山田(左)は東京五輪の際、背負うものの大きさに潰されそうにもなったという。

 日本女子スポーツ界を牽引する二人のスター。2018年の平昌五輪で日本女子スピードスケート史上初の金メダルを獲得した小平奈緒と、2008年の北京五輪と2021年の東京五輪で金メダルを獲得した山田恵里の豪華対談が実現した。世界の頂点を極めたアスリートたちは、その競技人生でいかなる価値観に触れ、どんな考え方を育んできたのか。計3回に渡ってお届けするインタビューの第2回では、プレッシャーとの付き合い方について語り合った。

【動画】【小平奈緒×山田恵里金メダリスト対談②】プレッシャーは背負うのではなく抱えるもの!金メダリストの五輪に臨むメンタルとは

――山田選手は以前、東京オリンピックのときに「怖さ」があったと言っていましたね。

山田 24歳の時の北京オリンピックは、怖いものは何もなく、守るも何もなく、ただソフトボールが楽しくて試合をしていました。だけど、そこから13年経って東京オリンピックでソフトボールが復活したときには、背負うものの大きさに押しつぶされそうになりました。やっぱり金メダルを獲って当たり前という状況や、自分の置かれている立場が上になったこともあって、求められるものが増えた。今まではそれを生きがいと思ってやっていたんですけど、いざ東京オリンピックってなったときに……。

結果を意識すると結果が出ないというのは、それまで経験してきたんですけど、そういうふうに先を見てしまう自分が少なからずいましたし、オリンピックに入ったら楽しめるだろうって思っていたんですが、全然楽しくなくて……。本当にプレッシャーで体重が毎日落ちていき、打球も飛ばなくなり、エラーもして、全然いいことなかったんです。でも、最終的には今までやってきた自分を信じることで、道は開けたなと思いました。それから怖さは消えて、最後の方はまったくなかったです。

――小平選手はプレッシャーを重荷に感じた時期はありましたか?また、そうしたプレッシャーへの対処方法はありましたか?

小平 チームスポーツと個人スポーツの違いだとは思うんですけど、山田さんの場合はキャプテンという立場もあったんだと思います。個人での結果を残さなければならない一方、周りも見なくてはいけないっていう状況。しかも、それまでの経験を通して、周りが見え過ぎてしまうところがあったと思います。それがチームスポーツの難しさなのかなって、今の話を聞いて思いました。

私の場合は個人競技なので、乗り越えてきたものを、そのまま自分の力に変えられるのが、すごく幸せだなって感じています。すべて自分の責任でしかないので、うまくいってもいかなくても、強くても弱くても、すべてを受け入れることができる。そういう強さは年々育ってきたのかなと。やっぱり20代前半の頃は、結果への欲が強すぎて自分を苦しめていたり、負けることにすごく怖さを感じていたりしたんですけど、レースを重ねて自分が強くなっていく過程で考え方も変わっていきました。一緒に競い合っている仲間たちの頑張りなどイメージすると、それを認められる自分がいなくちゃいけないなって思うと同時に、私もまた頑張ろうっていう気持ちももらえるんです。そういった意味でも、弱い自分を真正面からしっかりと見ることが、その怖さを克服する手法だったのかなって思います。

――プレッシャーへの対処法は、スポーツだけでなく、一般社会でも求められていることです。自身の経験をもとに、読者にアドバイスできることがあるとしたら?

山田 結局プレッシャーから逃れることはできないし、誰もがそのプレッシャーを経験できるわけでもない。自分にしかできないものだから、それを自分のものにして、生きがいにしていくしかないのかなと思います。実際、年齢を重ねるごとに背負うものも大きくなったのは感じましたが、自分が何を背負っていたとしても、みんなで結果を出すための雰囲気づくりをしなければいけないのは変わらない。おそらく会社とも共通する部分はあると思うんです。みんながどう働きやすくするかと、自分が結果を出すことを同一線上で考えてしまうと、自分の結果が出なくなることもあるんじゃないかと。私の場合は、人は人、自分は自分だと分けて考えることでチームの問題が自分の結果に変に影響することもなくなりました。だから、自分の結果とは別のところで、みんながやりやすい雰囲気を作ってあげた方が、チーム=会社として結果が出やすいのかなと。それがプレッシャーを克服したり、スランプに陥らないようにするために必要なことかなと思います。

――小平選手はいかがでしょう?

