3年ぶりの開催となるカナダGPは、角田裕毅にとって初めての体験となる。 しかし今や角田にとって、"初挑戦"が高いハードルになることはない。昨年多くのサーキットでそれを経験し、うまく対処する方法はすでに身に着けている。「去年はほとんどのサー…

 3年ぶりの開催となるカナダGPは、角田裕毅にとって初めての体験となる。

 しかし今や角田にとって、"初挑戦"が高いハードルになることはない。昨年多くのサーキットでそれを経験し、うまく対処する方法はすでに身に着けている。

「去年はほとんどのサーキットが僕にとっては初体験でしたけど、今年はマイアミに続いてここで2回目ですね。マイアミはうまく走ることができましたし、今週末も同じようにアプローチするつもりです。

 ステップバイステップで徐々にペースを上げていきながら、自信をビルドアップしていきます。そうやって最終的にはポイントが獲れればと思っています」



角田裕毅は最後尾グリッドから一発逆転を狙う

 カナダGPの舞台となるジル・ビルヌーブ・サーキットは、モントリオール万博の会場として整備された人工島の公園周遊路を使った公道サーキット。長短5本のストレートをシケインやヘアピンでつないだシンプルなレイアウトであり、モナコやバクーで好走を見せたアルファタウリにとっては再び期待の持てるサーキットとなっている。

 前戦バクーで角田は、リアウイングのフラップ破損でピットインを余儀なくされ後退するまで6位を走っていた。僚友ピエール・ガスリーとはややペース差があり、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)に追いかけられる展開となっていたが、それもリアフラップ破損の影響だったことがわかった。

「20周目あたりからマシンバランスが少し変だったり、リアが滑ったり、マシンの挙動が違ったかなと感じていました。実際にウイングが壊れたのは、そのあたりだったと思います。

 20周目あたりまでは前のピエールについていくことができていたのに、少しペースが遅くなって、マシン挙動の違和感は感じていました。(パフォーマンスが高くポイント獲得可能性が高い)大切なレースだったので、ちょっと厳しい妥協を強いられることになりました」(角田)

市販車のフルブレーキと同じG

 カナダでも前戦と同じく、ロードラッグ仕様のリアウイングが使用される。だが、アルファタウリは素材の変更によってすでに対策を講じ、同じ問題が再発することはないだろうと言う。

 モナコでもバクーでも、角田はマシンのポテンシャルを結果に結びつけることができなかっただけに、今週末はしっかりと結果を手に入れたい。現状のアルファタウリAT03は空力性能でやや後れを取っており、中団グループ最上位を争うことができるチャンスは決して多くないだけに、数少ないチャンスは確実に掴み獲っていかなければならないからだ。

 そんな矢先、FIA(国際自動車連盟)はカナダGPを前に新たな技術規制に乗り出した。2022年型マシンの問題となっているポーパシング現象、またはバウンシング現象を緩和するための対策だ。

 特に、長いストレートを有するうえに路面がバンピーなアゼルバイジャンGPでは、300km/hを越える走行時間が長く、多くのマシンが路面に吸いつけられては底付きして跳ね上がり、再び吸いつけられて底付きして......というのを短い周期で繰り返す「バウンシング現象」に見舞われた。

 高速走行中のマシンには、市販車のフルブレーキと同レベルの0.9〜1.3GほどのGがタテ方向に発生しているため、ドライバーの背中や脊椎、脳神経系に与える影響も懸念されている。アゼルバイジャンGPの週末にはドライバーたちからも対策を求める声が上がり、20人中19人のドライバーがこれに賛同した。

 メルセデスAMGがバウンシングに苦しんでいる様子がフォーカスされるが、アゼルバイジャンGP決勝のデータを見れば、実際にはレッドブルも同等レベルのタテ揺れが発生しており、ハースやフェラーリ、アストンマーティン等はそれ以上の激しいGを受けている。

「対策として最も簡単なのは車高を上げることだし、どんな車高でマシンを走らせるかはチームの自由だ。F1チームは安全でないマシンを走らせるようなことはするべきではない。

 問題を抱えているマシンもあれば、問題がそれほど大きくないマシンもある。であれば、設計目標を少し外してしまったチームのために(ポーパシングが出ないマシンを作った)いい仕事をしたチームにペナルティとなるようなことをするのはフェアではないだろう」

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はそう語る。

勢力図はそれほど変わらない?

 だが、ドライバーは身体の負担が大きくとも、速いマシンセットアップのほうを選ぶ。アルファタウリのガスリーはそう言って、FIAが何らかの対策をしなければ30歳を迎える頃には杖をついて歩かなければならなくなるかも知れないと警鐘を鳴らした。

 角田はそれも理解できるとしながらも、自分は気にしていないと語る。

「ポーパシングに関してウチのマシンはそんなに悪くないですが、バクーではポーパシングがかなりひどくて僕らのクルマでも厳しいくらいだったので、彼が言っているのはそういうことかもしれません。

 僕としてはポーパシング対策よりもパフォーマンスのほうを優先したいですし、マシンがひどくバウンシングしてでも、それで4位になれるのならそっちを取ります。もちろんいいことではないですけど、僕はもう十分成長していますし(苦笑)、自分の背中のことはそんなに心配はしていませんね」

 FIAは金曜の走行データをチェックし、マシンにかかるタテGの許容範囲を策定。これを超えるポーパシング(バウンシング)が発生しているマシンは、車高を上げるなどの対策を執って是正しなければならなくなる。つまり、空力性能面で妥協を強いられることになる。

 しかし、勢力図にはそれほど変わらないだろうと角田は予想する。

「勢力図にはそんなに大きな変化はないんじゃないかと思っています。僕らにとって不利ではなく有利になってくれればと思いますけど、実際に走ってみないとわからないですね」

 第2戦サウジアラビアGPで立て続けにパワーユニットトラブルに見舞われていた角田は、ここで今季4基目のコンポーネントを投入して、最後尾グリッドからのスタートを義務づけられることになった。好パフォーマンスが期待できるサーキットだけにチームのこの判断は残念だが、荒れるレースが多いカナダだけにそこに賭けようという狙いもあるのだろう。

 今週末のモントリオールは雨絡みの予報で、すでに木曜から激しい雷雨に見舞われている。未知の要素も多いなかで角田とアルファタウリがどんな戦いを見せてくれるのか、期待したい。