今シーズンのヤクルトは序盤で優位に試合を進めていても、見ていて息苦しくなる展開が実に多い。追加点の絶好のチャンスを潰したかと思えば、エラーや四球が重なりたちまち絶体絶命のピンチ……。このような絶え間ないストレス…

 今シーズンのヤクルトは序盤で優位に試合を進めていても、見ていて息苦しくなる展開が実に多い。追加点の絶好のチャンスを潰したかと思えば、エラーや四球が重なりたちまち絶体絶命のピンチ……。このような絶え間ないストレスからファンを解放してくれるのが、セットアッパーの石山泰稚とクローザーの秋吉亮のふたりである。



開幕からヤクルトの守護神として活躍する秋吉亮 5月15日現在のふたりの成績を見てみたい。

石山/17試合/0勝1敗11ホールド/防御率3.00
秋吉/17試合/4勝2敗5セーブ/防御率2.60

 数字だけを見れば決して圧倒的なわけではないが、8回を任される石山の真っすぐを見たときの安心感。なにより、17試合に登板していまだ1本のホームランも許していない。そして9回に淡々とマウンドに上がり、抜群の制球力で試合を締める秋吉の安定感。開幕から苦しい戦いの続くチームにあって、石山と秋吉は広大な砂漠のなかに見つけたオアシスのような存在なのである。

 石山の投球を語る上でポイントになるのが、”真っすぐの質”だ。球速は147~150キロと特別速いわけではないが、ボールのキレがいいのだろう。奪三振は投球回(18回)を上回る22個を記録している。伊藤智仁投手コーチは今季の石山について、次のように語った。

「シーズンオフのトレーニングが万全だったんでしょう。春のキャンプからすこぶる質のいいストレートを投げていました。当初は先発ローテーション候補でしたが、このストレートを生かすにはリリーフだろうと思い、配置転換を決めました」

 石山自身も「真っすぐがよくなったことがいちばん大きくて、トレーニングの成果ですね」と話し、こう続けた。

「去年、肩とヒジをケガしてしまい、一軍でまったく活躍できなくて……。これではダメだと思い、オフに体づくりを一からやり直したんです。筋量を増やすのが目的で、そのために筋トレやランニングの強度を高めました。一歩先を目指そう、もっと追い込んでトレーニングをしよう、と。今まではトレーニングをしても100%の手前で自己制御していた部分があったのですが、それでは進化しないですし、1年間を戦える体にはならないですから」

―― ここまでは奪三振の多さと、テンポのいい投球が印象的です。

「テンポはそこまで意識していないんですけど、ランナーを出さないとか、四球を少なくするとか、当たり前のことを当たり前にやって抑えたい。三振は取ることで流れが変わることがあるので、狙いにいくときはあります。ただ、今はオフのトレーニングの貯蓄じゃないですけど、自分の納得いくストレートを投げられていますが、シーズン中はオフのように追い込めないので、どこまで今の状態が続くのか……本当に悩んでいます」

 そう不安を口にする石山だが、橘内基純(きつない・もとずみ)トレーナーは「体の柔軟性が変化しないよう、また筋力の低下を抑えられるよう、シーズン中のレベルアップを図ったトレーニングをしています」と教えてくれた。

「石山を見ていると、オフからのトレーニングでの成長がわかります。そして石山は、普段の動きを見ていても、まだまだ伸びる要素がたくさんあります。伸びとして大きな時期に入っているので、ひとつひとつの課題をつぶしていきたいと考えています」(橘内トレーナー)

 その石山が8回を抑えれば、9回のマウンドは秋吉である。昨年の夏前からクローザーを任され、今シーズンはヤクルト不動の守護神として活躍している。石山は秋吉についてこう語る。

「心強い存在ですよね。(僕が)投げ終わったあとは、本当に安心して見ていられます」

 今シーズンの秋吉のピッチングを見ていると、これまでの経験を生かした実に”味のある投球”を見せている。そのことを秋吉に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「この3年間でダメだったところを修正できているので、抑えられていると思っています。たとえば、一発を浴びてはいけない場面で、その打者と勝負するのか、それとも次の打者と勝負するのか……とか。まずはそこを考えて、打者と対戦するときは低めにしっかり投げる。ほかの選手もそうだと思いますけど、同じ失敗を繰り返したらこの世界ではやっていけないですし。WBCの経験も生かされて、シーズンに入れていると思います」

 秋吉は5月13日の中日戦で、ビシエドに逆転3ランを浴びてしまったのだが、それは今シーズン初めて許した被弾だった。伊藤コーチは「チームに秋吉以上の抑え投手はいない」と全幅の信頼を寄せている。

「いろんなことを経験して、状況に応じたピッチングができていますよね。彼の強みはとにかくタフで、いくら投げてもへこたれないこと。それに、自分から崩れることがありません。調子が悪いときでもある程度のパフォーマンスを発揮してくれますし、1イニングをしっかり抑えてくれる。チームにとっては、マウンドに送り出しやすいピッチャーですよね」(伊藤コーチ)

 神宮球場のブルペンは観客席からも見える場所にあり、石山と秋吉がピッチング練習を始めると、それは重苦しい雰囲気から解放されるサインでもある。

「石山は真面目なんです。3~4点ビハインドでもすごい準備をします。もうちょっとリラックスしてほしいぐらい、ビュンビュンと投げてくる。今シーズンのブルペンの合言葉は『いい準備をして、明日を考えずに今日に臨む』なのですが、まさにその言葉通りです。一方の秋吉は、経験もあるし、メンタルが強く闘志を表に出さないところがすごいですよね」(江花正直ブルペン捕手)

 チームは5位からなかなか抜け出せないでいるが、極度の不振に陥っていた山田哲人やバレンティンに復調の兆しが見え、昨年総崩れした先発陣もここまでクオリティスタート(※)はリーグ3位と好調だ。打線、先発陣、そして石山、秋吉を筆頭としたブルペン陣の歯車がかみ合えば、自然と勝利を重ねていけるはずである。
※クオリティスタートとは、先発投手として6イニング以上を投げて自責点3以内に抑えること