カンプ・ノウで行なわれたリーガエスパニョーラ最終節、バルセロナ対エイバルは、4対2でホームチームが勝利した。日本人MF乾貴士はこの試合のエイバルの全ての得点を決める活躍で、日本人初のカンプ・ノウ得点選手となったほか、マジョルカ時代の大…

 カンプ・ノウで行なわれたリーガエスパニョーラ最終節、バルセロナ対エイバルは、4対2でホームチームが勝利した。日本人MF乾貴士はこの試合のエイバルの全ての得点を決める活躍で、日本人初のカンプ・ノウ得点選手となったほか、マジョルカ時代の大久保嘉人が記録しているリーガでの通算得点5点を上回る、日本人最多の6得点となった。



最終節バルセロナ戦で2ゴールを決めた乾貴士(エイバル) 夢を見た試合だった。

 試合が始まって1時間が過ぎた時、カンプ・ノウの大型掲示板には「0対2」と、アウェーチームのリードを示すスコアが表示されていた。その2点は乾が叩き込んだもので、エイバルの日本人MFは2度、カンプ・ノウに沈黙の時間をもたらした。2点目は多くのバルセロナファンに家路につく決断をさせた。

 乾が決めた2つの得点はどちらも美しいものだった。チームメートが冗談めかして言う「お前はファインゴールでしかゴールを決められない」という言葉を証明した。

 前半7分、右サイドバックのアンデル・カパが上げたアーリークロスは、大外で待っていた乾のもとへと飛んできた。手前でボールがバウンドする処理が難しいボールだったが、リーガでもトップクラスと言えるトラップを見せる日本人MFはいとも容易に、しかも本人の言葉を借りれば「左足のスネ」と、ミートが難しい部分でダイレクトに合わせた。

 枠に飛んでくることを予想していなかったGKテア・シュテーゲンの反応は遅れ、ボールはバーを叩いてネットに吸い込まれていった。

 それは奇しくもカンプ・ノウの人々が、クリスティアーノ・ロナウドのマラガ戦での得点をラジオやスマートフォンを通して知った直後の失点であり、伏兵の一撃によって10万人収容のスタジアムが一瞬、沈黙に包まれた。

 さらに61分、中央でセルゲイ・エンリヒが右足でフリーの乾にボールをつなげると、走り込んだエイバルの背番号8番は迷いなく左足を振り抜き、バーに当てながらもゴール左隅に突き刺した。リーガ優勝に一縷(いちる)の望みをつないでいたバルセロナサポーターの思いを完全に断ち切る一撃だった。カンプ・ノウ記者席では世界中のバルセロナ番記者から日本人記者に「どうなってんだ」と言わんばかりの視線や身振りが飛んできた。

 その直後、エイバルはオウンゴールで1点を献上するが、ジョルディ・アルバが接触することなく自ら転んで得たPKをリオネル・メッシが外してしまう。流れはエイバルにあるかと思われた。日本人のゴールで、欧州サッカーの頂点に君臨するチームを粉砕するという夢が現実になるのではないかという期待感が膨らんだ。

 だが、バルセロナはやはりバルセロナ。そうは問屋がおろさなかった。

 GKジョエル・ロドリゲスの好セーブでなんとかバルセロナの猛攻を耐えていたエイバルだが、74分にルイス・スアレスにセットプレーから同点ゴールを許すと、眠れる獅子、レオ・メッシがついに目を覚ました。PKとセンター付近からのドリブル突破で、それまで外しまくっていたのが嘘のように簡単に2得点を決め、ルイス・エンリケ監督のホーム最終戦に花を添えた。

 93分、試合が終わった時、カンプ・ノウのスコアボードには4対2とホームチームの勝利を示す数字が刻まれていた。両チームの力の差を考えれば妥当なものであり、夢から現実へと引き戻されるのに十分なスコアだった。

 それでも乾がバルセロナを苦しませる2得点を決めたことは現実であり、カンプ・ノウで初めて得点を奪った日本人としてスペインサッカーの歴史に残っていくことも事実だ。エイバルは負けた。それは事実なのだが、なぜか試合後も、エイバルが乾の2つのファインゴールで勝ったというような感覚を消すことはできなかった。

「バルサから2点を決められたのはすごく嬉しいことだし、名誉なことだけど、やっぱり最後は差を見せつけられました。メッシが決めた4点目なんて、すごいとしか言いようがない」

 浮かれた気分の筆者とは違い、ミックスゾーンに姿を見せた乾は、勝利を逃したことを悔しがった。

 それでもこの日、エイバルの日本人MFが見せた好パフォーマンスは、十分に胸を張れるものだ。普段はスペイン語があまり得意でない乾に近寄ることもしないスペインの地元メディアが、遠巻きではあるが、日本のメディア同様に乾を取り囲んでいた事実が、何よりも雄弁に乾の偉業を物語っていた。