今年の箱根駅伝では9区を走った東洋大・前田義弘主将 今年の関東インカレ(5月19~22日/国立競技場)で選手の活躍が目立ったのが、東洋大だ。 昨年、1部男子長距離種目は、31年ぶりに入賞者ゼロ、得点ゼロという屈辱的な結果に終わった。だが、今…



今年の箱根駅伝では9区を走った東洋大・前田義弘主将

 今年の関東インカレ(5月19~22日/国立競技場)で選手の活躍が目立ったのが、東洋大だ。

 昨年、1部男子長距離種目は、31年ぶりに入賞者ゼロ、得点ゼロという屈辱的な結果に終わった。だが、今年は33点を獲得し、2位の早稲田大に9点差をつけてトップ。男子総合優勝には届かなかったが、トラック優勝に貢献するなど、「東洋復活」の印象を与えた。

「今回の関東インカレの結果で言えば、初日の1万mで児玉(悠輔・4年)、松山(和希・3年)、佐藤(真優・3年)の3人が入賞してくれたのが大きかった。そこで勢いがつきました。引っ張ってくれた児玉にはすごく感謝したいです」

 前田義弘主将(4年)は、笑みを浮かべて、そう語った。

 大会初日となる1万mで児玉が3位、松山が6位、佐藤が7位と3人が入賞し、チームに流れを作った。総合優勝は、大会4日間のトラックとフィールド競技のポイント数で決まるのだが、駅伝にも似て、最初にいい流れができると、それに乗ってその後の競技でも好結果が出る傾向にある。3人は、まさにその流れを作ったと言える。

 その後、1500mでは及川瑠音(4年)が4位に入賞、ハーフマラソンでは、2位に梅崎蓮(2年)、5位に木本大地(4年)、8位に前田(4年)の3名が入賞し、ポイントを稼いだ。5000m予選では、九嶋恵舜(3年)、緒方澪那斗(1年)、西村真周(1年)の3人が揃って決勝進出を決め、その決勝では、九嶋が4位に入り、3000m障害以外の長距離種目すべてで得点を稼いだ。

「昨年は、長距離ポイントがゼロだったので、みんな、今回は絶対に結果を出さないといけないという気持ちがすごく強かった。チームが関カレ、全日本(大学駅伝)の予選会という大きなレースに標準を合わせてやってきて、ひとつ結果が出たのはチームにとっても自分にとっても自信になりました」

 5000m4位で、東洋大のトラック優勝を決めてガッツポーズを見せた九嶋は、そう語る。

1年生ふたりが決勝進出

 個人的に目についたのは、ルーキーだ。東洋大の1年生が関東インカレで走るのは、2017年の西山和弥(現トヨタ)以来になる。5000m決勝で緒方は15位、西村は23位で入賞とはいかなかったがふたりとも予選を突破し、決勝進出したのは大きい。九嶋は、「まだ、これからですが、緒方は予選8位で突破し、西村は決勝では前で勝負して、ともに東洋らしい走りを見せてくれた」とふたりの頑張りを認めていた。昨年の石田洸介(2年)のようなスーパールーキーではないが、ふたりともに気持ちが強く、今後が楽しみな1年生だ。

 緒方は市立船橋高校出身で鉄紺のユニフォームに憧れ、東洋大に入学してきた。

「東洋大での憧れの先輩は服部勇馬(トヨタ)さん、高校の先輩では渡辺康幸(住友電工監督)さんです。高校時代は、渡辺さんが持つ1万m28分35秒8の高校記録を抜きたかったんですけど、1秒届かなかったので悔しかったですね。自分の強みは粘り、ラストスパートにも自信あります」

 大学に入学後、調子はあまりよくなかったが、5月4日GGN(ゴールデンゲームズ in のべおか)の5000m(14分08秒97)で大学デビュー戦を飾り、関東インカレに向けて調整してきた。

「GGNは昨年12月以来のレースになり、試合間隔があいてスピードに対応できなかったです。今はレースに出て、感覚を戻している途中です。今回、予選、決勝と三浦(龍司・順大3年)選手と走ることができたのは光栄でした。最初からずっと先頭にいたので、自分の目の前でのすごさを感じることはできなかったですが、スクリーンを見てて、めちゃ余裕でラストはすごかったです」

