アゼルバイジャンGPはアルファタウリと角田裕毅にとって、シーズンのなかで最も期待値の高いレースのひとつだ。 昨年はピエール・ガスリーが波乱のレースで3位表彰台を獲得したのもさることながら、予選でも4位に入る実力があった。角田もトウがうまく…

 アゼルバイジャンGPはアルファタウリと角田裕毅にとって、シーズンのなかで最も期待値の高いレースのひとつだ。

 昨年はピエール・ガスリーが波乱のレースで3位表彰台を獲得したのもさることながら、予選でも4位に入る実力があった。角田もトウがうまく使えずクラッシュを喫したにもかかわらず予選8位。決勝でも最後のリスタートまでは6位を維持していた(結果7位)。



好調の角田裕毅はバクーで入賞を狙っている

 AT03はまだ空力性能不足、つまりダウンフォース不足という課題を抱えている。しかしながら、メカニカル性能は優れていて、低速域では速さを見せる。

 前戦モナコGPではコースインのタイミングを誤って予選結果が後方に沈み、決勝でも戦略のまずさもあって浮上できなかった。だが、FP3でガスリーが5番手タイムを記録していたことからもわかるとおり、AT03はモナコで高いポテンシャルを示していた。

 アゼルバイジャンGPの舞台バクー・シティ・サーキットは、モナコとはやや特性の異なるレイアウトだ。とはいえ、すべてのコーナーが85〜115km/hの中低速90度コーナーで、それらをつなぐ2本の長いストレートでもAT03は速さを見せるはずだ。

 角田は今週末のアゼルバイジャンGPに大きな期待を持って臨んでいる。

「去年のようなクレイジーなレースもいいですけど、あまりそういう展開は期待していません。去年のパフォーマンスからすると、バクーではほかのレースよりも自信を持って臨むことができています。去年のベストパフォーマンスのひとつでしたから。

 ピエール(ガスリー)が3位で、僕が7位。去年のあの時点では、F1に来てからベストの結果でした。今年はモナコも悪くなかったですし、FP1からFP3にかけて安定してパフォーマンスを上げていけたと思います。今回もいいパフォーマンスを発揮して、2台揃ってポイントが獲れればと思っています」

アルファタウリが速い理由

 現場エンジニアリング責任者のジョナサン・エドルスは、モナコのようなサーキットでAT03が好走を見せる理由を次のように説明する。

「バルセロナでは高温のコンディションもあって、高速コーナーでマシンがスライドしすぎてタイヤがオーバーヒートし、グリップを得られないでいた。それを根本的に解決するためには、コーナリングスピードを遅くするか、ダウンフォースを増やすしかない。

 しかしモナコは低速だから、空力の重要性は通常よりも低く、メカニカル面が優れていればカバーできる。高速コーナーは少ないため、タイヤのスライド量は少なく、タイヤの状態をマネージメントすることができたんだ」

 バクーはストレートが長いため、どのマシンもモナコとは逆にダウンフォースを削ることになる。しかしモナコで速かった理由を考えれば、今週末のバクーでもAT03は中団上位を争う速さを見せるはずだとエドルスは語る。

「モナコでのパフォーマンスのよさは、非常にポジティブな要素だったと考えている。間違いなく中団上位を争えるだけの速さがあった。低速のモナコでのパフォーマンスを見れば、バクー、カナダと市街地サーキットがさらに2戦続くなかで、いいパフォーマンスが発揮できると楽しみにしている。

 実際にはダウンフォースレベルが大幅に異なるため、モナコとはまた少し異なる。だが、両方とも市街地サーキットで低速コーナーが多く、我々としてはその点で自信を持って臨むことができるね」

 バクーのコースは世界遺産にもなっている旧市街地の周りを走る、狭くてタイトなセクションもある。だが、非常に長い2本のストレートにそれぞれDRS(※)が設定されているため、従来からオーバーテイクは容易なサーキットと言えた。低速コーナーが多く、前走車の乱流の影響もそれほど受けることなく、前とのギャップを詰めたままコーナーを抜けることができたからだ。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

ペレス契約延長どう思った?

 2022年型マシンはそのフォロー性能が向上し、さらにバトルとオーバーテイクが増えることが予想される。

「建物の間を縫って走るセクター2に関して、マシンの大きさはそんなに気にしていません。今年のマシンは(脚回りが硬いので)バンプや縁石の乗り越えやブレーキングがかなり難しいだろうと思います。

 僕がそれよりも気になっているのは、オーバーテイクが可能かどうかですね。特にすべてのコーナーが低速で前走車をフォローしやすいバクーのようなサーキットでは、オーバーテイクがかなりできると思うので、レースをするのが楽しみですね」(角田)

 モナコGPの直後には、レッドブルがセルジオ・ペレスとの契約を2024年まで延長した。レッドブル昇格を目指すレッドブルドライバーたちにとっては、心穏やかとは言えない日々を過ごしているだろう。

 角田にとっても朗報とは言えないペレスの契約延長だが、今はそのことにはそれほど気を取られてはいないと言う。

「僕は特に気にしていません。もちろんチェコ(ペレスの愛称)が契約を延長したというのは、レッドブルドライバーの僕にとって歓迎すべきことではありませんけど、彼はそれに値する働きをしていると思いますし、僕も自分のやるべき仕事に集中しています。

 正直に言ってF2に参戦しているレッドブルドライバーたちのほうが大きなプレッシャーを感じているでしょう。僕はF2ドライバーたちと比べてもいいパフォーマンスを発揮できているので、そんなにプレッシャーは感じていません」

 角田はAT03の開発を進めていくという「この大きなプロジェクトを楽しんでいる」と言う。チーム一丸となってマシンを開発する。それを円滑かつ迅速に進めるために自分も最大限のフィードバックをする。これは、開幕前テストの時から角田が言っていたことだ。

角田はアルファタウリに満足

 角田は語る。

「僕は今のところアルファタウリで走ることに満足していますし、一緒に働いているこのチームの人たちのことも好きです。みんなとコミュニケーションを深めてチームに慣れてきていますし、とてもフレンドリーです。

 チーム全員が同じ方向を見てマシン開発を進め、僕もその状況を楽しんでいます。ですから、アルファタウリにいることに満足していますし、他チームのことなんて考えてすらいません。レッドブルのことも含めてです」

 AT03はまだまだ改善の必要がある。ここから続くフライアウェイ2連戦ではアップデートも入らないが、もともと持ち合わせているメカニカル性能を最大限に生かして戦う。

 コース上で好結果を追求しつつ、これから投入されるアップグレードに向けてマシンをいかに改善すべきか、データと感触をフィードバックしていく。アゼルバイジャンGPではその両方が大きく期待できる週末になりそうだ。