国内モータースポーツ最高峰のカテゴリーが「スーパーフォーミュラ」と「スーパーGT」。その頂点を目指し自らと向き合うレーシングドライバー伊藤慎之典選手。今年から“モータースポーツ界の甲子園”と言われる「FIA-F4選手…

国内モータースポーツ最高峰のカテゴリーが「スーパーフォーミュラ」と「スーパーGT」。その頂点を目指し自らと向き合うレーシングドライバー伊藤慎之典選手。今年から“モータースポーツ界の甲子園”と言われる「FIA-F4選手権」に参戦し虎視眈々と上位カテゴリーを狙う。前編は生い立ちから初レースの思い出について伺った。

■幼い頃はサッカー少年

――伊藤さんの出身地はどこですか?

伊藤 慎之典(以下 伊藤):福島県いわき市です。海もあれば山もある自然豊かな地域。東北なのに雪が降ることもほとんどない温暖なエリアです。実家は「国元屋」という一軒宿の旅館になります。

――小さい頃はどんな子供でしたか?

伊藤:幼稚園の頃からサッカーをやっていました。その幼稚園に外部からコーチが来て水泳かバレエ、サッカーの中から一つの競技を教えてくれるんです。園庭でできるのはサッカー競技。僕はサッカーを選択し高校まで続けました。

――今年度からいわきFCがJ3で戦うことになり、地元は盛り上がりですよね。

伊藤:現在千葉に住んでいるので地元の盛り上がりを肌で感じることはできませんが、素晴らしい活躍ですよね。僕の出身中学は「いわき市立小名浜第二中学校」、約30年前は全国大会の決勝戦を争う強豪チームでした。でも僕の在籍時、全国大会に出場できるチームではなかったですね(苦笑)。

■モータスポーツに目覚めたキッカケ

――ところでモータースポーツを始めたのはいつでしょうか?

伊藤:高校に入ってからです。中学まではサッカーにのめり込んでいました。高校生になりサッカーとモータースポーツ両方やっていたので「サッカーに100%情熱を注ぐこと」はできませんでしたね。

――サッカーにのめり込んでいた伊藤さんがモーターレースに目覚めたキッカケを教えてください。

伊藤:中学2年生の時、テレビでレースを観たのがキッカケです。父は昔サーキット会場に行ったことがあり、宮城スポーツランドSUGOに僕と弟を連れて行ってくれました。観戦したのは国内最高峰のレース「スーパーGT」、簡単にいうと市販されている車を改造してレースが行われます。サーキット場で聴こえるエンジン音や迫力に魅了され、「レーサーになりたい」と思いました(笑)。

その気持ちをすぐに親に伝えました。親も色々調べてくれ、モータースポーツをやる上で条件を出されました。

――それはどんな条件ですか?

伊藤:まずは「高校に合格すること」、当たり前ですよね(苦笑)。それで受験勉強に励みました。無事に合格し高校1年からモータースポーツデビュー。

ただ、いわきはサーキットで練習するには難しいエリアです。北は宮城のスポーツランドSUGO、南は栃木のツインリンクもてぎ。ここまで行かないとコースがなかった。

そこで栃木のツインリンクもてぎを練習場所に選択しました。関東は東北に比べてチーム数も多いですから。

――高校に入学してから練習の頻度のどのくらいでしたか?

伊藤:平日は学校があるので、練習は週末に限られてきます。高校1年の時は弟が中学3年で受験を控えていたため、月2回。隔週末サーキット場で練習していました。

――隔週末、サーキット場で練習。他の日はどんな練習をしていましたか?

伊藤:高校入学時は平日サッカーをしていました。途中からジムに通い、ランニングや筋トレ等、レーサーとして必要な身体作りをしました。

弟が高校に入学し、僕が高校2年に進学。この頃は毎週末、どこかのサーキット場で走っていましたね。

■レース中の感覚

――レース場で使う車は現地でレンタルですか?それとも毎回運ぶのですか?

伊藤:毎回運びます。大型のワンボックスカーに父と2人で解体した車を載せ、サーキット会場で組み立てます。レース後、軽く掃除をして解体し載せて帰宅。これが毎週でした(笑)。

――それはかなり大変な作業ですね(苦笑)。ところで伊藤さんが参戦していたのは何というレースですか?

