前週は惜しくも1打差2位…4月に交通事故、左手の指にしびれを抱えながらプレー 国内女子ゴルフツアーの宮里藍サントリーレディス(兵庫・六甲国際GC)は12日、20歳・山下美夢有(加賀電子)のツアー3勝目で幕を閉じた。単独首位から出た36歳の藤…

前週は惜しくも1打差2位…4月に交通事故、左手の指にしびれを抱えながらプレー

 国内女子ゴルフツアーの宮里藍サントリーレディス(兵庫・六甲国際GC)は12日、20歳・山下美夢有(加賀電子)のツアー3勝目で幕を閉じた。単独首位から出た36歳の藤田さいき(チェリーゴルフ)は、1打及ばず2位。だが、苦しい状況でも下を向かず、果敢に攻めるプレースタイルは観衆や視聴者の心を掴んだ。ツアー優勝は2011年10月の富士通レディースから遠ざかっているが、周囲には「また、勝ちたい」と話している。そして、思いをかなえるために過酷なトレーニングと練習を重ねてきた。その一端を13日、身近な関係者が明かした。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

 激闘を終えた藤田は、北海道で病気療養中の父・健氏に連絡をしている。「悔しい」。藤田に14歳からゴルフを教えてきた健氏は、その言葉でさらなる可能性を感じたという。

「今回は体が動かない疲れと緊張感があったようです。ただ、『悔しい』という気持ちがある以上は、まだ第一線でプレーできると思います。さいきは、それだけのトレーニングと練習をしてきていますから」

 実は、藤田は左手の指にしびれを抱えていた。富士フイルム・スタジオアリス女子オープン初日の4月8日早朝、片側一車線の道路で夫が運転する車と、対向車線から来た居眠り運転の車が衝突。それが原因だった。

 瞬時にハンドルを切ったことで、夫も藤田も大けがには至らなかったが、藤田は体の左側に痛みがあるまま当日も出場。通院やトレーナー、夫によるマッサージで腕や足の痛みは取れてきたが、小指、中指、人差し指のしびれは残ったままだった。

 それでも、藤田は優勝を狙って戦い抜いた。飛距離は時に同組の稲見萌寧、尾関彩美悠を上回り、ラフからでもロングアイアンでスピンを効かせるショットを披露。観客を驚かせた。その場面も見ていた藤田の所属先、チェリーゴルフの南野剛之社長は証言した。

「今年2月、私たちが目の前で見た過酷なトレーニングと練習の成果がこういったところに出ていると感じました」

スマホの灯で打ち続けた日暮れのバンカー練習「入るまで」

 場所は熊本・ザ・マスターズ天草コース。藤田は、元埼玉西武ライオンズの元トレーナー黒岩祐次氏の指導で、腰にベルトを付けた坂道ダッシュ、補助器具を使った手押し車などをひたすら繰り返したという。元PL学園高野球部の南野氏も同じメニューを消化しようとしたが、「肺が潰れるかと思うぐらい、苦しくてハードな内容でした」と振り返る。

 練習ラウンドでは、1つのショットに納得がいかず、藤田がその場で長時間打ち続けたことがあるという。

「もう、お客さんも帰られた時間帯でしたが、藤田さんがラウンドを中断して40ヤードのバンカーショットを打ち始めました。私はずっと球出しをしていましたが、日が暮れて、最後は手元で照らすスマホの灯だけが頼りでした。旦那さんが、『こうなったらカップインさせよう』と言って、藤田さんも『分かった~』と。結局、開始から3時間半が経った時にグリーン上で『コロン』という音が鳴って、練習は終わりました」

 全ては優勝するための執念だった。藤田はそれ以前から、南野氏らを前に「また、優勝したいです。どうしても」と話していたという。その“本気”は、クラブメーカー、マネジメントら他のサポートメンバーも突き動かしている。

 そして、藤田は今季2位3度の好成績。今大会は1打差で「あと一歩」だったが、悲観はなく「まだ6月ですから」と言った。アクシデントがあっても、藤田には「やれる限りをやってきた」という自負がある。だからこそ前を向き、17日開幕の次戦ニチレイレディス(袖ヶ浦CC新袖C)でも、勝利を目指す。ひたすらに。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)