 学生界のみならず日本陸上界屈指のスピードランナーである三浦に刺激を受けた。これからはまずキレを戻し、トラックで結果を残して駅伝シーズンにつなげたいと言う。

「3大駅伝は全部出場して1年目から区間賞を獲りたいです。箱根は、4区か8区を目指しています。上り基調のコースが得意なので、できれば往路を走りたいですね」

 今年の1年生は、全10名。5000m、13分台のタイムを持つのは緒方(13分54秒45)、西村(13分55秒92)、吉村聡介(13分53秒90)の3人だが、現在、Aチームで活動しているのは、緒方と西村、網本佳悟の3名だ。

「1年生は、人数がちょっと少ないんですが、みんな先輩たちに食らいついて、多少は刺激を与えることができているのかなと思います。西村は一緒に練習をしているので、ライバルですけど、仲間ですし、いずれ自分たちが主役にという自負があります」

 緒方は、まだ高校生のフレッシュさが残るが、非常にポジティブでファイティングポーズを崩さない姿勢が頼もしい。

 西村(自由ケ丘高出身)もまだ初々しいが、5000m決勝では三浦の背後につき、果敢に攻めた。

「予選は守りの走りになってしまったので、決勝では攻めて、行けるところまで挑戦しようと思いました。3キロで急に体が動かなくなってしまいましたが、攻めた結果なので後悔はしていません」

 結果は、23位に終わったが、酒井俊幸監督に「予選はプラスで拾われたんだからチャレンジ精神を持って走ってこい」と言われたことは、走りで示すことができた。

「緒方は予選を見て、強いなと思いましたが、ライバルなので負けたくないですね。ようやく練習や寮での生活にも慣れてきたので、今後は課題のフィジカルを克服して、3大駅伝に絡んでいきたいです。箱根は6区が希望です。下りが得意で、今年は自分がという気持ちでいます」

今後の課題は中間層のレベルアップ

 西村や緒方が伸び伸びと走れるのは、前田主将がチーム全体の風通しをよくして、しっかりとまとめているからだ。その要因のひとつとして、ミーティングの回数が非常に増えたことが挙げられる。同学年だけではなく、各学年の間でコミュニケーションが取られるようになり、より意思疎通がはかれるようになった。その流れで下級生が上級生に意見を伝えられる環境にもなった。たとえば「1年生はこう思っているのですが」と伝えることで、その学年や選手が何を考えているのか把握できるようになったのだ。

 練習面では前回の箱根の前に低酸素ルームが設置された。選手は週2、3回、10キロ程度走って心肺機能を高めている。また、治療器具なども充実し、練習における環境が昨年よりも良好になっていることもプラスに働いている。

 前田は、チーム内にポジティブな変化を感じている。

「例年以上にチーム全体でやっていこうという雰囲気が生まれていて、士気が高く、昨年できなかった練習にも取り組むことができています。手応えとしては個々の走力もチームのまとまりもここ数年で一番いい。だからこそ今回の関カレで、長距離で点数がとれているのかなと思います」

 東洋大は、他校ほどレースや記録会に参加しないスタンスで、チーム状況が見えにくいが、関東インカレの結果を見る限り、ここまでは順調のようで箱根駅伝に向けて視界良好だ。

 ただ、課題がまったくないということではない。

「チーム状態はいいのですが、中間層がまだまだですね。松山や石田に頼りきってしまうとダメなので、自分はもちろん、中間層がもっと力をつけていかないと箱根の優勝は難しい。正直なところ、まだまだなので、これから残りのトラックシーズンや夏合宿を経て、どこまで上がっていけるのか。それが東洋の今後の課題ですね」 

 九嶋は、厳しい表情で、そういった。

 前田主将も勝って兜の緒を締めよというスタンスでいる。

「関カレでひとつ結果を出せましたが、これから全日本(大学駅伝)の予選があります。トップ通過を目指していますが、今、よくても先はまだ長いですし、油断をしてはいけない。昨年は出雲で3位になりながら全日本は10位でシード権を失いました。チームの目標である箱根駅伝総合優勝をするためには、全日本で優勝争いをしないと話にならない。そこで結果を出して、いい状態で箱根に臨みたいと思います」

 前回の箱根駅伝は総合4位。そのメンバー10名中8名が残っている。往路のメンバーである児玉、松山、佐藤、木本、復路の九嶋、梅崎、前田が今回の関東インカレで入賞した。主力組は、順調にここまできており、これに石田、さらに1年生が加わってくると選手層の厚みが増す。

 男子2部で長距離種目トップを果たした青学大も好調だが、今年の東洋大はチームが活性化し、新しい風が感じられる。関東インカレで見せた強さが、秋にどう実るのか。鉄紺の疾走が楽しみだ。