まさしく、王者ここにあり、を地でいくようなレースだった。 マックス・フェルスタッペンは16周にわたるカルロス・サインツ(フェラーリ)との大接戦を抑え込んで、今季6勝目を挙げた。「僕らはもう少しレースペースがあると思っていたんだけど、予想以…

 まさしく、王者ここにあり、を地でいくようなレースだった。

 マックス・フェルスタッペンは16周にわたるカルロス・サインツ(フェラーリ)との大接戦を抑え込んで、今季6勝目を挙げた。

「僕らはもう少しレースペースがあると思っていたんだけど、予想以上に苦しいレースだった。決勝での彼らはとても速かったから、セーフティカーは僕らにとって助けにならなかった」

 フェルスタッペンにとって、予選まではトップタイムを記録し続けた週末だった。決勝でもポールポジションからフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)のアタックを退けて首位をキープすると、順調にリードを築いていった。



0.993秒差で先にチェッカードフラッグを切ったフェルスタッペン

 しかし、予選まではレッドブルに歯が立たないと思われていたフェラーリのサインツが好ペースを刻み始めた。その一方で、フェルスタッペンはミディアムタイヤにグレイニング(タイヤ表面のゴムめくれ)が発生し始めていた。

 そんな矢先の9周目、セルジオ・ペレスがリタイアしてVSC(バーチャル・セーフティカー)導入。ここでレッドブルはフェルスタッペンを2ストップ作戦に変更して、攻めのレースを選ばせた。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は言う。

「あの時点で計算上、最速の戦略として2ストップ作戦にすることに決めたんだ。しかしカルロス(・サインツ)が1ストップ作戦を選び、我々の2回目は通常のレーシングコンディションでのピットインで(サインツの)9秒ほど後方でコースに戻ることになった。

 そこから追い上げてどんな展開になるのか、非常に興味深いところだった。我々の計算では、残り10周あたりの時点で追いついてオーバーテイクできていたはずだ」

 2ストップ作戦のフェルスタッペンは、サインツよりもフレッシュなタイヤでじわじわと追い上げ、最後は追い着いてコース上で抜き去って勝利を掴み獲る。そんな攻めのレースになるはずだった。

攻めから守りへ状況は一転

 しかし49周目、ブレーキングを遅らせすぎた角田裕毅(アルファタウリ)がピット出口のバンプに乗ってクラッシュを喫し、マシン回収のためセーフティカー導入となった。VSCではなくセーフティカーというのが、フェルスタッペンにとっては悪夢だった。

「セーフティカー出動は僕らにとって、かなり歓迎せざる出来事だった。あれによって、カルロスが僕よりフレッシュなタイヤですぐ後ろに来てしまったんだからね。それに彼のペースのほうが少し速いことはわかっていたから、ポジションを守りきるのは簡単なことではないこともわかっていた」

 本来ならサインツはピットインせず、最後にタイヤがタレたところでフェルスタッペンが追い着くはずだった。もしVSCなら、仮にサインツがピットインしたとしても数秒後方に下がることになるため、そのリスクを冒すことはなかっただろう。

 しかしセーフティカーなら、サインツはピットインしてフェルスタッペンより5周フレッシュなタイヤですぐ背後について、レース再開に臨むことになる。ステイアウトすれば23周もフレッシュなタイヤのフェルスタッペンが背後にやって来て、すぐに追い抜かれてしまうことは明らかだったからだ。

 フェルスタッペンにとっては、攻めのレースから一転して守りのレースへ。一切のミスも許されない緊迫の残り16周が始まった。

「最後の15〜16周は全開だったし、限界までプッシュしたよ。もちろん。ミスは一切許されないこともわかっていた。僕は守りのレースより攻めのレースのほうがよかったけど、幸いなことにうまくいったね。

 いいバトルだった。タイヤをセーブするレースよりも、F1マシンの限界までプッシュするレースのほうが楽しいに決まっているよ」

 一方のサインツも、自身の初優勝を掴み獲るべく、最大限のプッシュを見せた。

「すごくタフで緊迫したバトルだった。僕のほうが少しだけ速いことはわかっていたし、僕のほうが5〜6周フレッシュなタイヤを履いていたけど、オーバーテイクをするにはその0.2〜0.3秒のアドバンテージでは十分ではなかったんだ。

 すべてを出し切って、縁石も使い壁もギリギリまで寄せて、最大限のリスクを背負って攻めた。乱流を受けて何度かヒヤリとする瞬間もあったけど、インに飛び込むチャンスは巡ってこなかったよ」

サインツあと一歩及ばず...

 サインツはその言葉どおり、最初から最後までフルプッシュを続けた。

 ある意味では、一度引いてから再びプッシュするような、緩急をつけた揺さぶりといったような駆け引きをしなかったことが、チャンスを作り出せなかった理由かもしれない。そこはまさに、勝ち方を知っている者とそうでない者との差だ。



素晴らしいバトルを見せたサインツ(左)とフェルスタッペン(中央)

「本当にエキサイティングなレース終盤になったと思う。自分の持てる力をすべて出しきったよ。カルロスもそうだったと思う。あの最後の数周は本当に楽しかったよ」(フェルスタッペン)

 レッドブルはエミリア・ロマーニャGPから6連勝を飾ったとは言え、ライバルであるフェラーリの自滅によって得た勝利も少なからずあった。しかし今回は、劣勢のマシン、劣勢のレース展開のなかでも、王者ここにありを存分に示す圧巻の走りを見せた。

 まさしく、王者フェルスタッペンのさらなる成長を存分に見せてくれたレースだった。