「将来、強烈なスピンが世界を制する」バボラの予見が“攻撃的スピンラケット”という新領域を創り出す“もっと速いテンポで攻撃的なスピンを打つ時代がやって来るはず”。21世紀を迎えたばかりのころ、そんな次…

「将来、強烈なスピンが世界を制する」
バボラの予見が“攻撃的スピンラケット”
という新領域を創り出す

“もっと速いテンポで攻撃的なスピンを打つ時代がやって来るはず”。
21世紀を迎えたばかりのころ、そんな次世代の波をキャッチしていたバボラ社は、空気抵抗が15%減するブーメラン型フレーム「アエロビーム形状」を開発。そのテクノロジーを活かして2003年に「アエロツアー(AERO TOUR)」をリリースした。

【関連記事】攻撃的スピンのためのテニスラケット、「バボラ アエロ列伝」[前編]

歴史的1本であったことは異論がないところだが、スイング速度が格段にアップする一方で硬すぎるという課題も生まれた。いかに“スイング速度の高速化”をキープしたまま、より使いやすいラケットに変化させるか。バボラは、2004年モデルで「ウーファー・グロメット・システム(打球時にストリングが連動して動くシステム)を搭載することでホールド性を高め、2007年モデルで人間が不快に感じる振動・周波数を取り去るという「コアテックス」テクノロジーを採用。「アエロツアー」では、難しすぎて無理だったラケットを、「アエロプロドライブ(2010)」では一般プレーヤーでも、そのメリットを活用できるものに進化させた。同モデルは “アエロの良さ”を知らしめたラケットとなり、爆発的売上を記録するものとなる。





その2009年シーズンまでで、全仏オープンで4度の優勝、ウィンブルドン、全豪オープンと6度のグランドスラムを制していたナダルは、2010年、「アエロプロドライブ2010」を使って全仏オープン、ウィンブルドン、USオープンと3つのグランドスラムを制覇。またUSオープンの優勝で、プロ入りから8年というスピードでキャリア・グランドスラム(4大大会制覇)を達成する。



アエロプロドライブを使い、ナダルは2010年のUSオープンを制覇。キャリアグランドスラムを達成した


さらに完成度を高めた
「アエロプロドライブ(2013)」
トリコとなる人が続出

2011年大会から全仏オープン5連覇を達成したナダルに、バボラが用意したのが「アエロプロドライブ(2013)」だ。
注目すべきは「コアテックス・アクティブテクノロジー」の採用。いわゆる“凸型コアテックス”である。2007年、2010年モデルで、評価の高かった“コアテックス・テクノロジー”だが、同年のモデルでは振動吸収パーツの面積を拡大。必要な情報(衝撃)は残したまま、不快な衝撃をとことん削除することを試みたわけだ。






爆発的売上を記録した2010年モデルに続いて、2013年モデルもプレーヤーをとりこにした。キャリアハイ世界ランク22位、アドリアーノ・マナリノ(フランス)もその内の一人。2017年、楽天ジャパンオープンで準優勝となった彼だが、決勝の2日前には、こんなツイートを投稿している。

Is there any shop in the world still having some stock of this racket grip size 3 or 4 ?? pic.twitter.com/eB1wPFa79W

— Adrian Mannarino (@AdrianMannarino) October 6, 2017

「アエロプロドライブ(2013)のグリップ3か4の在庫、どこかのショップに在庫はありませんか?」。当時はすでに2016年モデル(ピュアアエロ)が発売となっていた時期だが、マナリノはこの2013年モデルに惚れ込んでいた。“今の内に在庫を確保しておきたい”、そんな思いからツイッターに投稿したようだ。



当時アエロプロドライブ(2013)を愛用、楽天ジャパンオープン2017で準優勝となったマナリノ


2016年モデルで
「ピュアアエロ」の名称に
<原点回帰>で空気抵抗は11%も減少

そして2016年「アエロ」シリーズは、「ピュアアエロ」と名称を変えて、新しいチャプターを迎える。
2010年モデル、2013年モデルと大成功を収めた「アエロプロドライブ」。それはある意味、一つのゴールと言ってもいいものだった。“最高” の完成度となったラケットを、さらにどう高めえていくか? バボラ社が行ったのは<アエロの原点回帰>、フレームを見直すことだ。

