第79回モナコGPは、セルジオ・ペレスが制した。 レース後半はレッドブル勢とフェラーリ勢4台が数珠つなぎの激しいバトルを繰り広げたが、レース前半の混乱の中で首位に立ったペレスがその座を最後まで守りきった。「モナコで勝つというのは、F1ドラ…

 第79回モナコGPは、セルジオ・ペレスが制した。

 レース後半はレッドブル勢とフェラーリ勢4台が数珠つなぎの激しいバトルを繰り広げたが、レース前半の混乱の中で首位に立ったペレスがその座を最後まで守りきった。

「モナコで勝つというのは、F1ドライバーにとって夢だ。まさにその夢が叶ったよ。ホームレース(メキシコGP)以外でこんなに特別なレースはない。最後はグレイニング(タイヤ表面のささくれ)を抱えながらカルロス(サインツ)を抑え込んで、ひとつもミスを犯さないように走らなければならなくて、簡単ではなかった。僕と母国にとって、本当に偉大な日になったよ!」



F1ドライバーの夢であるモナコ優勝を果たしたセルジオ・ペレス

 ペレスが履いたミディアムタイヤは、最初のペースはいいがグレイニングが発生し、それが解消されるまではグリップが失われ、大きくペースを落とす。

 しかし、モナコは抜けない。ごくわずかな要所さえ巧みに抑えてしまえば、コーナーがいくら遅くても勝てる。それがペレスとレッドブルの狙いだった。

「最初は余裕を持ってレースをコントロールできていたけど、突然(グレイニングで)ターン3〜4(マスネ〜カジノ)のアンダーステアがひどくなり、カルロスに追いつかれた。でも、僕はターン8(ポルティエ)からのトラクションがすごくよくて、まだ余裕は持てていた。

 ターン10(ヌーベルシケイン)のブレーキングでミスを犯さないことがとても重要だということはわかっていた。あそこでミスを犯してシケインをカットすれば、ポジションを譲らなければならないから。それがわかっているから、カルロスもかなりのプレッシャーをかけてきたけどね」

 ペレスはデビュー年の2011年から、モナコではめっぽう速かった。初年度は速すぎて予選で大クラッシュを喫したが、実はモナコやバクーなど市街地サーキットを得意としてきたのがペレスだった。

勝利を奪われたフェラーリ

 2位のサインツのほうが明らかにペースは速かった。しかし、決勝直前に激しく降った雨の影響で路面はまだわずかに濡れた箇所があり、オーバーテイクを仕掛けるのはあまりにリスクが大きかった。

「何度か仕掛ける寸前までいったよ。でも、イン側はまだ少し濡れていた。それにチェコ(ペレス)はものすごくブレーキングを遅らせていた。もし僕がもっとブレーキングを遅らせれば、僕は止まりきれずに彼もろとも道連れにしていたはずだ。僕も特にリアタイヤのグレイニングがひどくて、トンネルの立ち上がり(ポルティエ)で接近したまま立ち上がっていけなかった」(サインツ)

 その結果、トップ4台の接近バトルは動きがないままチェッカードフラッグを迎え、全車がドライタイヤに交換してからのレース後半はひとつもオーバーテイクがない、というレースになった。

 さらに言えば、フェラーリ勢はマナーの悪い周回遅れに抑え込まれたことで勝利を奪われた。

 サインツはハードタイヤに交換した直後の22周目、青旗が提示され続けているにもかかわらずターン3からターン8の出口までニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)に抑え込まれ続け、翌周ピットインしたペレスに逆転を許してしまった。サインツのラップはシャルル・ルクレールより1.5秒、マックス・フェルスタッペンより2.8秒も遅かった。

「彼の後ろでターン3、4、5、6、7、8と走らなければならなくて、ターン8を抜けてトンネルへ向かうところでようやく彼は道を譲ったんだ。でも、その時にはすでに僕はタイヤのウォームアップを失っていて、スリックタイヤに交換して得るはずのゲインを得ることができなくなってしまった。

 僕はグリッドで最も遅いクルマに引っかかって、(翌周ピットインした)チェコの前にとどまるチャンスを奪われてしまった。僕らはやるべきことをすべて正しくやったけど、アウトラップでひどい周回遅れのマシンに引っかかったことで勝利を失ったんだ」

