堀奈津佳が前週23位、今週はアース・モンダミンカップも出場 19日まで行われた女子ゴルフの国内ツアー・ニチレイレディス(千葉・袖ヶ浦GC新袖C)では、29歳の堀奈津佳(サニクリーン)が通算5アンダーの23位で終えた。ツアーでは約7年3か月ぶ…

堀奈津佳が前週23位、今週はアース・モンダミンカップも出場

 19日まで行われた女子ゴルフの国内ツアー・ニチレイレディス(千葉・袖ヶ浦GC新袖C)では、29歳の堀奈津佳(サニクリーン)が通算5アンダーの23位で終えた。ツアーでは約7年3か月ぶりのアンダーフィニッシュ。2013年に2勝を飾った“元次世代ホープ”が手にした希望の光だが、そこにたどりつくまでの歩みは、想像を絶するものだった。共に闘ってきた井上透コーチは「奈津佳はどんなに殴られても立ち上がるボクサーのタイプ」とストイックさを表現した。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田通斉)

 ◇ ◇ ◇

 ニチレイレディス最終日の18番パー5。堀はピンまで残り58ヤードの第3打を50センチにつけ、バーディーで締めた。初日68で5位、第2日70で10位、最終日73で23位。順位は落としたが、堀は充実した表情で言った。

「久しぶりに大勢のギャラリーを前にプレーできて、楽しかったです。ショットの調子は日替わりで、今日はよくない日でしたが、修正してまとめられたことは収穫でした」

 手にした賞金は83万円。それよりも、ツアーで上位を狙える位置まで戻って来られたことが、うれしかった。

 堀は、レギュラーツアー本格参戦2年目の2013年に2勝を飾っている。両試合の計7ラウンドで全て60台をマーク。20歳で、「ツアーをけん引する新星」と称された。だが、15年から極度のスランプに陥り、シード権を喪失。16年は賞金0円となった。堀から依頼され、17年からコーチを引き受けた井上氏は、当時を「とんでもない状態でした」と振り返った。

「ショットの反応病」で深い谷底…70台で回るのに必死

「ショットの反応病でした。とにかくドライバーの症状は最も酷く、打った瞬間に大きく左に出てOBということもありました。左が嫌で右にミスをすることもあり、70台のスコアでラウンドすることにも必死でした。不調というよりも、深い谷底、闇に陥っている感じです。私自身も長い闘いになることを覚悟しました」

 本人は、闇に陥った切っ掛けを「いい時に『もっと綺麗なストレートボールを打ちたい』と思ったから」と言った。ストイックな性格ゆえに完璧を求め、試行錯誤する中で迷走。指導を始めた井上氏は、堀に寄り添い、さまざまなことに取り組んだという。

「まずは、どういうものが彼女に合うのか、それを悶々と探しました。そして、練習場でいい球が出るようになり、コースで打ちのめされる繰り返しでした。なので、彼女の手応えのあるショットのデータ(数字)を残していきました。その過程で、ドローも試しましたが、今のフェードを軸にしたショットに行き着きました」

ただ、「ショットの反応病」は、「心」に起因するところが大きい。それを克服するために、井上氏は「小さな目標を立てて、クリアし、少しずつ自信を取り戻すことが大事」と、堀に伝えた。

「70台を出せない時は、『ハーフ39を出そう』と言いました。OBが当たり前のように出ても、アプローチ、パターで頑張ってそれをクリアしていく。『次は70台』という感じでした。そういう中でも、奈津佳は試合に出て懸命にプレーを続けました。辛くて何度も涙したと思いますが、殴られても、殴られても立ち上がるボクサーのようにあきらないですし、『練習が嫌だ』とは一度も言ったことがない。これは、なかなかできることではないです」

ショット復調、今年3月にツアーで7年ぶりの60台

 そして、昨年3月の明治安田生命レディスで3年ぶりの予選通過を果たした。その後は10戦連続で予選落ち(22年を含む)だったが、今年3月の明治安田生命レディス第2日では、ツアーで約7年ぶりの60台の「69」をマークした。それを境に流れが変わり、5月のブリヂストンレディスは、今季初のツアー予選通過で55位。ニチレイレディス初日では、7年ぶりとなるトップ10発進を果たした。

「昨年の試合が始まる前には、プライベートのラウンドでも60台を出せるようなっていました。一時は200ヤードを切っていたドライバーのキャリーも230ヤードまで戻っていたので、『またツアーで戦えるところまで来た』という感覚はありました。現実に平均ストロークも上がってきたので、今の成績は納得できるものがあります」

 井上氏の言葉通り、堀のツアーでの平均ストロークは着実に向上している。

・22年   出場4試合  73.4545
・20-21年 出場10試合 75.9966
・19年   出場5試合 78.0000

 一方で井上氏は、「奈津佳は、まだまだリハビリの途中です」と言った。積み重ねによって深刻な状態からは脱しているが、今後も焦らず、「小さな目標」を立てていくという。

「予選通過を重ねて、次はトップ20、その次はトップ10という感じです。同じように苦しい時期を乗り越え、復活して優勝した(妹の)琴音プロの姿を見ているとはいえ、奈津佳の方が闇の期間が長いので、ここで焦って、何歩先の目標を立ててはダメ。まずは、次の試合で3日連続アンダーパーを一緒に目指したいです」

 ニチレイレディスに続き、堀は23日から始まるアース・モンダミンカップ(千葉・カメリアヒルズCC)にも、主催者推薦で出場。キャディーは井上氏が務める。

「グリーンが小さく、得意ではなかったニチレイレディスのコースでの2日連続アンダーパーは、とても大きいです。そして、今回のコースは、奈津佳の攻撃的スタイルがフィットするグリーンのサイズ感なのでより楽しみです」

 9年前の13年アース・モンダミンカップで、堀は2位に8打差の通算21アンダーで圧勝している。だが、今はコツコツと小さな目標をクリアしていことに集中。その積み重ねが、「希望の光」を明るくしていく。

■井上透(いのうえ・とおる)

1973年4月3日、神奈川・横浜市生まれ。法政二高野球部で甲子園出場を目指していたが、故障をきかっけに退部。その後、ゴルフを始め、法大2年修了後に渡米。21歳でプロゴルファーとなり、現地でゴルフ理論を学ぶ。97年からは国内初のプロコーチとして男子ツアーに帯同。佐藤信人、中嶋常幸プロ、加瀬秀樹、佐藤信人らをコーチングした。現在も成田美寿々、穴井詩、堀奈津佳、識西諭里らプロやアマ選手を指導している。11年には、早大大学院で「韓国におけるプロゴルファーの強化・育成に関する研究」の論文を発表し、最優秀論文賞を獲得。16年には、東大ゴルフ部の監督に就任した。データ分析の第一人者としても知られる。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)