最熊野地域を舞台とするUCI(世界自転車競技連合)認定の国際ステージレース「ツール・ド・熊野」は5月29日に、最終ステージを迎えた。和歌山県新宮市、三重県熊野市で開催された2ステージに続き、この日は太地半島の外枠を時計回りにめぐる「太地半島…

最熊野地域を舞台とするUCI(世界自転車競技連合)認定の国際ステージレース「ツール・ド・熊野」は5月29日に、最終ステージを迎えた。
和歌山県新宮市、三重県熊野市で開催された2ステージに続き、この日は太地半島の外枠を時計回りにめぐる「太地半島周回コース」が使用された。1周10.5kmの周回は、太地港のテクニカルなコーナーや、その直後に迎える登坂区間、急勾配のダウンヒルなど変化に富んでいる。このコースを10周回して、競技距離は104.3kmに設定された。



太地漁港内も抜ける変化に富んだコース



風情ある太地半島の水辺をめぐる

スタートラインには、各賞のリーダーたちが並んだ。最終ステージでありながら、個人総合争いの上位は僅差にとどめられており、個人総合首位のイエロージャージをこの日に着用するネイサン・アール(チーム右京)と2位の選手とのタイム差は5秒。6秒差には5名の選手が控えている。8名の選手が15秒差以内に並ぶ大接戦状態にあった。



スタートラインの最前列に並ぶ各賞のリーダーたち

さらに、この日にはもうひとつの注目点があった。第3ステージにはスプリントポイントが2つ設定されており、通過時に、上位3名には5、3、1ポイントだけでなく、3秒、2秒、1秒のボーナスタイムも与えられる。フィニッシュで上位3名に与えられる、10秒、6秒、4秒とのボーナスタイムと合わせると、最大16秒を獲得できることになるの
だ。このボーナスタイムには大きな意味があり、例えばスプリント勝負で勝敗が決まると、タイム差はカウントされなくなるが、たとえ同タイムゴールになったとしても、逆転できる15秒差以内の選手が8名もいることになる。展開次第では大逆転が可能な状況で、最終ステージのスタートを迎えることになった。
当然、逆転を狙う選手を抱えるチームは、このスプリントポイントを含めて、走り方を考えることになる。身体だけでなく、頭をも酷使するレースになりそうだ。第3ステージには山岳賞ポイントの設定がないため、赤ドットの山岳賞ジャージは山本大喜(キナンレーシングチーム)に確定している。ポイント賞ジャージは第1ステージの覇者・窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング )が着用、。U23首位のホワイトジャージは、湯浅博貴(ヴィクトワール広島)が着用する。

晴天にめぐまれ、体感気温は、ほぼ真夏日となった。日曜日の観戦に訪れた観衆の拍手を受け、午前10時、77名の選手がスタートした。
リアルスタートを迎えると、アタックと吸収との繰り返しが始まる。2周目完了時に設定されていた一つ目のスプリントポイントが近づくと、チームブリヂストンサイクリングが隊列を組んでスピードアップを始めた。トップから6秒差に控える松田祥位(チームブリヂストンサイクリング )のボーナスタイム獲得を狙っての動きだ。松田がきっちりと先頭通過し、3秒を獲得。だが、首位のアール自身も3位通過し、1秒を獲得したため、差は4秒差に留まった。



松田祥位のスプリントポイント獲得のため、隊列を組み、ペースアップするチームブリヂストンサイクリング

集団から7名が飛び出し、先頭集団に合流した。7名の顔ぶれの中では、個人総合で見ると、アールと46秒差に位置する横山航太(シマノレーシング)が最上位に位置する。シマノは中井唯晶(同チーム)もここに送り込んでおり、一気に有利な状態に。



7名の選手が抜け出し、先頭集団を形成した

ここでチーム右京のメンバーがメイン集団の先頭を、フタをするように固めた。首位のアールを抱える右京としては、メイン集団に含まれる個人総合上位メンバーが先行ゴールしてしまうリスクを負うよりも、先頭10名に先着してもらった方が、アールの優勝を覆されるリスクは少ない。横山から46秒差以内にアールがゴールすれば十分であり、メイン集団のペースをむしろ抑えた方が安全なのだ。だが、このままでは、メイン集団内の他チームのメンバーは封じ込まれてしまう。



集団内で守られるように走るリーダージャージのネイサン・アール(チーム右京)

これを嫌った3名がメイン集団から抜け出し、先頭に合流し、10名の先頭グループが形成された。10名の中には、シマノレーシングの2名に加え、かつてツール・ド・フランスで個人総合4位に入った経験を持つ超ベテランのフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)、入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)、門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)、ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)らが名を連ねていた。
逃げ切りを図りたい先頭グループは協力しあって好ペースを刻み、メイン集団との差を開きにかかる。

※最終ステージの結末は…!?
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5周回完了時に設定された2度目のスプリントポイントを獲るために、ブリヂストンのメンバーが先頭を固め、全力でペースアップを図り始めた。ナショナルチームのトラックレーサーで構成されるチームの底力を見せ、差が詰まっていくが、先行する10名も協調しあい、全力で逃げる。
いくらブリヂストンとはいえ、数名で協調のとれない集団のペースアップを図るのは難しく、ついに牽引を諦めた。すると右京のメンバーが再び先頭に現れ、ペースを抑えにかかり、再び差は1分まで開く。メイン集団はこの時点でかなり疲弊しており、このまま、先行メンバーの逃げ切りを許すことになるのか、という雰囲気が全体に漂い始めた。



