耐えた先に勝機あり──。これが、若き日本代表が5月21日に迎える南アフリカとの初戦のポイントだろう。我慢比べに勝てるかどうか。たとえ前半、多少押し込まれたとしても、それは日本にとって悪い展開というわけではない。ホンジュラス戦では後半投…

 耐えた先に勝機あり──。これが、若き日本代表が5月21日に迎える南アフリカとの初戦のポイントだろう。我慢比べに勝てるかどうか。たとえ前半、多少押し込まれたとしても、それは日本にとって悪い展開というわけではない。



ホンジュラス戦では後半投入でチームを活性化させた市丸瑞希 U-20ワールドカップが5月20日に韓国で開幕する。この大会に10年ぶりに出場するU-20日本代表の戦いは、翌日に水原(スウォン)でその幕が切って落とされる。

 南アフリカとの初戦でピッチに立つ顔ぶれは、5月15日に行なわれたホンジュラスとの親善試合におけるスタメンがベースになると見ていいだろう。

 GK:小島亨介(早稲田大)/DF:初瀬亮(ガンバ大阪)、冨安健洋(アビスパ福岡)、中山雄太(柏レイソル)、舩木翔(セレッソ大阪)/MF:坂井大将(大分トリニータ)、原輝綺(アルビレックス新潟)、堂安律(G大阪)、三好康児(川崎フロンターレ)/FW:岩崎悠人(京都サンガ)、小川航基(ジュビロ磐田)。

 ホンジュラス戦では、原に代わってMF市丸瑞希(G大阪)がボランチに入った後半にボールの回りが滑らかになり、チームパフォーマンスが向上した。指揮を執る内山篤監督が「彼のよさは修正が効くところ」と語ったように、市丸は後半に入ってギアを上げたいシチュエーションで投入したい。

 やはり試合の入りは、守備力に定評のある原のほうが適任だろう。その点で、同じく守備力があり、高さとパスセンスも備えるDF板倉滉(川崎F)のスタメン起用も選択肢のひとつ。いずれにしても前半は、守備を重視して臨みたい。

 そう考えるのは、南アフリカのチームとしての性質を考えてのことだ。

 南アフリカはアフリカ予選4位とはいえ、予選で強豪のカメルーンを3-0で破り、準決勝では延長の末に敗れたものの優勝したザンビアと互角の勝負を演じるなど、なかなかの強敵だ。

 なかでも、予選におけるチーム得点王で右ウイングのルーザー・シン(ブラガ/ポルトガル)と、同じくポルトガルでプレーする長身ストライカーのリアム・ジョーダン(スポルティング/ポルトガル)は、もっとも警戒すべき選手たちだ。スピーディかつ迫力のある攻撃が持ち味で、おそらく日本戦でも開始直後から仕掛けてくる。

 その一方、個人の能力に頼りがちで、チームとしてムラッ気があるのもたしか。南アフリカの攻撃に耐えながら、相手に焦りが生じ始める後半に勝負をかけたい。

 こうしたゲームプランを可能とさせるのは、膠着したゲームを動かせる武器が日本にあるからだ。

 そのひとつが、セットプレーだ。キャプテンでメインキッカーの坂井をはじめ、三好、堂安、MF遠藤渓太(横浜F・マリノス)、市丸、FW久保建英(FC東京U-18)と、バラエティ豊かなキッカーが揃っている。前述のホンジュラス戦で奪った3ゴールも、いずれもプレースキックからだった。

 その試合で3点目のゴールをコーナーキックからアシストした遠藤は「代表合宿では(セットプレーのキックの)練習をさせてもらっているし、練習した選手しか蹴る権利はないと思うので、チャンスがあれば直接フリーキックも狙いたい」と意気込んでいる。

 もうひとつが、ゲームの流れを一気に引き寄せられるスーパーサブの存在だ。

 ホンジュラス戦の61分から出場して相手を何度もぶっちぎった遠藤、センスのある配球で攻撃を組み立て、同じくG大阪の堂安や初瀬の近くでプレーすれば威力倍増の市丸、ドリブル、スルーパス、フィニッシュと攻撃のセンスは抜群で、年上の選手たちからすでに一目置かれている15歳の久保。内山監督の手もとには、ゲームの途中で切るのにふさわしい豊富な手札が揃っている。

 それらをいつ、どのタイミングで切るのか──。耐えた先の勝機を手繰り寄せる采配が、大きなポイントになるはずだ。

 世界大会の初戦がアフリカ勢といって印象深いのは、1999年のナイジェリア・ワールドユースと2010年の南アフリカ・ワールドカップだ。いずれも、初戦の相手はカメルーンだった。

 小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)や高原直泰(沖縄SV)、遠藤保仁(G大阪)といった「黄金世代」が準優勝の快挙を遂げた1999年のワールドユースでは、実は初戦に1-2で敗れて黒星スタートだった。しかし、カメルーンよりも力の劣るアメリカ、イングランドに連勝してグループステージを突破し、決勝まで駆け上がった。

 もっとも、中2~3日の試合間隔で進行していく国際大会では、初戦で負ったダメージを回復させるのは難しく、黄金世代が見せた快進撃はまれなケースだ。

 再現すべきは、南アフリカ・ワールドカップのケースだろう。カメルーンの攻撃に耐えながらワンチャンスを逃さずに本田圭佑(ACミラン)がゴールを奪い、焦るカメルーンの強引な攻撃をしのいで勝ち点3をもぎ取った。この勝利で団結力が増し、勢いづいたチームはデンマークとの3戦目に完勝し、決勝トーナメント進出を決めたのだ。

 今回のグループステージの相手を見れば、2戦目のウルグアイは南米予選を1位で通過し、優勝候補の一角にも挙げられる強豪だ。3戦目の相手であるイタリアは欧州予選を2位で突破。その立役者であるFWフェデリコ・キエーザ(フィオレンティーナ)やMFマヌエル・ロカテッリ(ACミラン)ら一部の主力を今大会では欠くものの、上位進出が予想されている。

 その2チームと比べれば、南アフリカの力が劣るのはたしかだ。初戦でなんとしても勝ち点3を掴んで勢いに乗り、ウルグアイかイタリアからも勝ち点をもぎ取りたい。

 今回のU-20日本代表は、昨年10月に行なわれたU-19アジア選手権で10年ぶりに世界への扉をこじ開けただけでなく、初優勝を成し遂げた。この大会でMVPに輝いた堂安は「案外リラックスしている。楽しみだなって感じで」と、目の前に迫る開幕を心待ちにしている。アジアで見せた勝負強さを、ワールドカップでも発揮したい。