十分な効果を発揮していた「アエロモジュラーフレーム2」を、さらに効果的なものに変化させたい。そこで、バボラ社は飛行機など、航空力学を専門とする会社とタッグを組み、「アエロモジュラー3」を開発する。フレームの中で6種類の形状を組み合わせ、グロメットを変更、ウーファーとコアテックスを統合してフレームに組み込むことで前作から11%の空気抵抗を実現。スイング速度は14.5%向上し、ボールスピードも時速5キロ上昇という大きな成果をもたらしている。

また変更したグロメットでは、開口部を楕円状に変化させたものを6時、12時部分に採用。「FSIスピン」テクノロジーの採用によって、スイートエリアを従来よりも上部方向に設定するという変化も加えている。



ピュアアエロ(2016)のために「アエロモジュラー3」を開発、空気抵抗を11%減少させた


新フレームなどの採用で、スピン性能、パワー、安定性はさらにレベルアップ。“原点回帰”により、ピュアアエロは“攻撃的スピンのためのテニスラケット”としての地位は、さらに強固なものへと変化させた。

同モデルはナダルももちろん使用しているが、当時は膝の故障やテニスのスピード化などもあって苦難の時を迎えている時期だった。ただし、そんな時間もわずかでしかない。2017年の全仏オープンから4連覇を果たすことになるのだから。
苦しんでいたナダルのプレーをアップデートさせるために役立ったのが「バボラプレー」だ。同シリーズで、ナダルは「バボラプレー」搭載ラケットを使用していたが、各ショットのデータを使い、プレーを改善していった。また「ピュアアエロ」の次回作を作るうえでも貴重なデータになったという。







国際的企業と作り上げたシリーズ最高作
「ピュアアエロ(2019)」でナダルが歴史を作る

やり尽くしたかのように思えるものにも、改善の余地がある。「ピュアアエロ(2016)」を作ったことでそれを発見することができた。続く「ピュアアエロ(2019)」では、すべてを見つめ直し、よりスケールを大きくして制作することになった。
2019年モデルのため、バボラ社が協力を仰いだのは、フランスを代表する大企業、「CHOMARAT(ショマラ)」社と「SMAC(スマック)」社である。

「CHOMARAT」社は、複合素材分野で高い評価を得ている製造グループだ。さらにラケットの性能を高めるために、バボラ社は同社提供の次世代高性能カーボン素材「C-PLYカーボン」の提供を受けて、シャフト部に採用。あらゆるショットでのコントロール性、安定性を高めている。

そして「SMAC」社は、航空宇宙産業や海上プラントなどで、高度な振動対策技術を発揮するエキスパート企業。同社に依頼したいのは「コアテックス」のレベルアップだ。同社自慢の高機能素材「SMACWRAP」を採用した「コアテックス・ピュアフィール」は、フェイスの3時・9時部分に採用されていて、より柔らかで心地よい打球感を生み出すものへと進化させている。また、前作で大幅に空気抵抗を改善したフレームは、ダンパーとグロメットのデザインを最適化させて「アエロモジュラー3」にしている。

もう一つ、バボラ社のラケットは、フランス屈指のデザイン集団に革新的なコスメ・デザインを依頼している。フランスを代表する企業が集結して作られた結晶が、「ピュアアエロ(2019)」だったわけである。







ナダルは、同モデルのコスメに好きなパープルをアレンジしたシグニチャーモデル「ピュアエロ・ラファ」を使用。左足の手術をして迎えた今シーズン、全豪オープンで男子史上単独トップとなる21度目のグランドスラム制覇を成し遂げると、その後も白星を重ね、シーズン開幕から20連勝。肋骨骨折、左足の問題を抱えた全仏オープンでは、大会最多14度目のタイトル、グランドスラム優勝回数を22に伸ばしていることは記憶に新しい。





“もっと速いテンポで攻撃的なスピンを打つ時代がやって来るはず”、そんなバボラ社の予見が、テニス史に残るラケットを作り上げ、偉大なプレーヤーのキャリアを作り上げる助けとなった。

この先、“ピュアアエロ”は、どんな進化を遂げていくのか? 新シリーズの発表がなされるのはいつになるのか? 毎回、サプライズを用意する“バボラ社”である。次回作も我々が予想だにしないものを、世に送り出すのだろう。今からワクワクが止まらない!


取材協力:バボラVSジャパン