伊藤:国内で最も普及しているカートレース「SLカートミーティング」です。マリオカートをイメージして頂ければと思います。

――カートレースはアイルトン・セナやミハエル・シューマッハが幼い頃経験していますよね。どのくらいのスピードが出るのですか?

伊藤:コースの直線距離の長さにもよりますが約135キロでます。体感スピードで200キロ前後だと思います。

――すごいスピードが出るんですね。怖くないですか(苦笑)?

伊藤:カートに乗り始めた高校1年の頃は、少しだけ「怖いな」と感じました。ただ半年も乗ると「楽しい」が上回りましたね(笑)。どんなクラスの車でも1回目は慎重になりますが、2回目以降は「楽しい」が「怖い」を超えます。

――レース中、「時間が止まったように感じる」と聞くことがありますが…

伊藤:時間が止まった感じかどうかは分かりませんが、縁石の色が何色か分かります。だから時間が止まっているように感じているのかも知れません。縁石の色が赤と白交互にある場合、「何番目の赤を狙ってコーナーを曲がろう」と考えますね。

――レース中はかなり神経が研ぎ澄まされているんですね。

伊藤:意識したことはありませんが、そうだと思います(笑)。

■本格的なレース参戦

――初めてレースに出場したのはいつですか?

伊藤:本格的なのは高校1年、2015年11月頃もてぎカートレースで行われましたレースです。それ以前は各チーム主催のアマチュアレースを「草レース」と言います。この草レースに練習を開始して3回目に出場しています。

――それは「レース勘」を養うためのものでしょうか?

伊藤:そうです。草レースで初めて他のドライバーと競い合った時、「怖い」と感じました。カートに乗ることは楽しいけど、「抜いた」「抜かれた」のバトルがあります。カートとカートの距離が1cmくらいまで近づく。その時、相手のタイヤがすぐ隣で回っている。冷静になり「少しでもぶつかれば車体が飛んでしまう」と(苦笑)。ただレースを繰り返すことで、少しずつ慣れていきました。

――そういった経験を積んで高校1年の11月に本格的なレースに出場しました。やはり草レースとは違いますか?

伊藤:全く違います。草レースは車検もないですし、誤解を恐れずに言うと「ゆるいレース」です。当時チームに所属していましたが、実質メカニックは父1人。年末に参戦した本格的なレースは、ドライバーのレベルも高いし何をしていたのか記憶がないです。ただあたふたしていました。気がついたらレースが終わっていましたね(苦笑)。

――それは苦い思い出ですね。

伊藤:はい、苦い思い出です(笑)。そのもてぎカートレースがシーズン最終戦でした。シーズンオフに入り翌年の開幕まで「自分」と向き合いました。

高校1年の時、レースは参加したりしなかったりしていました。それではレース勘が掴めない。年末の最終戦終わりで「来シーズンは継続的にレースに出場する」と決めました。

それ以外にも「レースの時、何がいけなかったのか?」を考え、問題点を一つずつ書き出しました。そしてシーズンオフ、最終戦のコースに何度か練習に行き、問題をクリアするように取り組みました。

――レース環境に振り回されないようにする3ヶ月ということでしょうか。

伊藤:はい、あくまでメインは「レーシングドライバーとしての自分のタイムを伸ばすこと」です。とにかく少しずつタイムを詰めていくことを考えました。父も仕事を抱えながら一生懸命メカの勉強をしてくれました。僕も父も初心者です。とにかく二人三脚でやりました。あの頃はやりたいことは分かるけど、作業が遅くてやれないことが多かったですね(笑)。

<後編に続く>

伊藤 慎之典/イトウ シンノスケ 福島県いわき市出身
いわき秀英高校卒業
千葉工業大学在学中
所属:HRT&チャリ走GO!KART!/KART
  :TAKE FIRST(鈴鹿)/ZAP SPEED

レーシングカー履歴
2015年 カートを始める
2016年 各地SLシリーズ参戦
2017〜2019年 全日本FS-125参戦
2018,2019年 ROCKUP(イタリア)参戦
2020年 全日本OKクラス参戦

フォーミュラー履歴
2020年 S-FJ日本一決定戦
2021年 鈴鹿シリーズ参戦中
2021年 もてぎ・菅生シリーズ参戦中

取材・文/大楽 聡詞
写真/本人提供