国内女子ゴルフツアー前半戦に主催者推薦出場8試合を組む作戦を実行 国内女子ゴルフのリシャール・ミル ヨネックスレディスは5日、稲見萌寧(Rakuten)の今季初優勝で幕を閉じた。同じ最終組の19歳・岩井千怜(Honda)は2打差2位。最終1…

国内女子ゴルフツアー前半戦に主催者推薦出場8試合を組む作戦を実行

 国内女子ゴルフのリシャール・ミル ヨネックスレディスは5日、稲見萌寧(Rakuten)の今季初優勝で幕を閉じた。同じ最終組の19歳・岩井千怜(Honda)は2打差2位。最終18番で約2メートルのパーパットを沈めると、感極まった。優勝には届かなかったが、11番パー4から5連続バーディーを奪うなどし、メルセデス・ランキングの105ポイントをゲット。暫定リランキングは53位から25位に浮上し、中盤戦の出場権をほぼ手中にした。

 双子の姉・明愛も10位に入り、同リランキング26位から18位に。そこに至るまでには、マネジャーの高橋篤史さんによるさまざまな尽力があった。大会から一夜明けた6日、姉妹の父・雄士さんが、舞台裏を語った。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 最終日の18番パー5。高橋さんは祈っていた。「お願いだから入ってくれ」。千怜が下り2メートルのパーパットを沈めると、ホッと胸をなでおろした。

「これで第1回リランキングはクリアできると思います。大きな一打です。千怜プロも明愛プロと一緒にレギュラーツアーに出続けられることが、何ともうれしいですね」

 言葉通り、このパーが大きかった。通算5アンダー、2位タイ(2人)で105ポイント獲得。外していれば、3位タイ(6人)で62ポイントだった。千怜は前週まで6試合出場(予選通過4試合)で通算28.20ポイント。一打の差43ポイントを稼ぎ出すことがどれだけ大変か、本人も周囲も分かっていた。

プロテスト合格も、最終QTは明愛70位&千怜90位

 昨年6月のプロテストに一発合格した岩井姉妹は、同12月のツアー最終予選会(QT)を不本意な結果(明愛70位、千怜90位)で終えた。22年シーズン前半戦の出場が見込まれるのは上位40人程度。2人は落胆し、22年シーズンはステップ・アップ・ツアーが主戦場になることを覚悟した。だが、2日後、高橋さんは姉妹を奮い立たせた。その場に同席した雄士さんは言った。

「高橋さんは、娘たちと私に『既にツアーで主催者推薦出場をもらうための動きを始めています。年間で最大8試合ですが、全て前半戦に組み込んでいきます。ここでメルセデス・ランキングのポイントを稼げれば、リランキングで後半戦への出場に繋がります。だから、今回のQTでは上には行けなかったけど、失敗と言って現実を悲観しないでください』と伝えてくれました」

 規定では、今季19試合目のニッポンハムレディス(7月7~10日)終了時、シード選手及び当該年度優勝者以外は、メルセデス・ランキングのポイント順に並び替えられる。これが第1回リランキングで、新順位は20試合目の大東建託・いい部屋ネットレディスから29試合目のミヤギテレビ杯ダンロップまで適用。同戦終了時で第2回リランキングとなり、日本女子オープンを挟んで31試合目のスタンレーレディスから適用になる。

 雄士さんによると、その流れも踏まえ、高橋さんは「19年の稲見プロを手本にしていきます」と姉妹に伝えたという。

 18年度のプロテストに合格した稲見は、同年の最終QTに進めず、同ランキング103位で19年シーズンを迎えた。しかし、前半戦7試合に主催者推薦で出場し、1012万7333円を獲得。リランキング14位(昨季までは賞金ランキング順)に入り、後半戦への出場、ツアー初優勝、シード権獲得に繋げている。

 高橋さんの言葉で、「希望」を感じた姉妹だったが、主催者推薦は容易には決まらなかった。高橋さんの勤務する事務所や岩井のスポンサー関係者は、主催、特別協賛の企業、広告代理店にコンタクト。アマ時代から注目された双子姉妹で、千怜が9社、明愛が8社のスポンサーがつく話題性はあったものの、交渉は苦戦したという。雄士さんは、高橋さんらの奮闘を振り返りながら言った。

容易ではない推薦の獲得…「決まりかけてもNGに」

「多くのプロ、アマが主催者推薦の枠を狙っているわけで、全くチャンスがない試合もあったそうです。決まりかけていたものが、試合が近くなって『NGで』と言われたこともあったと聞いています」

 出場試合の結果、話題性が「次」の可否を決めることもある。スポンサーからの期待も含めて、姉妹は重圧も抱えながらプレー。試合を終えると、推薦を出してくれた大会側に御礼状を書く日々だ。同じルーキーでも、1試合も推薦出場がない選手は少なくない。その現実を知る雄士さんは、高橋さんに深く感謝している。

「高橋さんはスポンサーの皆様との契約にも尽力していただいていますし、マネジャーというより、スーパーエージェントです。ものすごく助けられています」

 当初はツアーの厳しい設定に苦しみ、思うような結果を残せなかった姉妹だが、課題のアプローチ、パター練習を埼玉・嵐山CCで重ねた。そして、明愛は4試合目のパナソニックオープンレディースで初のトップ10入り(7位)。千怜は7試合目のリシャール・ミル ヨネックスレディスで2位に入り、明愛と涙した。アテスト後は「今季はQTを落としてしまって、すごく厳しい状況でやっていたので、うれしい涙でした」。見守った雄士さんは、「小学生の頃からお世話になっているヨネックスさんの大会ですし、よく知るスタッフの方々、ボランティアの皆様の前で、娘たちが頑張れたことが何よりの喜びです」と実感を込めた。

 千怜は、「3位以内に入った選手はツアー次戦の出場資格を得る」の規定で、9日開幕の宮里藍サントリーレディスにも出場する。翌週のニチレイレディスには、姉妹で出場予定。2人にとって、8試合目の主催者推薦出場になる。

 家族、クラブメーカー、スポンサー、コーチ、トレーナー、マネジャー……。選手たちが輝けるのは、支える人たちがいるからこそ。岩井姉妹は、今後も笑顔とプレーで「感謝の意」を示していく。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)