小平 自分の問題と周りの問題で分けるっていう山田さんの考え方は、本当に私も共感できます。漠然としたプレッシャーは重荷になるから、チームと自分で分けて考えるのはすごくいいなって。私は、プレッシャーは背負うものではなくて、抱いていくもの、という考え方があるんです。何となく襲ってくる怖さも、やっぱり一つ一つの課題だったり、目的だったり、置かれている自分の状況だったりを、前に抱えて整理して見ていくと道が開ける。そうすると、プレッシャーは逆にいい刺激になって、そこに集中力を注ぐためのエネルギーに変わると思うので、そういった意味で物事を分けて考えるっていう考え方すごく大切だなって思いました。

――プレッシャーは背負うものではなく抱くもの?

小平 プレッシャーは、突き付けられていると感じるのではなく、自分のコントロール下にあった方がエネルギーに変わりますよね。感覚的なものなのかもしれないですけど、言葉の一つの表現としていつもそういう言葉を使っています。

山田 何かすごいですよね。言葉が私に刺さりまくってます。少し北京五輪のことについて聞いてもいいですか?スタートラインに立ったときに、怪我をしているなかで何を考えていました?

小平 あのときは本当に足が痛くて、スタートの構えができない状況でした。それでも、あの舞台のスタートラインに立たなきゃいけないことに対して、心の中ですごい葛藤がありましたね。ただ、自分でコントロールできないことを考えても仕方がないので、今自分にできることを粛々とやるという心境で、もう腹をくくっていました。

本当に北京五輪のちょうど1ヶ月前に怪我をしたんですけど、怪我をした直後から、何事もなかったかのようにスタートラインに着くにはどうすればいいか、というのをずっと考えていて。工夫して右足を後ろ足にしなければスタートできるかなとか、いろいろ考えたんですけど、やっぱり無理なものは無理なんだなっていう(笑)。だから、いい意味で諦めていた気持ちもありますし、その諦めきれない自分と戦うっていう心境でもありました。

怪我した当日は時間が止まっていましたね。『本当に起こったことなのかな?』みたいな感じで。それから児玉コーチと話しているうちに、北京オリンピックの500メートルまであと何日っていうカウントダウンがすぐに始まったので、コーチが道しるべを示してくれた感じでした。もうそこに向かうしかないという気持ちになれたので、そういった面では、自分だけで困難を乗り越えたっていうよりは、コーチがいたから乗り越えられたっていうところはあるのかなと思っています。

オリンピックという舞台でああいう経験ってあんまりないと思うんですけど、それをやっぱりこの後に生かさないと、ただの結果が出なかったオリンピックになっちゃうなと思ったし、同じ状況でスポーツを頑張っている子供たちだったり、私も病院所属なので入院生活で心が折れそうな患者さんだったりに、何か伝わるものがあるといいなという気持ちでした。今も同じような気持ちで生活しています。

山田 私は東京オリンピックで結果が出なかったら、家族が非難されるって思ったんですよ。そういう考えはありませんでした? 自分が結果を出せないことで、周りの人に迷惑がかかるとか……。まあ、それも勝手に自分で自分にプレッシャーかけているだけだと思うんですけど。

小平 私の家は、正直そんなに熱心じゃないというか(笑)。興味がないわけではないと思うんですけど、例えば高木選手がいい成績を残したら、『あの選手すごかったね』とか、そういう話を全然します。一スポーツファンみたいな感じで見ていてくれるのがいいのかなっていう気はするんですけど。山田さんは、思いやりが強すぎて自分にプレッシャーをかけちゃうんですね。

山田 団体競技ならではなんですかね。やっぱり自分がミスしたら誰かに迷惑かけちゃうみたいなのってあるんです。

小平 私もずっと団体競技をやりたかったので、山田さんたちを観に行ったときは、『チームで勝つってこんなに楽しいんだな』というのを肌で感じ取れました。でも、やっぱり人と関わる分だけ悩むことが多いものなんですね。キャプテンならなおさらだと思うんですけど、やっぱり今日お話ししてすごい勉強になりました。

山田 私の方こそ勉強になりました。言葉は難しいですけど、もっと気楽に生きていいというか、やっぱり自分が一番楽しいって思うことをすべきなんだなと。

小平 そんなに気を使い過ぎちゃうとつらくなっちゃいますよね。私も割とそういうタイプなんですけど、考え方を変えられるようになったというか。先輩に言うのはおこがましいですけど(笑)。

≪第3回に続く≫

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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