日本では15歳の久保建英(FC東京)がルヴァンカップ、コンサドーレ札幌戦でJ1デビューを果たして話題となった。それから10日後、ブラジルでも16歳の”ネイマール2世”が全国リーグでデビューし、世界的な注目を集め…

 日本では15歳の久保建英(FC東京)がルヴァンカップ、コンサドーレ札幌戦でJ1デビューを果たして話題となった。それから10日後、ブラジルでも16歳の”ネイマール2世”が全国リーグでデビューし、世界的な注目を集めている。

 ヴィニシウス・ジュニオール。かつてジーコがプレーしたリオの名門フラメンゴの下部組織出身で、すでに数年前からクラブ関係者の間では「今世紀に発掘された最高のジョイア(宝石)」と評判だった。



アトレチコ・ミネイロ戦でデビューしたヴィニシウス・ジュニオール(フラメンゴ) 右利きだが、主として左サイドに張る。高度なテクニックと驚異的なスピードを駆使してマーカーをいとも簡単に抜き去り、カットインして強烈なシュートを叩き込む。股抜き、ヒールパス、シャペウ(ボールを相手の頭越しに浮かしてかわす”空中ドリブル”)といったトリッキーなプレーも多用するなど、プレースタイルはネイマール(バルセロナ)そっくり。本人も「憧れの選手はネイマール」と語る。

 リオ郊外の貧しい家庭に生まれ、6歳からフットサルでテクニックを磨いた。9歳でフラメンゴのU-11に入り、常に年齢より上のカテゴリーで中心選手として活躍してきた。

 2015年、13歳でブラジルU-15代表に選ばれ、U-15南米選手権に出場して、6試合で6得点をあげた。今年の2月から3月にかけて行なわれたU-17南米選手権では、9試合に出場して7得点。ブラジルを優勝に導き、大会MVPと得点王に輝いている。

 これほどの逸材を欧州メガクラブが放っておくはずがない。バルセロナが移籍金3000万ユーロ(約38億円)を提示したが、宿敵レアル・マドリードが移籍金4500万ユーロ(約57億円)、年俸750万ユーロ(約9億4千万円)をオファーして逆転。今月初め、レアル・マドリードのドクターがリオを訪れてメディカルチェックの結果を確認し、「欧州クラブが外国人選手と契約可能な18歳になる来年7月の時点で移籍することで合意した」と報じられた。

 この時点ではまだトップチームでプレーしていなかったのだが、5月13日、全国リーグ開幕戦のアトレチコ・ミネイロ戦で初めてベンチ入り。後半、ピッチの横でウォーミングアップを始めると、スタンドの観衆が総立ちになった。

 そして82分、ついに交代出場。「ヴィニシウス」コールが起きる中、緊張した表情でピッチへ入ると、いつものように左タッチライン沿いに張る。それからアディショナル・タイムを含む12分間に、計6度のプレー機会があった。

 84分、自陣からのロングパスを受けたが、バウンドを合わせ損ねてトラップを失敗し、ボールはタッチラインを割る。85分、ショートパスを受け、右足でクロスを入れたが、味方の選手の頭の上を越えていく。86分にはサイドチェンジのパスを受けてドリブルで中へ入ると見せかけ、オーバーラップしてきた左SBに右足のヒールで渡そうとしたが、ボールが両足の間に絡まって失敗。

 87分、ゴールを背にしてショートパスを受け、ダイレクトで左足で叩き、これはパス成功。90分には左タッチライン沿いでパスを受けてドリブル突破を試みたが、DFに足を出されてボールはタッチラインを割る。93分、今度は右サイドでボールを受け、またぎフェイントで相手を抜こうとしたが、ボールが足に絡んで奪われた……。

 試合後、本人が「緊張のあまり、焦ってしまった」と打ち明けたように、珍しくミスが多く、得点にからむことはできなかった。しかし、初陣の16歳にこれだけボールが集まったこと自体、チームメイトからの信頼と期待の表れだろう。

 ゼ・リカルド監督も、「今日は、トップチームで第一歩を踏み出したことが重要だった。今後も、適宜チャンスを与える」と語っている。

 ブラジルでは優秀なタレントは10代後半にデビューするのが通例。ネイマールは17歳1カ月で初舞台を踏んだが、ヴィニシウスはさらに3カ月早い。巨大な才能の持ち主であることは、疑いの余地がない。足りないのは、経験とそれに裏打ちされた自信だろう。

 今後、練習からアピールして多くの試合に出場し、今年中にレギュラー・ポジションを奪いたいところ。10月にインドで開催されるU-17ワールドカップではブラジルのエースとして臨み、国際経験を積むはずだ。そして、18歳となる来年7月、おそらくレアル・マドリードへ移籍することになるのだろう。ただし「白い巨人」で常時出場するには、世界トップクラスの名手たちとの競争に打ち勝たなくてはならない。

 目下、ブラジル代表は絶好調だ。2018年W杯南米予選で首位を独走し、4節を残して早々とW杯出場を決めた。それでも国内メディアと国民は満足などしていない。「かつてはセレソンにネイマールクラスの選手が何人もいたが、今は1人しかいない」と嘆き、ネイマールを超えるタレントの出現を待ち望んでいる。その最有力候補がヴィニシウス・ジュニオールなのだ。

 もちろんプロとしてのキャリアは始まったばかり。ここまでは理想的な道をたどってきたが、今後も順調に成長し続けるのか、あるいは困難が待ち受けているのか。「サッカー王国」の熱い期待を背負って、童顔の16歳が走り出す。