはお互いにわかっているし、チームメイトが相手の時は1パーセントだけエクストラの慎重さを持ってバトルをするべきなんだ。
もちろん二度と起きないと思っているし、チームメイトが相手ならいつも以上に慎重にならなければならない。今後も激しいバトルをすることは構わないけど、すべてがコントロール下に置けている状態でなければならない。それが最も重要なことなんだ」
精神的にカッとしやすい角田の癖を直すべくレッドブルが心理学者をつけたという報道もあったが、角田はF2時代からいわゆるメンタルトレーナーのもとへ通って精神面の鍛錬をしてきた。実際にはほとんどのレーシングドライバーが行なっていることでもある。
数戦前にそのメンタルトレーナーが替わり、まだお互いに理解を深め合っているところだというが、今回のミスは精神的な不安定さによって起きたものではないのだから、それとは無関係だと角田は言う。
シルバーストンでは角田のミスによってチーム内に激震が走ったが、チーム全体としてそれを回避することもできたはずだ。個人のミスにすべてを求めるのではなく、チーム全体を強化し、チームの利益を最大化する絶好の機会だと彼らが捉えて自分たち自身と向き合っていれば、アルファタウリはさらに強くなれるはずだ。
レッドブルリンクは角田にとって昨年2戦を経験しているサーキットであり、苦労した前半戦のなかでも好成績を残した場所だ。今年のマシンはダウンフォース不足で高速コーナーでマシンが滑り苦戦が予想されるが、イモラと同じように予選、スプリントレース、決勝と挽回のチャンスは大いにある。
苦しいなかでも好走を見せ、この2戦で犯してしまったミスのもやもやを吹き飛ばすような走りを見せてもらいたい。