モナコGPはF1のなかで、唯一無二の特別なグランプリだ。 伝統の格式だけなら、モンツァにも、シルバーストンにも、鈴鹿にもある。しかし、モナコはすべてがガードレールに囲まれ、一切のミスを許容しない。歴史や華やかさといった外見だけでなく、技術…

 モナコGPはF1のなかで、唯一無二の特別なグランプリだ。

 伝統の格式だけなら、モンツァにも、シルバーストンにも、鈴鹿にもある。しかし、モナコはすべてがガードレールに囲まれ、一切のミスを許容しない。歴史や華やかさといった外見だけでなく、技術的な面でもほかのどのレースとも違う、特別な存在なのだ。



ガードレールに囲まれたモナコのコースを走る角田裕毅

 モナコ出身で地元優勝を目指すシャルル・ルクレール(フェラーリ)は、こう語る。

「モナコはベストなサーキットのひとつだと思う。予選アタックに関して、こんなに楽しい場所はないよ。ガードレールが近く、危険で、速さの衝動を感じることができる。ドライバーの腕が違いを生み出せるサーキットだし、予選という意味では最もエキサイティングなサーキットだと思う。

 あんなにアドレナリンが湧き出るサーキットはないんだ。オーバーテイクという点では最高のサーキットではないだろうけど、ドライバーにとってのチャレンジという意味では最も難しいサーキットだ」

 幼い頃からルクレールとともにレースをして育ったピエール・ガスリー(アルファタウリ)は、モナコの難しさをフレンチキスに例える。

「ウォールにキスをするのはいいけど、フレンチキスをしてしまうと、おしまいだよ(笑)。ギリギリでウォールを擦るのはいいんだ。でも、ステアリングを通してそれが感じられるくらいだと、それはもうインに入りすぎだ。

 外から見ているのでは想像もできないようなスピードでターンインして、その瞬間にマシンがスライドしていって、風でマシンバランスが変化することもあって、そのなかでマシンを正確にコントロールしなければならない。

 マシンの性能を信頼して飛び込みながら、それと同時にいろんなことを感じながら瞬時に反応して、マシンをコントロールする。すごく難しいチャレンジだけど、だからこそエキサイティングなんだ」

 もちろん、フリー走行からそんな走り方をするわけではない。むしろモナコでは通常のサーキットよりも格段に抑え、マージンを残して走らなければならない。

角田は新たなアイデアを用意

 ガスリーは続いて、こう語る。

「普通のサーキットなら、100%のペースで走り始めて、少し限界を超えてしまったら戻せばいい。スナップしたり、ロックアップして真っ直ぐ行ってしまっても、普通のサーキットなら問題ない。

 でもここでは、たとえばターン1のブレーキングが2メートル遅れたらアウトだ。5センチでもイン側に入りすぎれば、ウォールに当たってサスペンションが壊れる。

 だから、モナコGPのアプローチはいつもとは少し違って、95%からスタートしてラップごとにプッシュしていく。そうやって気持ちよく走れるようにビルドアップしていくんだ。そうじゃないと、モナコのナイフエッジのようなドライビングはできないよ」

 角田裕毅(アルファタウリ)はモナコ初挑戦となった昨年、FP2でクラッシュを喫して大きく勢いを失い、レース週末全体をフイにした。今年はその経験を生かして、成長ぶりを見せるつもりだ。

「モナコなのでほかと違った部分はありますし、去年の経験があるのでどういうアプローチをすべきかというアイデアもあります。ほかのサーキットでもFP3まで100%を出すことはありませんけど、もちろん最初は抑えていきます。

 でも、そんなに抑えすぎるわけにもいかない。去年の経験を生かしてどこまで抑えるかだったり、抑えるべきポイントは抑えてプッシュすべきポイントはプッシュする、という感じです」

 スペインGPでは重箱の隅を突くようにして10位入賞を掴み獲ったが、マシンのパフォーマンス不足は確かだった。それは、より低速サーキットのモナコでも変わらないだろうと角田は覚悟している。

「バルセロナでのバランスを見るかぎり、それが急に180度変わるようなことはないと僕は思っている。なので、厳しいだろうと覚悟はしています。モナコは特殊なセッティングをするので、バルセロナほど厳しい戦いになるかどうかはわからないです。だけど、クルマ自体にどこまでペースがあるか、普通とはまったく違うサーキットでどういう動きをするか、それは走ってみなければわからないと思います」

モナコは些細なミスが命取り

 モナコは特別なセッティングが必要とされる。低速コーナーを速く走るしなやかさと、意外と多く存在する回り込むような中高速コーナーで安定した空力性能を発揮するサスペンションセットアップ。それに加えて、サーキット各所にあるバンプをうまく乗り越えることも重要になる。

「モナコは路面がバンピーなので、中高速コーナーであまり跳ねるマシンでも困ります。なので、低速コーナーの速さと中高速コーナーで跳ねないバランスを見つけ出す必要があります。低速コーナーを意識しすぎると、中高速コーナーで大きくタイムロスすることになるんです。最終的には少し硬めの脚回りのセッティングに行くことになります」(角田)

 今年はグラウンドエフェクトカーで走る初めてのモナコとなる。どのチームもフロア下でダウンフォースを生み出すグラウンドエフェクトを最大限に高めるために、サスペンションは従来よりも硬めの仕様となっている。これがモナコの特殊な路面でどんな挙動を示すのか。

 どのチームも金曜フリー走行でじっくりとデータを収集し、土曜の予選までにしっかりと煮詰めていくことになる。日曜には雨の予報もあるが、降水確率は改善の方向へと向かっている。

 昨年はマックス・フェルスタッペンがモナコ初優勝を挙げた。今年はルクレールがこれまで不運続きの地元優勝をはっきりと視野に入れている。

「僕らが最も強いのは中速コーナーで、ここはあまり中速コーナーが多くない。でも、基本的に僕らのマシンパッケージはどのサーキットでも強力だと思う。

 ここで僕らが最有力候補かどうかはわからないけど、去年は全体的にはそんなにコンペティティブではなかった僕らがここでは最速だったように、今年もサプライズがあるかもしれない。誰も予想していなかったようなチームが、モナコでは最速かもしれない。でも、僕たちが優勝争いできることは間違いないと思っているよ」(ルクレール)

 モナコに"絶対"はない。ほんのわずかなミスが命取りともなり得る。だからこそ、新人も優勝候補も一歩ずつ予選・決勝に向けてビルドアップをしていく。

 どんなレースになるのか、特別なグランプリなだけに予選のその瞬間を迎えてみるまで、まったくの未知数だ。