 ポールポジションのルクレールも、20周目にアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)に抑え込まれ続け、フェルスタッペンより3.3秒も遅いラップになった。

タイヤのチョイスを間違った

 追い抜きが極めて難しいモナコだけに、周回遅れのマナーが勝敗を左右してしまう。しかし、これは明らかにレギュレーション違反であるにもかかわらず、スチュワードは審議対象としなかった。それ以外にも「悪質な"インピーディング(走路妨害)"はいくつもあった」とドライバーたちは口を揃えている。

 ルクレールはウエットコンディションで始まったレース前半をリードし、5秒以上のギャップを築き上げて、悲願の地元優勝に向けて完璧なレースを見せていた。ウエットタイヤのまま粘り、路面が乾いてきたところで直接ハードタイヤに交換すれば、首位にとどまることができる。たとえ5秒速くても抜けないモナコだからこその戦略だ。

 しかし16周目にいち早くインターミディエイト(浅溝)へ交換したペレスのペースが予想以上に速く、フェラーリはペレスの鼻先を押さえるために18周目にルクレールをピットインさせた。だが、ペレスの前にとどまることができず3位に後退してしまい、フェラーリの目論見はここで大きく外れてしまった。

 フェラーリのマティア・ビノット代表は、自分たちの判断ミスを認めた。

「我々は明らかに判断ミスを犯した。最初のミスは、インターミディエイトタイヤの速さを過小評価していたことだ。我々は少なくとも1周早くシャルルをピットインさせるか、そうでなければエクストリームウェットタイヤのままステイアウトして(インターミディエイト勢のほうが速くて追い着かれても)トラックポジションを守り、直接ドライタイヤに交換するべきだった」

 これでフェラーリは、いずれ迎えることになるハードタイヤへの交換時には何としてもレッドブルよりも先にルクレールをピットインさせ、"アンダーカット"をしなければならなくなった。

 それが21周目の混乱につながった。

 路面は急速に乾いていき、アンダーカットを狙うフェラーリは慌ててピットインの指示を出す。ペレスより先にピットインしなければ、ルクレールはアンダーカットで逆転できない。同時にウエットタイヤのまま首位にとどまるサインツも、ペレスより先にピットインしなければアンダーカットされてしまう。

 その結果、2台が同じ21周目にピットインすることとなり、サインツの後方で待ち時間が生じたルクレールはタイムロスを喫し、翌周ピットインしたフェルスタッペンにまで逆転を許すことになってしまった。そしてサインツも前述の周回遅れによってタイムロスを喫し、翌周ピットインしたペレスに逆転されてしまった。

完璧なレースをしたペレス

 フェラーリは自分たちの判断ミスと外的要因によって、勝てたはずのレースを落とした。

「今日の僕らには、勝つためのすべてが揃っていた。第1スティントのペースは強力だったし、僕はすべてをマネージメントして、すべてが非常にうまくいっていたんだ。でも、状況は僕らにとって真逆の方向に進んで、こんな結果になってしまった。

 母国レースだけに、余計に落胆している。つらいよ。でも、起きたことはどうすることもできないし、チームとともに何が起きたのかを分析し、改善し、強くなるしかないんだ」(ルクレール)



レッドブルとフェラーリは対照的な結果となった

 ルクレールはドライバーとして完璧な仕事をしていた。ビノット代表も、今年のモナコGPはルクレールが勝つはずのレースだったと語った。

「我々は不運だったとは思わない。運・不運で今日の勝利を逃したわけではない。自分たちの判断ミスのせいだ。モナコのようなサーキットでレースをリードしているのなら、そのポジションにとどまり続けるべきなんだ。4位でフィニッシュすることになったのは、我々がミスを犯したことを意味している。つまりこれは運・不運の問題ではない。今日、我々は勝つことができたはずだった」

 逆にレッドブルとペレスは完璧なレースをした。

 いち早くインターミディエイトに換えたことで大きくタイムを稼ぎ、フェラーリの判断ミスとサインツの不運に乗じて首位に立ったあとは、一切ミスのない走りを64周にわたって繰り広げた。アグレッシブな戦略とモナコを知り尽くした完璧なドライビングが勝利を手繰り寄せたのだ。

 隠れたモナコマイスターがついに頭角を現わした。そんな2022年のモナコGPだった。