チーム右京がコントロールするメイン集団。先頭集団に戦える選手を送り込んでいないチームの思いとは裏腹に、ペースが上がらない

2回目のスプリントポイントは、カバナ、マンセボ、横山の順に通過。バーチャルリーダーの横山は、さらに1秒の差を縮めることに成功した。先頭グループとメイン集団との差は最大で約1分30秒まで広がった。先頭集団にメンバーを送り込めていない愛三工業レーシングチームなどが集団の牽引を行い、タイム差を縮めたが、先頭を捉えることはできず、また右京のコントロール下へ戻った。そのままレースは終盤に突入していく。



愛三工業レーシングチームがメイン集団をペースアップし、追い上げを図る

先頭グループは逃げ切りをかけ、ハイペースを維持する。耐えきれなくなった選手たちが徐々に集団から脱落して行った。メイン集団と55秒差で最終周回に入った。先頭に残ったのは、カバナ、マンセボ、横山、中井、門田、入部、山田拓海(エカーズ)。横山は、メイン集団のアールから45秒以上のタイム差を保ってゴールすれば、個人総
合で逆転優勝が叶う。当然、それを許すまじと、チーム右京はメイン集団の先頭を固め、全力で追撃、タイム差を縮めにかかった。先頭に選手を送り込めていないチームも、ここに協力し、メイン集団は一気にペースアップした。



逃げ切りに賭け、全力で走る先頭7名



フィニッシュに向け、ペースアップするメイン集団

最後の全力の牽引でタイム差が縮まっていく。逃げ切りをかけ、門田と中井が先頭から飛び出し、ゴールを目指した。ラスト3kmで2名は先頭集団に吸収された。ステージ優勝をかけた駆け引きが始まる。残り200mでカバナが先頭に飛び出し、スプリント勝負が始まった。カバナはそのまま先頭でフィニッシュラインを通過した。



ライアン・カバナ(ビクトワール広島)がスプリントを制し、勝利をもぎ取った

メイン集団はこの7秒後にフィニッシュに到達。リーダージャージのアールも7秒差でフィニッシュし、個人総合優勝を確定させた。77名がスタートした最終ステージだが、完走はわずか45名。非常に厳しいレースとなった。
スプリントポイントや、フィニッシュのボーナスタイムで、最終的な個人総合順位に入れ替わりが生じた。中間スプリントで3秒獲得し、メイン集団の先頭でフィニッシュした松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)が個人総合2位にジャンプアップを叶えた。



激戦となった各賞のリーダーたち。アールと山本大喜(キナンレーシングチーム)はジャージを守り、カバナと山田拓海(エカーズ)は最終ステージの健闘でジャージを手に入れた

この日ステージ優勝したカバナが、ポイント賞を獲得。U23首位のヤングライダー賞では、先頭集団で最後まで残った山田が首位となった。山岳賞は山本大喜に確定し、チーム総合はマトリックスパワータグが受賞した。

3年ぶりの開催となったツール・ド・熊野だったが、最後の最後までリーダージャージも決まらず、目の離せない展開が続き、開催を待ちわびたサイクルロードレースファンたちは、観戦をおおいに楽しんだようだ。地域の方々を中心とした多くのボランティアスタッフも、誇りを持って大会の開催を支えてくれた。



上位3名の表彰式。皆が笑顔を見せた

最終ステージに優勝を決めたライアン・カバナは、地域密着型チームであるヴィクトワール広島にUCIレースの勝利をもたらした。「第3ステージをターゲットとしていたので、優勝した上にグリーンジャージも獲得出来て本当に嬉しい」と喜びを語った。そして、チームや応援してくれた方への深い感謝を述べた。



個人総合優勝を果たしたネイサン・アールは表彰台で感謝を語った

個人総合優勝を果たしたネイサン・アールは「良い天気と素晴らしいロケーションでとても充実して走ることが出来た3日間だった」と感慨深くレースを振り返り、「チームに感謝すると共に、このレースで優勝出来て本当に光栄」と、思いを語った。2週連続で開催されたUCIステージレースのツアー・オブ・ジャパンとツール・ド・熊野が幕を下ろした。ネイサン・アールが2連勝を果たし、チーム右京が2戦を制する形となった。
新型コロナウィルスの感染拡大がいったん落ち着き、迎えた外国人選手の活躍が目立ったが、6月は、全日本選手権の開催が控えている。日本人選手間の戦いにも注目したい。

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【結果】ツール・ド・熊野2022第3ステージ(104.3km) 
1位/ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)2時間33分2秒
2位/フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)+0秒
3位/中井唯晶(シマノレーシング)
4位/門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)
5位/山田拓海(エカーズ)

【個人総合時間賞(イエロージャージ)】
ネイサン・アール(チーム右京)7時間43分9秒

【ポイント賞(グリーンジャージ)】
ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)30pts

【山岳賞(レッド[赤ドット]ジャージ)】
山本大喜(キナンレーシングチーム)20pts

【ヤングライダー賞(ホワイトジャージ)】
山田拓海(エカーズ)7時間45分43秒

【チーム総合】
マトリックスパワータグ 23時間9分45秒

画像:©︎TOUR de KUMANO 2022