いつも大荒れの展開となるアゼルバイジャンGPは今年、6度目の開催にして初めて赤旗中断やセーフティカー出動といった混乱のないレースとなった。 9周目でカルロス・サインツ(フェラーリ)がハイドロ系トラブルでリタイアを余儀なくされると、それによ…

 いつも大荒れの展開となるアゼルバイジャンGPは今年、6度目の開催にして初めて赤旗中断やセーフティカー出動といった混乱のないレースとなった。

 9周目でカルロス・サインツ(フェラーリ)がハイドロ系トラブルでリタイアを余儀なくされると、それによって出されたVSC(バーチャルセーフティカー)を利用してシャルル・ルクレール(フェラーリ)がピットイン。ここでステイアウトしたレッドブル勢が16周目と18周目にピットインする時には、ルクレールがアンダーカットに成功して13秒差をつけてトップに立った。

 しかしその直後、無情のエンジンブロー。ルクレールは3戦連続でポールポジションから勝てたはずのレースを失うことになった。それも自責は一切なしで、だ。



フェラーリとレッドブルのトップ争いはまたもトラブルで決着

「ガッカリな結果になってしまったよ。VSCでピットインしたのは正しい決断だったと思うし、そこから首位に立ってタイヤマネージメントに集中して戦おうとしていたところだった。こうした問題を克服して、次戦にはもっと強くなって戻って来なければならない」(ルクレール)

 まったくの予兆なく壊れたことについて、マティア・ビノット代表は「白煙を見てのとおりエンジン関係だが、まだ原因は不明。これからマラネロに戻って分解し詳しく調査する必要がある」とだけ述べた。

 第6戦スペインGPで壊れたターボとは異なり、今回はICE(エンジン本体)。第5戦マイアミGPで2基目を投入し、エンジン負荷の小さいモナコ(第7戦)は古いコンポーネントを使っていたと考えれば、わずか3戦目でのブロー。それだけにチームとしても、まさに青天の霹靂だろう。

 1基目のエンジンがすでに4戦以上走破していることを考えれば、ワンオフの問題か、もしくはバウンシング現象による振動の影響も考えられる。

 VSC中にピットストップしたルクレールに対し、マックス・フェルスタッペンは第1スティントを19周目まで引っ張り、13秒後方でコースに復帰。ルクレールよりも10周フレッシュなタイヤでどこまで追走できるか? そんな興味のそそる状況で、フェルスタッペンは0.5秒ほど速いペースで追いかけ始めた。

 そんな矢先のルクレールのリタイアだった。

ペレスも優勝を譲る結果に...

 残り30周でルクレール対フェルスタッペンの優勝争いがどうなっていたのか? 両者ともにペースを維持して激しいバトルを展開したのか、それともリアタイヤのオーバーヒートによってグリップ低下に見舞われていたのか。33周目のVSCがあれば2台ともにピットインしていたのか、どちらかがステイアウトして昨年最終戦のような争いになっていたのか......。

 それは、誰にもわからないまま終わってしまった。

「ミディアムのデグラデーション(性能低下)が小さかったから、ステイアウトして引っ張り、リードを奪うことができた。ピットアウトした時点では13秒差と言われたし、大きなギャップだったけど、ハードタイヤに換えたあとも僕には少しアドバンテージがあったから、ギャップを縮めていった。

 あの後のチャールズ(ルクレール)との争いは、とても面白い戦いになっていたはずだよ。相手のリタイアという幸運も少しあったけど、それがなくても僕らのクルマはものすごく速かったしギャップを縮めていたし、レースの主導権は僕らにあったと思う」(フェルスタッペン)

 スタートで首位に立ったセルジオ・ペレスは序盤をリードしたが、ミディアムのリアタイヤにグレイニング(タイヤのささくれ摩耗)が発生してペース低下。1周1秒速いフェルスタッペンに対して、レース前の取り決めどおり「戦うな」と指示され、首位を譲った。しかしこの時点では、ルクレールがリタイアし、これが優勝を譲る結果になるとは、ペレスも思っていなかっただろう。

 ルクレールと同様に9周目のVSCでピットインすることを望んでいたペレスだが、コミュニケーションのわずかな遅れでピットインできず。これもレッドブル同士の優勝争いができない原因になってしまった。

 もしペレスがルクレール同様に9周目でピットインを済ませていれば、ルクレールがリタイアしたとしても「逃げるペレス対追うフェルスタッペン」という戦いが展開されていただろう。そういう場面になれば、ペレスもそう簡単に首位を明け渡すことはしなかったはずだ。

3戦で最大80ポイントの損失

 いずれにしても、ルクレールはこれでトラブルにより2戦を失った。ドライバーズ選手権では首位フェルスタッペンの150点に対し、ルクレールは116点。ついにペレスに抜かれて、ランキング3位に後退してしまった。

「シーズン序盤には僕らにもいくつか不運があったし、それを挽回するために必死に戦わなければならなかった。でも、ここに来て不運はイーブンになったと思う。あとは選手権争いをするために、すべてのレースでポイントを獲っていくことが重要だ。もちろん誰だってそんなことはわかっているけど、そう簡単なことではないということさ」(フェルスタッペン)

 ルクレールもフェルスタッペンも、それぞれトラブルで2戦ずつ落としている。とはいえ、フェルスタッペンがリタイアしたのはいずれもルクレールの後方2位走行中。それに対し、ルクレールがリタイアしたのはいずれも首位走行中。自身の25点を失っただけでなく、さらに相手に7点を献上するリタイアだった(優勝25点、2位18点)。

 そしてモナコでは、チームの戦略ミスで勝利を逃して4位12点に終わっている。この3戦だけでもルクレールは、フェルスタッペンに対して最大で80点も失っていることになる。



フェルスタッペンは今季8戦中5勝をマーク

 フェルスタッペンは目の前の結果だけに満足せず、レッドブルがまだ完全な強さを手にしているわけではないと語る。

「予選で僕らはフェラーリほどの速さがない。それが決勝での助けになっているかも知れないけど、それは誰にもわからないからね。マシンのフィーリングだけでなく、自身の予選パフォーマンスももっと引き上げなければいけないと思っている。決勝でのフィーリングが常に良好であることは確かだけど、予選パフォーマンスにはまだまだ改善すべき点がある」

 予選では、依然としてフェラーリが最速。しかし、決勝では両者互角の速さがあり、戦略と信頼性でこの差がついてしまっている。

 開幕から2戦続けて「ルクレール対フェルスタッペン」の激しい優勝争いが繰り広げられた。ただ、それ以降はいずれかの自滅によって呆気ないレースが続いている。

 シーズンはすでに3分の1を過ぎようとしている。そろそろ再び、全員が全力を尽くし合った最高の優勝争いが見たい。